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☆第百十一話 章太郎の努力・翠深衣の場合☆
しおりを挟む書き取りを続ける毎日で、修太郎が翠深衣へ「何かしたい事はある?」と尋ねたら、少女は答えた。
「翠深衣は、お兄さまと繁殖がしたいです♡」
「えっ…繁殖…?」
外見的には小学生の低学年な幼女に、輝く様な笑顔で言われると、相手が御伽噺世界の住人だと認識をしている章太郎でも、唖然とする。
「はい、お兄さま♪」
ニコニコな翠深衣の答えに、御伽話の少女たちも、興味を持った。
「翠深衣ちゃんも、章太郎様との婚礼を、お望みですか?」
「はい♪」
正直な翠深衣に、みんなも同調を見せる。
「ショータの子供かー。オレも赤ん坊とか、出来るのかなー?」
とか、月夜はシャツを捲って、自分の平でスベスベなお腹を見たり。
「あたしも~、章太郎くんとの産卵とか~♪」
「ふむ。そういえば、この身体は子作りも妊娠出産も出来ると、ショーノスケとマキが言っていたな」
「有栖も、主様の御子を宿らせて戴けるのでしたら…♡」
とか、みんなそれぞれに、色々と想像をしている感じ。
章太郎は、婚姻可能年齢であろう少女たちのワクワク愛顔に、エッチな妄想をしてしまいながらも、幼女の言葉の方が頭へ強く残っていた。
「繁殖…」
原典たる童話では、スイミーは、肉食魚から狙われる側の、小魚である。
なので「何はなくとも まずは繁殖」が、本能と言えるのだろう。
言われた章太郎も、自分が魚になって、海草へ産卵したスイミーの卵へ魚的に放精する様を想像し、なんだか萎える。
「まぁ…そういった行為は 不可能だろうが…」
続いて、人間体の翠深衣との繁殖行為を思い浮かべようとしたものの、全く想像が出来ない。
一緒にお風呂に入っても、まるで年の離れた妹みたいな少女を相手に、劣情とか湧かない常識人な章太郎であった。
「なんであれ、翠深衣。繁殖とか、外で言ってはいけないよ」
「? は~い♪」
理由はわからなくても納得をする素直な少女に、章太郎は別の意味でホっとした。
「それ以外でさ、翠深衣が 何かしたいこととか、ある?」
と問う章太郎を、ブーケたち四人の少女たちは、何か想う様子で眺めている。
「う~ん…あ!」
少年のリクエスト問いに、少女は思いついた。
「はい♪ 翠深衣は、日焼けがしたいです♪」
「…日焼け?」
と、日焼け色な肌の幼女から聞いて「?」になって、章太郎はついでに、金網の上で炙られる魚を想像してしまう。
翠深衣の考えをブーケが翻訳、みたいな。
「ふむ。それは 今よりももっと 肌を濃くしたい。とか、そういう事なのか?」
「はい♪」
ブーケの言葉に、健康的な日焼け肌の翠深衣は、笑顔で大きく頷いた。
夏が近づいて、翠深衣たちのクラスでも肌が日焼けをし始めているクラスメイトが、何人かいるらしい。
「なんだかみんな、すごく 楽しそうです♪」
小学生くらいだと、他人とのちょっとした違いも、自慢材料になったりする。
翠深衣も、そんな友だちと、楽しさを共有したいのだろう。
「…そいや俺も小学校の頃、夏休み明けとか 無駄に日焼け自慢してたなー」
「そうなの~?」
章太郎の思い出話に、少女たちも、興味がありそうだ。
「なんかなー。ウチの学校ではさ、夏休み明けに『日焼けコンテスト』みたいなのが、あったりしてさ。俺も…五年生 くらいだったかな…エントリーされた事があったな」
「へー、ショータたちの世界って、そんな事すんのかー♪」
月夜も楽しそうに聞いている。
「そ、それで…っ主様の順位は…っ?」
召使い少女は、そこに強い興味があるっぽかった。
「たしか、三位だったかな。一番になった奴は、本っ当に 真っ黒だったからなー♪」
「ボクたちの学校でも、コンテストは あるのか?」
「いいね~♪」
ブーケと美鶴も、日焼けコンテストを体験してみたい様子。
「どうかなー。先輩たちから聞いた事は無いし…学校では やらないんじゃないかな」
そもそも高校では、開催しても文化祭でのミス学園とか、そっち方面だろう。
リビングでの書き取りに毎晩と付き合うお供たちは、しかし日焼け談話にはさしたる興味も無いらしく、みんなで集まって寝息を立てていた。
「それにしても、翠深衣の日焼けか…」
少女の艶々な長い黒髪を眺めながら、色々と考える。
(…日焼けサロンとか…は、なんかダメな気がする)
人間ならともかく、翠深衣は基本、人間の姿をしているけれど小魚だ。
日焼けマシーンに入る事そのものが、なんだか焼き魚を連想してしまい、章太郎的には心配で却下。
