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☆第百二十話 大開戦!☆
しおりを挟むブーケの作戦を聞いた桃太郎は、嬉しそうに乗っかった。
「いいね~♪ 章ちゃんたちも、かなり強いみたいだしさ~♪ ね、赤(セ)っちゃん」
と、もはや戦友となった鬼大将へ振ると、赤鬼も、見た目的には悪そうなワクワク顔。
「へい! それじゃあ、あっしらは あの西森(にしのもり)の連中を叩きましょうや!」
指差した山の斜面にも、それぞれの名前があるらしかった。
「ぼ、僕は…しょしょしょっ、章ちゃんと…っ! 東森(ひがしのもり)を…っ!」
ツキノワグマに背中を支えられながら、金太郎は自ら、章太郎へ声を掛けてくれる。
「ああっ、金ちゃん! 俺たち三人で、東森の蜃鬼楼を叩き潰そう!」
章太郎が手を差し出したら、金太郎は驚きながらも、握手を返してくれた。
「では、ボクたちは真ん中の集団と戦うぞ! 有栖は、後方支援を!」
ブーケが少女たちと円陣を組んだら、幼女の翠深衣が、章太郎にオネダリをしてくる。
「お兄さま! 翠深衣たちは、これからたくさん、力を使います! なので、聖力を補充させて下さいませ♪」
「え…えっ、あ、あぁ…っ!」
愛らしい笑顔で聖力を求めるお魚少女の提案に、月夜たちも乗っかってくる。
「ああ、そうだな。戦いの最中に補充とか、難しいもんな♪」
「そ、そうですね…こほん」
「それもそ~だ~♪」
みんなが章太郎の側へ来ると、桃太郎も金太郎も鬼たちも、何事かと興味を持つ。
「聖力~? ああ、章ちゃんが タップリ持ってるんだっけ~♪ で、補充って、ど~すんの~?」
「え、えぇと…」
男子高校生としては、恥ずかしくて説明し辛い。
「?」
みんなに慣れて消極的から脱却し始めている金太郎も、知りたい顔を隠さない。
一番最初に要求をした翠深衣が、桃太郎たちの疑問に答えて見せた。
「では、お兄さま♪ ぷちゅ♡」
章太郎へ抱き付いた翠深衣が、イタズラみたいに脣を重ねる。
「んっ!」
相手が童女とはいえ、流石に人前だし章太郎も戸惑ったものの、しかしこれから蜃鬼楼の大群と戦うのだから、聖力の補充は必要だろう。
「へぇ~♪」
「ほほぉ」
「わぁ…っ!」
「なるほど」
桃太郎たちの反応はそれぞれで、特に年上っぽい鬼大将やツキノは、なんだか大人の対応である。
「で、では、ボクたちも…」
少女たちが順番に、章太郎の脣から聖力を貰う。
月夜も聖力を補充すると、ナゼか金太郎がショックを受けたり。
「み、みんなも」
足下へ集まったヌイグルミたちへも、頭を撫でながら聖力を分けた。
「なんだ~章ちゃん~♪ 手からも補充、出来るんじゃん~♪」
とか、桃太郎は可笑しそうに指摘。
「ま、まぁ…」
「ふふ…まさしく、英雄色を好む、ですな」
とか、赤鬼大将にも茶化されたり。
「聖力 目一杯に御座います♪」
桃太郎の家でお爺さんたちを護ったり、また後方支援としても活躍をする有栖も聖力を補充して、準備が整う。
同じタイミングで、蜃鬼楼の一団も実体化を完了させつつあった。
「よ~しっ、それじゃあみんなっ! 退治するよ~ん♪」
「「「「「「「「「「「「おおおおっ!」」」」」」」」」」」
桃太郎の柔らかい号令で、それぞれが目的の森へと駆け出してゆく。
走りながら、少女たちは戦闘スタイルへ変身。
「レッド・スタイル・チェンジっ!」
「大雪山下ろし…っ!」
「白き翼 羽ばたきて 我天空を舞う!」
「モック・アップ!」
「スプラッシュ・スイミー!」
「「?」」
初めて聞いた掛け声に、桃太郎たちも走りながら、つい注目。
五人の少女が空中へと舞い上がり、眩い光に包まれると、それぞれの衣服が粒子となって弾け、美しい裸身が晒される。
「うひゃ~♪ セっちゃん見て見て♪」
「なんとっ!」
「っぅわうわわあああっ!」
「これは神々しい」
章太郎と同じく、桃太郎たちには、光の中が見えるらしい。
それぞれの美しい裸身に光の粒が集まって、五人の衣服が完成されて、変身完了。
「赤い弾丸っ、赤ずきんっ!」
「純白の冷徹…雪女…っ!」
「仙鶴だよ~っ!」
「大自然の守護者っ、ピノッキアードっ!」
「お水ぱしゃぱしゃっ、ノワール・ダイバーですっ!」
変身と名乗りを終えると、五人とヌイグルミたちは、蜃鬼楼集団の真ん中へと飛び込んで行った。
「凄いね~♪ 某(それがし)たちも、負けられないよ~っ♪」
「へいっ!」
「ぼっ、僕たちも…っ!」
「ああっ!」
「はい!」
それぞれの一団も、受け持った集団へと突撃をかけてゆく。
桃太郎と犬猿雉と鬼たちからなる「桃太郎連合」と、御伽噺の少女たち+ヌイグルミのお供三体による「御伽噺ガールズ」と、章太郎と金太郎とツキノからなる「章金熊トリオ」は、それぞれの敵団体と対峙をした。
「うひゃ~! 分担したけど~、それでも いつもより多いね~!」
「へへっ! 腕が鳴りまさぁっ!」
十数体の蜃鬼楼たちを前に、本能というか、敵の多さにも、鬼たちはニヤついて闘志が燃えらしい。
「お前らっ、行くぞぉっ!」
「「「ぅおおおおっ!」」」
大将の号令で、一本角の鬼たちが、槍や大鉈などを手に、球体+巨大両腕という浮遊蜃鬼楼へと襲い掛かる。
――ッグウアアアアアッ!
