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☆第九十話 転入生スイミーと校長先生☆
しおりを挟む朝八時を迎える少し前。
メイド少女の有栖に付き添われて、スイミーは小学校へと登校していた。
「スイミーちゃん。マンションからこの学舎までの道順は、覚えられましたか?」
「はい、有栖お姉さま♪」
こちらの世界へやって来てからの数日、ピノッキオもスイミーも、日中は有栖のお供で買い物などを手伝ったりして、この世界の街や一般常識などを学んでいる。
スイミーは特に学習能力が高く、どんな場所のお店でも、道順だけでなく商品の場所なども、一度で理解が出来ていた。
「それでは、先生方へ ご挨拶に伺いましょう」
「は~い♪」
大きくて赤いランドセルを背負った黒髪少女は、ゴスロリメイドの後について、初めての学校へ登校を果たす。
有栖はスリッパに、翠深衣は上履きに履き替えて、受け付けへ。
「お早う御座います。連絡を差し上げておりました、御伽噺有栖と、尾八潮翠深衣にございます」
「まぁ、お待ちしておりました。それでは、こちらへお名前を戴いて、校長室へどうぞ」
丁寧な挨拶を受けた受け付けの若い女性が、来客ノートを差し出して、有栖が自分と翠深衣の名前を書き込むと。
「とても綺麗な字を 書かれるのですね」
メカ生体とは知らずとも、完璧フォントに感心した受け付け教務員の女性だ。
「あなたが、御伽噺有栖さんで、あなたが、尾八潮翠深衣さんですね」
「は~い♪」
「元気があって、宜しいですね♪」
というヤリトリがあり、同じ一階の校長室まで、案内をしてくれる。
軽いノックで校長先生へ来客を伝えると、扉越しに、明るい女性の返答があった。
『は~い、開いてますよ』
「失礼します」
教務員さんが開けてくれた扉の向こうで、眼鏡の初老女性が、校長のデスクから立ち上がって、優しそうな笑顔で迎えてくれる。
「いまっしゃい。ご連絡を戴いていた、御伽噺有栖さんと、尾八潮翠深衣さんね。さ、中へどうぞ」
掌でソファーを指され、有栖と翠深衣は入室をする。
「失礼いたします」
向かい合わせのソファーに挟まれたテーブルには、翠深衣の転入届や各種書類が置かれていて、促された有栖たちがソファーへ腰を下ろすと、受け付け教務員さんがお茶を用意してくれた。
校長先生は、有栖と翠深衣へ交互に笑顔を送り、書類の確認をする。
「ええと…あなたが、御伽噺有栖さんで…あなたが、尾八潮翠深衣さん。お二人は、御伽噺教授の関係者さんなのよね♪」
「は~い♪」
「仰る通りに御座います」
校長先生は、章太郎の祖父である御伽噺章之助を、知っている様子だ。
「えぇと、失礼ですけれど、教授のお孫さんかしら?」
なんだか楽しそうに尋ねて来る。
「いいえ。私は、博士の製作されたメイドロイドに御座います。ですが、現在は蜃鬼楼の影響を受けまして、生機融合体、いわゆる『メカ生体』に御座います」
と事故紹介をしながら立ち上がり、美しい礼を捧げる有栖。
「えぇと…めいどろいど…? めかせいたい…? まあぁ、教授ってば、相変わらずなのねぇ♪」
有栖の話した単語の意味はわからないらしいけれど、そういうあたりも博士らしいと、微笑んでいる校長先生だ。
「は~い♪ 私は、尾八潮翠深衣です♪ こう見えて、本当はお魚なんで~す♪」
「お魚…?」
校長先生と受け付け教務員の反応を見るに、子供の想像かと思ったらしいけれど、翠深衣の笑顔に、笑顔で返す。
「まあ、そうなの?」
「可愛いですねぇ♪」
有栖としては、翠深衣の自己紹介を勘違いされてしまう事は、正しい事ではないと考えてしまう。
なので、ドレスから組み立てたへコップへ潮水を注いでテーブルへ置いて、促した。
「スイミーちゃん、どうぞ」
「は~い♪ むむむ…えいっ♪」
