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☆第九十四話 満員御礼?☆

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「ふんふん~♪」
「………」
 正面へ立つ翠深衣に頭を洗って貰っている間、椅子へ腰掛ける章太郎は膝を閉じるワケにも行かず、翠深衣の言うウナギを隠す事も出来ずにいた。
 さすがに、目の前の幼女が裸だからといっても、身体も心も妙な反応はしないけれど、一般的な恥ずかしさというか、気持ちの置き所には困っている。
 小さく力の弱い指で頭髪を捏ねられている感覚は、やはり小動物にジャレ着かれているみたいな、くすぐったさだ。
「はい、お兄さま。どうですか?」
 洗浄を終えての感想を聞きたいらしい。
「うん。すごく気持ち良かったよ。それじゃあ、翠深衣の掌も一緒に、泡を流そうか」
「は~い♪」
 コック捻ってシャワーから湯を出して、まずは翠深衣の両手の泡を、洗い落とす。
「熱くない?」
「うん。うふふ~♪」
 海で生まれた小魚の化身である翠深衣にとっては、シャワーのように小さな水が当たる感覚は、珍しくて楽しい様子。
「それでは、お兄さまの頭を流します♪」
「あ、うん。ありがとう」
 シャワーを受け取った翠深衣が、章太郎の頭から湯を掛ける。
「ふうぅ~…っとと」
 いつものように、ワシャワシャと強く髪を掻きそうになって、翠深衣も一緒だと思い出し、弱めの力でに髪を梳く。
 髪の間にもシャンプーを残さないように流しきると、少年としては、とにかく翠深衣を湯船へと誘った。
「翠深衣、お風呂で温まりな。風邪でも引いたら、学校を休まなきゃならなくなるぞ」
「は~い♪」
 学校で友達が出来た翠深衣は、素直に湯船へ。
 これでとりあえず安心だ。
 後はノンビリ身体を洗って、章太郎も湯船へ浸かろうと思ったら、扉の外から声が掛けられる。
『主様、お湯加減は 如何でしょうか?』
「ああ、うん。丁度良いよ」
「あ、有栖お姉さま~♪」
 メイド少女の声を聞いた翠深衣が、湯船から飛び出して、扉を明けた。
「わっ、翠深衣っ?」
 章太郎は、翠深衣の行動にも驚かされたけれど、続く言葉にもっと驚かされる。
「有栖お姉さま♪ お姉さまたちも一緒に、お風呂に入りましょう♪」
「ぇ…ぇえっ!?」
「ご、ご一緒ですかっ!?」
 少年の驚きと、メイド少女の喜びが重なった。
 章太郎の甲高い驚きは、リビングで寝そべるお供たちの耳にも、届いている。
「えっ、翠深衣っ、それはその…っ!」
 翠深衣は幼女だから何ともないけれど、有栖たちはそれなりに年齢が近い。
 しかも「お姉さまたち」と言っているのだから、混浴候補にはブーケたち、いわゆるクラスメイトな少女たちも含まれているだろう。
 慌てる章太郎に比して、主への絶対忠誠を鋼鉄の意志とする有栖は、とても嬉しそうに主からの了解を、伺っていた。
「あっ、あっ、主様…っ?」
「ぅ…っ!」
 有栖が喜んでいる理由は、よく解っている。
 忠臣を誓うメイド少女としては、主に関する全てをお世話する事こそ、最上の喜びだ。
 章太郎は、着替えや入浴などは当たり前に自分でこなしているし、それ以外の家事などを全て押しつけてしまっている事を、申し訳なくすら感じている。
 祖父である章之助に言わせれば「主としての自覚が足りぬわい。ハッハッハ」なのだうけれど、まだ高校生な少年からすれば、極めて普通の感性だ。
 年頃な女の子と一緒の入浴とか、恥ずかしいし目のやり場に困るし、なによりも翠深衣の言うウナギが大変な事になったりしたら、身の置き所さえ無くなってしまうだろう。
「え、えぇと…ぅっ!」
「…………」
 上手く断ろうと色々考えるけれど、メイド少女は主へのご奉仕の機会を与えて戴ける事に、ワクワクしている。
 メイドに傅かれる事も、主の勤めなのですよ。
 とか、祖父の助手の真希さんも、ニヤニヤしながら言ってた。
(ま、まぁ…ぁ有栖だけなら…メイド魂を満たすのも、俺の勤めなんだろうし…)
 と、自分に言い聞かせながら、同時に異性の裸にも興味津々という本能も事実である。
 とにかく、肉体的な反応は、なんとしても隠し通さなければ。
 そう決心を固めると、ドキドキしている鼓動をなんとか押さえようと無理な精神的努力をしつつ、章太郎は許可を出した。
「ぇぇええとぉ…その…ゴホん、ぁ有栖、それじやあぁ…、せ背中を流して、くれ…ましょぅか…?」
 言葉尻が消え入りそうな命令に、しかし有栖は満面の笑みで、綺麗な礼を捧げる。
「あぁ…申し付かりまして御座います。主様…♡」
 メイドとして初の、主の背中を流す許しを得られたメイド少女は、蕩けそうな程の幸せ笑顔で、深々と礼を捧げた。
「わぁ~い♪」
 翠深衣の友達には、姉と一緒にお風呂へ入る娘も、いるのだろう。
「それでは主様…♪」
「はっ、はいっ!」
 黒いメイドドレスを脱衣してゆく少女は、主の視線を避ける様な失礼はしない。
(とっ、とにかくっ、俺が冷静に勤めれば…っ!)
