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☆第百二十五話 女王について☆
しおりを挟むケモぐるみ形をした蜃鬼楼たちの話した内容は、章太郎には、理解が出来ないでいた。
「ええと…キミたち蜃鬼楼の女王の暴走を止める為には…女王を切り刻む…の?」
章太郎の問い返しに、リスぐるみの蜃鬼楼が答える。
「詳しくは、道すがらでお話をさせた戴きたく思いますわ。まずは、蜃鬼楼の世界へと、ご案内したく思いますわ」
「え、あぁ…はい」
桃太郎たちからも納得を得ると、三体の動物コスな小美人たちが、転移の輪の縁で三箇所に別れて留まって、お互いに両腕を伸ばし、輪に繋がった。
「それでは~、転移の術式を~、始めます~」
タヌキぐるみ蜃鬼楼の合図に従って、リスぐるみ蜃鬼楼とウサギぐるみ蜃鬼楼も、眼を閉じて呪文を詠唱開始。
「「「がうぅぅぅぅぅ、がぅ、がぁうぅ、ぅがぐぁがあああああ。ごふぐおお、ガヴ、ごおおぐぁあぅ、ぅがぅぐおおおおお…」」」
呪文というより、普段戦っている敵意ある蜃鬼楼たちの咆吼にも似た、叫び声みたいに聞こえる。
「…呪文…?」
「ね~金ちゃん~、なんか 変わってるね~♪」
「う、うん…」
章太郎たちの疑問に、かつて蜃鬼楼の攻撃の影響により、蜃鬼楼の気の善悪が判断出来るようになった雪が、答える。
「蜃鬼楼独特の 言語体系のようです…。動物たちの声に近い、音階の上下や強弱などによるに意志の種類と聞き分けられますが…人間や私たちのような、明確な意志を言語化しているワケではないようです…」
つまり、感情や周囲の情報などを伝える為の、同じ種類の動物同士の鳴き声とかに近い。
「…って事?」
「はい」
と言われて、ブーケたちも、思い出してみると。
「…たしかに。初めて敵意のない蜃鬼楼が現れた時も、言葉として意志を伝える事が出来たのは、蜃鬼楼がユキを攻撃して、ユキの血液と聖力を吸収してから…だったものな」
「あ~、そういえば~」
「ユキ、前に怪我したのか?」
「ユキお姉さま、大丈夫だったですか?」
「あ、はい♪」
当時はまだ出会っていなかった月夜や翠深衣も、雪の心配をしていた。
御伽噺の少女たちが怪我をした場合でも、章太郎の聖力補充で、完全回復が出来る。
「…これから、女王との戦いだからな…」
有栖には近くにいて貰って、ドリンクか何か作って貰い、常に聖力の源たる栄養補給を考えるベキか。
とか思考しているうちに、詠唱が完了。
「「「…ぐるがががあああ…がおおおおっ!」」」
恐ろしさというより可愛らしさしか感じられない三人の咆吼が終わると、円孔そのものが眩しく輝いた。
「っぉおお…? この感じ…!」
思い当たって有栖を見ると、メイド少女も、同じ感想を持ったらしい。
「はい、主様。主様たちが転移をされる場合の発光現象と、とてもよく似ていると、有栖も感じます」
童話世界へと転移が出来るのは、蜃鬼楼の影響でメイドロボからメカ生体へと変化をした有栖の、特殊能力だ。
しかし忠臣召使いを誇る有栖にとって、自分の全ては主である章太郎の所有であり、異界への転移も章太郎の命令で実行をするので、先のような伝え方となる。
三体のケモぐるみ蜃鬼楼たちもサークルへ入ると、眩しい光が強くなり、一気に縮んで消えて、桃太郎の童話世界から消失をした。
そして、転移中の章太郎たちの視界には。
「…有栖と転移する時は、目が開けてられないくらい、眩しくて暖かい光だったけど…」
球体な光に包まれたサークルは、なにやら見た事のない空間の中を、上下左右前後の感覚もなく、しかし確かに移動をしていた。
「これって、いわゆる移動中の異空間って、事…?」
空間というか、様々な色がマーブルのように混ざり合った中を、光の球体が掻き分けて進んでいる感じ。
茶色や黄緑色なども混ざった液体の中を、透明なガラスのボールで移動をしている感覚だけど、水のような抵抗感とかも、特に感じられなかった。
あきらかに濁った液体っぽい質量の中を進んでいるみたいだけど、マーブル空間の遠くに光の穴が見えたりもして、距離感も質感も、現実世界では存在しないと感じられる。
「某(それがし)たちの移動とも、違うね~♪」
「う、うん…っ!」
桃太郎も金太郎も、なにがしかの方法でお互いの童話世界を行き来しているけれど、その術式とも違う蜃鬼楼たちの移動方法は、やはり通る空間も違うのだろうか。
呆然と周囲を眺める章太郎たちに、ウサぐるみの蜃鬼楼が、先の質問に答え始めた。
「っそれで~っ、章太郎様~っ! 女王様ぅをっ、切り刻む~って、お話なんですけどっも~んっ!」
「え、ああ、うん…っ!」
自分から問うて、つい忘れていた。
光の中は、描かれたサークルよりも少し広く球体になった位の大きさなため、全員が座る事も出来る。