直径が六メートル程の本体左右から伸びる末端肥大な握り拳を振り回し、蜃鬼楼が鬼たちを攻撃するも、意外と身軽な鬼たちは拳をかわして、それぞれの武器で反撃をした。
「ひょおおっ!」
「そりやあっ!」
振り回された大鉈や突き出された槍で、蜃鬼楼の身体がダメージを受けて、絶叫をしながら身体が消滅をしてゆく。
「どおりゃあああああっ!」
すぐ近くでは、鬼の大将が巨大な金棒を振り回しながら敵陣へ入り込み、一撃二撃で牛形や大木形の蜃鬼楼を撃滅していった。
そして、蜘蛛形や狼形や毒蛾形の蜃鬼楼に囲まれた桃太郎は、先ほどと特に変わらず、しかし鋭い笑顔で抜刀をする。
「ふ…せぃゃああっ!」
一瞬で気合を入れると、襲い来る蜃鬼楼三体を、ほぼ同時にスライス。
――ッグググググッ!
四つ五つに分断をされた蜃鬼楼たちは、うめき声だけを残して消滅をした。
お供の犬と猿と雉は、それぞれ素早く蜃鬼楼たちを翻弄し、鬼たちや桃太郎へ纏まった数で責められないよう、上手く牽制をしてくれている。
蜃鬼楼軍団へ突撃をしながら、章太郎はみんなの戦いをチラと見ていたので、桃太郎の剣の素早さに感嘆をしたり。
「うおぉ…っ! 桃ちゃん凄い…っ!」
「うん…! 桃ちゃんは、凄く、強いよっ!」
親友の金太郎も、なんだか誇らしそうだった。
桃太郎たちの受け持った西森の蜃鬼楼たちが、次々と数を減らしてゆく。
追いつめられて行く事を感じ取った蜃鬼楼の一体が、近くにいる仲間を無理矢理にひっ掴んで、なんと自分の身体へと、吸収をし始めた。
「! 桃さんっ!」
蜃鬼楼の力が増大してゆくのを素早く感じ取った赤鬼太郎は、巨大蜃鬼楼からの盾となるべく位置を取り、桃太郎へ短い報告をした。
「ん~? ぉほぉ~っ、なんか、でっかくなったよね~っ!」
仲間を吸収して十メートル程にまで大きくなった蜃鬼楼は、鬼大将のような金棒と、桃太郎のような刀を手にしている。
金棒は、鬼の伝統武具であり、簡単にマネをされると頭に来るらしい。
「あっ、この野郎っ!」
思わず、我を忘れて飛びかかろうとする赤鬼大将を、桃太郎が笑顔で制した。
「ほら、セっちゃん。冷静に」
「――ハっ! も、桃さん…すいやせん…っ!」
つい失態を晒してしまい、ちょっとシュンとする大鬼に、笑顔で「じゃ、あいつを倒そうか♪」と、明るく告げる桃太郎。
そんな、行動が一瞬とはいえ止まった桃太郎たちの頭上から、大蜃鬼楼の金棒が全力で振り下ろされる。
「舐めるなぁっ!」
気合を入れ直した赤鬼は、巨大な金棒を金棒で受け止めて、その衝撃で地面が「ドオオンっ」と響いて揺れた。
「っむんっ!」
攻撃を受け止められた蜃鬼楼の、二段構えな大刀での横凪を、桃太郎は一瞬集中の暫撃にて根元から断ち折って、更に大蜃鬼楼の胴体をも一刀両断。
崩れる大蜃鬼楼をお供たちが更に細切りにし、周囲の蜃鬼楼たちも青鬼たちが撃退してゆく。
桃太郎たちと鬼たちの連携は、確実な信頼関係を見せ付けていた。
~第百二十話 終わり~
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