色々考えて、フと思い出す。
「…! そういえば、ウナギの背が黒いのは 日焼けによる影響だーとか、何かで読んだ気がするな」
スマフォを取り出して、検索をしてみる。
「…主様、何か 調べ物でしょうか?」
メイド少女としては、どんな小さな事でも、主の役に立ちたいのだ。
「あ、うん。まあでも とりあえず、俺も知識として 知っていたいから。自分で調べる事も 勉強さ」
と、有栖の忠誠心に配慮をする章太郎だ。
ちよっと調べたら、出て来た。
「……ふんふん。へぇ…」
「お兄さま?」
「日焼けに関しては、気を付ければ大丈夫 みたいだけど…」
そもそも本来の日焼けは、強い直射日光の紫外線に対する防御として、皮膚がメラニン色素を増やして紫外線の影響を下げるという、自然反応だ。
ウナギだけでなく、海草なども、日焼け止め物質を体内で作ったりしている。
日焼けに関して気を付けなければならないのは、焼くのを急ぎすぎて熱を浴びて、低温火傷をしてしまう事だ。
それはそのまま、怪我である。
綺麗に日焼けをしたいのなら、ゆっくりと何日も掛けて陽を浴びる。
メラニン色素に限らず、過ぎたるは及ばざるが如しなので、頻繁に焼き過ぎない。
「…っていう感じらしい」
「ふむ…。つまり、泳ぎながら日光を浴びる。という感じか」
「うん――ってぅわぁっ!」
章太郎が調べ物をしている間に、興味を持った少女たちが後ろに集まって、愛らしい美顔を近づけていて、章太郎は驚かされた。
(と、とにかく…翠深衣の日焼け願望を叶えれば、こっちの世界に残りたいって 思ってくれるかも知れないぞ…っ!)
章太郎は夜の間、翠深衣の日焼け方法を考えて、翌朝にはメイド少女へ伝えた。
晴れた放課後、いつものように、みんなで帰宅。
既に日焼けの肌な翠深衣を、これ以上に日焼けをさせられるかはともかく、安全な方法で試してみるベキだと、章太郎が頑張って考えたのは。
「屋上に、有栖がプールを用意してくれたから。ノンビリと泳ぎながら太陽を浴びよう」
「「「「「「は~い♪」」」」」」
有栖には、超速通販サイトで、家庭用で空気式の大きなプールを注文して貰っていて、昼の間に届いたので、屋上に準備をしておいて貰った。
一般販売している家庭用のプールを、大きくて四角い長方形にしたようなプールで、業者さんが屋上まで運んでくれて、有栖が水を張ってくれたのである。
女子たちはみな水着で、章太郎はTシャツと短パン姿。
今日は昼過ぎても陽射しが強く、日焼け出来るかはともかく、間違っても焼き過ぎる事も無いだろう。
「それじゃあ、みんな 柔軟体操だけはシッカリと!」
プールは女子たちの腿部くらいまでの浅さだし、長さも十二メートル程だから、溺れる可能性は少ないけれど。
「万が一でも、事故が起こったら大変だからな」
と、真面目に柔軟をこなして、女子たちがプールへIN。
「ぉお…気持ち良いな♪」
「あはは♪ オレは何だか 元気が出るぞ♪」
元木製人形だったピノッキオは、水と酸素と日光で、いつもより元気が出るらしい。
「それでは、お兄さま♪ 翠深衣は、日焼けいたします♪」
「主様。僭越ながら、有栖が翠深衣ちゃんの 補助を勤めさせて戴きます♪」
女子たちの腿くらいの水深に、幼女がザブんと身を沈めた。
「…有栖が付いてるし…」
溺れる心配は無いだろうし、ましてや翠深衣は魚である。
頭まで沈んだ少女は、スイ~っと、まさしく魚そのままで、滑らかに泳ぎ出す。
プールを覗いている章太郎が見ても、長い黒髪が水中で揺れながら、なかなかの速さで息継ぎも無しに、泳いで廻っていた。
「へぇ…やっぱり スイミーなんだなぁ♪」
スイスイと泳ぐ影が水面で揺れて、本当に楽しそうに泳いでいる。
(…まぁ、日焼けが出来なくても、青空の下で泳げるのは、楽しいのかもな)
とか、ちょっと安心をしたら。
「まぁ、翠深衣ちゃん…」
「ほぇ~♪」
「え?」
雪と美鶴が驚いて、章太郎もちょっと焦って、またプールを覗く。
「っぷは~っ♪」
「――ぇええっ?」
立ち上がった翠深衣は、ほんの二十秒くらい泳いだだけで、なんと日焼け色が綺麗に濃くなっていた。
例えるならば、薄いキャラメル色だった肌が、チョコレート色へ染まったような。
「お兄さまっ、見て下さいっ♪ 翠深衣は、日焼けが出来ましたっ♪」
「ほ、本当だねぇ…」
超常現象には割と慣れたと思っていた章太郎だけど、また驚かされていた。
~第百十一話 終わり~
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