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☆第百十二話 少女たちからの問い☆

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 帰りの電車で、章太郎が友達と会話を楽しんでいる間、御伽噺の少女たちはヒッソリと集まって、緊急会議をしていた。
「…うむ。やっぱりみんなも、様子がおかしいと 感じていたか…」
「うん~」
「悪い感じは しないのですが…」
「あぁ~、そいやなんか、オレたちにちょっと気を遣ってる感じ するよなー」
 ここのところの「次元の穴が塞がっても、みんなにはこっちの世界へ残って欲しい」という章太郎の願いとしての、少女たちに対する行動。
 当の少女たちには、何やら少年が想うところあり、みたいな様子に映っていたらしい。
「発端というか…有栖に代わって朝食を作ろうとしていた事があったけれど、あの時からのような気がする」
「あったなー。でもあれってー、ショータが朝食を作りたかっただけじゃないのか?」
「う~ん…そ~なのかな~?」
「ですが確かに…あの朝の出来事以降…私たちへの気遣いと言いますか…。何やら秘めているご様子…」
 みんなの意見を聞いて、ブーケは話を続ける。
「実は…休み時間の際に、有栖と連絡をとって 意見を聞いてみた」
 有栖的には「優しい主様が、より皆様への優しさを以て接していらっしゃるご様子にお見受けいたします」との見解。
「? どういう意味だ?」
「つまり…章太郎様が何かを考えている…という、有栖ちゃんの認識ですわ」
「みんなと同じだ~」
 と納得をし合って、友達と話している章太郎を、ジっと見る。
「うむ。やはり、みんなの考え通り…な様子だな」
「つまり、章太郎様が…」
「あたしたちに、何か言いたい事があるっていう事~?」
「そうなのか? ならハッキリ 言やぁいいのになー」
 戦闘隊長でもあるブーケは、考えを纏めた。
「…うむ。それでは 今日の夕食後に、ショータローに 尋ねてみようと思う」
「そうですね」
「そうだね~♪」
「おお、面白そうだな♪」
 という感じで、少女たちによる章太郎への尋問が決定された。