みんなも腰を下ろすと、蜃鬼楼たちが話を続けた。
「女王様は~、お身体の廻りに~、人の意志が~、付着して残るのです~」
「それが 一定の量を超えてしまうと、皆様にご迷惑をお掛けしてしまう、敵性蜃鬼楼となってしまうのですわ」
「へぇ…ってっ、けっこう重要な話だよねっ?」
サラっと、蜃鬼楼発生の秘密が明かされたり。
「つまり~、現在の女王様は~、その意志が~、ものすごく大量に~、付着しちゃってるんですよ~」
と聞かされて、章太郎たちも、なんとなく想像が出来る。
部隊長であるブーケにも、視線で確認を取ると。
「うむ。つまり、その付着物を排除すれば、クィ…ジョオウの暴走は止められる…という話か」
「っはいぃいい~っ! 超正解いい~っ!」
蜃鬼楼たちが三体揃って、拍手をくれていた。
桃太郎も、フと理解をする。
「っていう事はさ~、いつもはキミたち、そうやって 暴走を食い止めてたって事か~♪」
「はい~。ですが現在~、先ほども~、お伝えした通り~」
「女王様の付着物が、余りにも凄い勢いで、大量に付着をし続けておりまして…。もはや 皆様のお手をお借りしなければ。という段階に、なってしまいましたのですわ」
「…なるほど」
大体の状況と対処法は、解った。
付着物により肥大化し続けている女王から、付着物を取り除けば、女王は元に戻る。
「廻りから切り刻むとして…女王様自身は、痛みとか平気なの?」
章太郎の心配に、ウサギ蜃鬼楼が答えた。
「っはいぃ~っ♪ 付着物は~っ、あくまでっ、女王様に~っ、くっついているだけなので~っ、てっ! なのでどれだけ切り刻んでもぉ~っ、大っ丈ぅっ夫ぅ~っなのですよ~ん♪」
それなら、内部の女王にさえ気を付ければ、それ程の手間でも無さそうだ。
タヌキぐるみの蜃鬼楼が、思い出したように告げる。
「あ~、ついでに~、ですね~。斬った付着物は~、ご迷惑を掛ける蜃鬼楼を~、倒す時みたいにですね~、いわゆる退治する感じで~、斬って捨ててください~♪」
「ふむ…それはナゼだ?」
戦闘隊長のブーケが問うと、想定内とも言える答えが、リスぐるみ蜃鬼楼から返って来た。
「はい。先ほどもお伝えをしましたとおり、皆様の世界へご迷惑をお掛けしてしまう蜃鬼楼は、女王から分離した付着物そのもの、なのですわ」
異世界から流れ込んできた人間の様々な意志や感情を、付着させてしまったり吸収したりした女王は、乱れた感情のまま自我を失ってしまうらしい。
その結果が、あの攻撃的な蜃鬼楼たちでもあった、という話。
「…つまり、ただ斬っただけの付着物は、あの蜃鬼楼たちになってしまう…と」
「はい~♪」
切り刻みに関する心構えも、解った。
そして章太郎は、細部も確認。
「女王様から付着物を取り除くとして…斬ったり破壊したりするんでしょ? 女王様へ直接ダメージ…傷とか、気を付けなくちゃだよね?」
という章太郎の言葉を、ブーケが引き継いた。
「それは そうだな。クイーンとやらは、どのくらいの大きさで、どのような姿をしているのだ?」
かなり重要な質問に、女子たちを見ながら、蜃鬼楼たちが答える。
「っはいいい~っ! 姿形は~っ、皆様とほぼ一緒っ、なんです~んっ♪ こりゃあ素晴らし~っ♪」
「それに~、付着物は~、濁って半透明なんですが~」
「女王様は、それはそれは美しい、純白のなめらかなお姿をされておりますわ」
「そうなんだ…」
蜃鬼楼という怪物を産み出す女王という事なので、それなりに恐ろしい姿を想像していた章太郎。
(…童話の山姥ーとか、そんな感じ想像をしてたけど…)
言わなくても良いだろう。
女王に関して、目の前で鎮座しているケモぐるみ小美人たちが「美しい」と表現する程なのだから、きっとそうなのだろう。
(…蜃鬼楼であっても、こんな可愛らしい姿をしてるんだから…価値観っていうか、美的感覚も 俺たちと それほど変わらない気がするな。元々が、童話を楽しむ人間たちの意思から生まれたっていうし)
と、章太郎は想った。
「それで、今現在 女王の付着物って、どのくらいの量なんだ?」
女王の全身が、たとえばブーケや月夜くらいだとすれば、あの大きな蜃鬼楼たちを産み出す程にまで、付着物が取り憑いているのだろうか。
「はい~、先ほどの~、桃太郎さんの~、村くらい、ですかね~」
「ほえ~っ! 某たちの村~? そんなに~?」
予想外の大きさに、桃太郎はお供や鬼たちと、顔を見合わせていた。
章太郎も、村の大きさを思い出す。
「…って事は、直径としても 一キロ二キロって感じなのか…」
それ程までに付着物が取り憑いた状態とか、姿そのものが想像できない。
そんなこんなの話をしていると、一際大きな光の穴が見えて来た。
~第百二十五話 終わり~
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