 身長に見合った有栖のメカ生体は、大きくも小さくも無い双乳や括れてウエストや標準的なヒップが、白い肌を艶めかせていた。
 全てを脱衣したメイド少女は、やはり少年主に対して何も隠す事をせず、楚々として浴室内へ。
「主様、失礼をいたします♪」
「はっはいっ!」
 章太郎も緊張をして、つい敬語で応えたり。
 椅子へ腰掛けている少年の背後で膝立ち姿勢となる有栖が、タオルに優しくボトルソープの泡を立てて、主の背中を流す。
「お流しを いたします♪」
「よ、よろしく…」
 タオルを失った章太郎は、しかし両手で隠すのも格好悪いと感じられて、両手を膝の上へ、握って置く。
 メイド少女の優しい手触りで背中を洗われると、くすぐったくもあるけれど、とても心地が良かった。
「~♪」
 小さな鼻歌が聞こえてくるあたり、有栖としても、主の御背中を流す許しを戴けて、メイド魂が喜びに満たされているっぽい。
「主様、御手を 洗浄させて戴きます♪」
「え、あ、はぃ…あれ?」
 右腕を上げようとして、翠深衣がいない事に気付く。
「…翠深衣、お風呂から上がったの?」
 だとしたら、有栖には章太郎の洗浄ではなく、風呂上がりな翠深衣の面倒を見て貰うベキだ。
 と考えていたら、裸の翠深衣が浴室へ戻って来た。
「翠深衣、裸でウロウロしてたら、風邪引くぞ」
「は~い♪ お姉さまたちも、呼んできた~♪」
 とか言いながら、楽しそうに湯船へダイブ。
「え? ぅわっ!」
 翠深衣の言葉を、一瞬遅れて理解をした章太郎が、まさかと思って脱衣室を見る。
 と、お供たちが浴室へ乱入してくる光景よりも、ブーケたちが脱衣をしている様子に、もっと驚かされた。
「みみっ、みんな何をっ――あわわっ!」
 つい四人の肌を見てしまってから、慌てて顔を反らしたものの、それぞれの魅惑的な肌曲線や色艶が、少年の頭にはシッカリと焼き付いてしまう。
「ああ。スイミーが 呼びに来たからな」
「章太郎様、私たちも、共に…♪」
「みんなで入るの、初めてだよね~♪」
「オレも、兄キたちと入った事 無かったよなー♪」
「わ、わわわ…っ!」
 章太郎一人に対して、ブーケと雪と美鶴と有栖と月夜と翠深衣。
 ヌイグルミのようなお供たちは、カウント外でも問題ないだろう。
 マンション最上フロアの浴室は、男女六人+お供四体が入ったトコロで、狭くは無い。
 しかし年頃な少年としては、それぞれに魅力的な少女たちとの混浴状態は、天国というより羞恥の牢獄とも言えた。
「とりあえず、身体を洗うんだよな?」
「うむ。ボトルソープは…あ、あったぞ♪」
「手ぬぐいが足りないね~」
「でしたら、掌で泡立てましょうか♪」
 白い艶肌が無防備に晒されていて、浴室内の湿度と相まって、少女たちの甘い薫りと石鹸の清潔な香りが混ざり合い、鼻腔を擽る。
 顔や視線を逸らしていても、香りや浴室内で反響をする少女たちの声は、ダイレクトに届いてしまう。
 同じ空間にいるというだけで、肌同士の距離が近いとも意識をしてしまい、少女たちが動くと流される空気も、肌が感じ取ってしまっていた。
 そんな空間で、健康な少年の肉体が、ごく自然で健全な反応をしないワケがない。
(まっ、マズイマズイ…っ!)
 小学三年生の翠深衣はもちろん、同い年と言える有栖が入って来ても、必死に忍耐を総動員していたけれど、更に同い年な四人が入って来て、少年の忍耐も限界突破だ。
 身体が熱を上げて鼓動が高まり、全身が力み、本人の意志を無視して下腹部に熱と力が数瞬で溜められて、ビシっっと固く頭をもたげた。
「お兄さま、ウナギがオオウナギになってる~!」
「「「「「?」」」」」」

                        ~第九十四話 終わり~
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