「主様、皆様「お兄さま、お姉さまがた「お帰りなさいませ♪」」
「ただいま♪」
 いつも通り、メイド服に身を包んだ有栖と翠深衣に迎えられて、章太郎たちはマンションへ帰宅。
 章太郎が、お供たちの相手をしつつ宿題を終わらせている間に、少女たちが晩ご飯の準備をしてくれる。
 みんなでの夕飯が終わった後に、それぞれがお風呂でサッパリして、それから書き取りをしたり宿題をこなしたりするのを、章太郎が手伝ったりするのが、最近の日課だった。
「ご馳走様~♪ 美味しかったよ」
 章太郎が、お供たちと一緒にお風呂へ入って、少女たちが入浴を済ませると、お供たちもリビングへ集まって、今日の宿題から。
「それじゃあ――」
「その前に…ショータロー、ちょっと良いか?」
「お兄さま、こちらへ~♪」
「え、ぁ、うん…」
 翠深衣に勧められて、章太郎はソファーの上座へ、腰掛けた。
 少女たちが、割と真剣な空気でソファーへ腰掛け、章太郎と向き合う感じ。
 有栖と翠深衣は、少年の後ろで、美しく直立に待機をしていた。
「えぇと…何…?」
 なんだか、リビングの空気が、ピリっとしている気がする。
 章太郎も無意識に、背筋がシャキっとしたりした。
 やはりブーケがみんなの代表として、章太郎へ質問をくれる。
「こほん…ショータロー。ショータローはボクたちに、何か 隠し事をしてはいまいか?」
 と聞かれて、章太郎も真剣に考える。
「か、隠し事…? ぃや、特には…」
(何か…見られて困るような物とか…隠してないよな)
 質問をそのままに捉えると、本当に隠し事なんて思いつかない少年だ。
「ふむ…では、質問を変えよう。ここのところ、ボクたちに対して、何か随分と 気を遣ってはいないだろうか?」
「ギク…っ!」
 かなりストレートな質問に、章太郎も心臓が跳ねる。
「やはり…なのですね…」
 少年の反応を見た少女たちも、何か心に思った感じだ。
「う~ん…」
「なぁショータ…オレたちに 何か言いたい事があるなら、ハッキリと言ってくれ」
「翠深衣も~、お兄さまの言う事、ちゃんと聞きます~っ!」
「え…っ!」
 みんなの真剣な様子に戸惑って、思わず見た有栖の、落ちこむ様子の愛顔に、また章太郎は焦ったり。
「ぁあ、ぃいやそのっ――みんなに何か言いたいっ、とかではっ、なくてさ…っ!」
 真実を話すのが恥ずかしくて、つい作り笑顔になる少年。
「むむ…っ! やはりショータローは、ボクたちに言いたい事があるようだっ!」
 と推理をした戦闘隊長も、きっと迷惑をかけているのであろう自分の不甲斐なさを、強く悔いている感じ。
「ショータ…オレたちが問題あるなら、ちゃんと反省するぞ」
「はい、章太郎様…!」
「そうだよ~」
「お兄さま…っ!」
「主様…っ!」
 少女たちが、真剣な眼差しでググっと詰め寄ってくると、みなそれぞれの美顔愛顔が近すぎて、少年的には凄くドキドキする。
 お風呂上がりで石鹸やシャンプーの良い香りがして、更に少女たち自身の甘い薫りにも鼻腔をくすぐられてしまい、つい身が動けなくもなった。
 このままでは、なにか勘違いをされたまま、空気も悪くなってしまいそうな雰囲気。
「まっ、待ってみんなっ! ちゃんとっ、話すから…っ!」
 章太郎は、素直に自分の内心を、恥ずかしくも自白せざるをえなかった。
「その…みんなも知ってると、思うけど…」
 章太郎の祖父でありマッドなサイエンティストであり、うっかりミスで次元の扉を開いてしまった章之助から、穴を閉じる方法が解った。
「――という話があっただろ? で…その後、なんだけど…」
 次元の穴を塞いだと同時に、ブーケたち童話世界の少女たちの、存在というか意志というかが、元の童話世界へ帰ってしまうかもしれない。
「…っていう可能性が、あってさ…」
 章太郎の話を、少女たちはみな、黙って聞いている。
「も、もちろん、絶対にそうなるとかは、まだ未知数なんだけど……ぉ、俺は、その…」
 言葉に詰まって、暫く静かな時間が流れる。
 お供たちも、章太郎の話を、行儀の良いお座りで聞いていた。
「………!」
 息を飲んで、少年自身が告げる。
「お、俺はその…みんなが、こっちの世界へ残る方法っていうか…もちろん、みんなの選択肢、だけど…みんなが、こっちの世界にいても良いって、思って貰えれば…みんなが残れる可能性もあるって…爺ちゃんと話した見解っていうか…」
 話しながら、まだ自分は正直ではないと、心で解ってしまう。
(俺は、ちゃんと言わないと…っ!)
 章太郎が本心を伝えた結果、逆に少女たちから、呆れられてしまうかも知れない。
 とか考えると、どうしても怖くなってしまったり。
 ――でも。
 みんなに対して、嘘や誤魔化しは嫌だ。
 章太郎は、恥ずかしさと恐れが半々な気持ちで、息を飲んで決意をする。
「お――」
「ショータローは、ボクたちに この世界へ残って欲しいのか…?」
 少年の逡巡を読んだかのように、ブーケが代表で尋ねて来た。
「ぅ――えぇと…う、うん…」
 複雑な気持ち故か、章太郎にしては、ちょっと弱気な返答である。
 ちょっと考えたっぽい月夜が、恥ずかしそうだけど、ズバりと訊いてきた。
「んー…ショータ。ショータはつまり、アレか? ォレたちの事、どう、想ってる…?」
「えっ――えぇと…」
 顔が真っ赤なので、それだけで告白をしているような少年だけど、少女たちは少年自身の口から、答えが聞きたい様子。
「その…い、いい加減な男だと、思うかも知れないけど…みんな、ぅん…ブーケも、雪も、美鶴も、有栖も、月夜も、す、翠深衣も…みんな…好きだ…」
 恋愛感情だとしたら、嫌われても仕方が無い。
 とはいえ、章太郎の覚悟の言葉に嘘はなく、みんなと一緒にいたいし、みんなに想いを抱いている自覚もある。
「そ、そうか…」
 章太郎の真意を聞いた少女たちは、それぞれにモジモジして、お互いに何かを納得し合っている。
「そ、それで、ショータローは…ここのところ、ボクたちに色々と 気を遣ってくれていたのか…」
「あぁ…ぅん…」
 素直に頷く章太郎だけど、言った言葉が恥ずかしくて、そして少女たちの反応がやはり怖くて、前を向けない。
 いたたまれない気持ちの章太郎の足下へ、お供たちが寄って来た。
「…お前たち…も、もちろん、お前たちだって、俺は一緒にいたいぞ…っ!」
 少年の言葉を聞いて、特にヌイグルミ刀は、単眼を嬉しそうにニコニコさせつつ握りの部分が真っ赤になって、みんなで喜んでいる。
「お前たち…」
 章太郎にとって、お供たちが自分と一緒にいる事を望んでくれている事は、それだけでも勇気を貰える事実。
 そして、少女たちは。

                    ~第百十二話 終わり~
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