なにかの気合を入れると、少女の身体が七色に発光。
光が小さくなってコップの中へ飛び込むと、光が収まって、黒い小魚が泳いでいた。
少女のいたソファーには、着衣やランドセルだけが残される。
「…まああぁ…っ♪」
「え…えええ~っ!?」
校長先生は楽しそうに驚愕をして、受け付け教務員さんは素で驚く。
カップの中の小魚は、身体の半分を水面へ出して、二人の女性へ胸びれを振った。
「ほ、本当に、小魚…ああ、だから、スイミーちゃんなのねぇ♪」
すぐに納得をした様子から、校長先生は章之助博士をよく知る人物だと推察できる。
「さ、魚…えっ、ええ…っ?」
目の前のアンナチュラルな現象に戸惑う受け付け教務員さんは、実に普通反応であり、章之助を知らない一般人だと、よく解った。
二人への自己紹介を終えたスイミーが、再び光ってカップから飛び出して、ソファの隣で少女の姿へ。
「あらあら♪ あら大変」
小魚くらいの水分を頭に残した黒髪少女は、当たり前だけど裸だった。
「は、早くお洋服を…っ!」
受け付け教務員さんが、少女に服を着せてくれる。
「本当に、童話のスイミーちゃんなのねぇ? まるで夢のようだわ♪ 私も子どもの頃、とても大好きな物語でしたよ♪」
そう話す校長先生は、まるで少女のような輝く笑顔だ。
「そうなのですか♪」
「うふふ~♪」
スイミーも恥ずかしそう。
二人が歓談をしている間に、受け付け教務員さんが思いだしたように職員室へ向かい、退任の先生を案内してきた。
「初めまして。キミが新しい転入生ですね?」
挨拶をくれた先生は、若い男性教師で、眼鏡が知的で優しい笑顔で、女子生徒に人気がありそうだ。
「先生、こちらは 尾八潮翠深衣さんです。今日から、先生のクラスへと編入されますので、宜しくお願いいたしますね」
翠深衣は立ち上がり、元気に挨拶をする。
「初めまして。尾八潮翠深衣です!」
「はい。こちらこそ、宜しくお願いします」
中々に身長のある担任の先生は、小柄な転入生へと目線の高さを合わせて、挨拶を受けてくれた。
有栖も立ち上がり、挨拶をする。
「お初にお目にかかります。尾八潮翠深衣の 保護者代行を努めさせて戴いております、御伽噺有栖と申します」
「あ、は、はい。こちらこそ、宜しく…」
綺麗な礼を捧げる非日常なメイド少女に、まだ若い男性教師は、やや戸惑う。
「ほほほ」
事情を知っている校長先生は、そんなヤリトリに、つい笑ってしまっだ。
予鈴が鳴って、翠深衣が先生と一緒に教室へ向かう。
有栖としては、ちょっと心配もしたり。
「翠深衣ちゃん、後で お迎えに上がりますね」
「はい、有栖お姉さま♪」
「それでは」
扉が閉じられ、生徒たちは授業の時間だ。
翠深衣を学校へ送るという役目を終えた有栖は、そのままマンションへ戻ろうと、挨拶をする。
「それでは、校長先生、教務員様、翠深衣を 宜しくお願いいたします」
やはり美しい礼を捧げると、校長先生が有栖を引き留めた。
「有栖さん、少しお時間…宜しいかしら?」
「はい」
なにか問題点があるのかと思い、有栖は促されるまま、再びソファーへ腰を下ろす。
「御伽噺教授は、お元気かしら?」
と尋ねる校長先生の顔が、嬉しそうに輝いて見えた。
「はい。現在は、研究所の所長を務められ、社会や人類世界の為にと、様々な開発事業をされております」
と誇らしげに告げて、更に自身の胸に手を充て。
「有栖も、将来の外食産業や医療に関し、人間へ従事する為に造られた、ヘルパー・ロイドの試作機でした♪」
「…ヘルパー・ロイド…っ! 私、普通に人間かと思ってましたっ!」
若い受け付け教務員さんは、聞き慣れない単語だけど、直感的に理解が出来たらしい。
「あら、斉藤さん、おわかりになるの?」
「あー…何となくーですが。つまり、レストランや病院とかで、従業員不足に対応できるロボット…みたいな感じかと」
「はい。仰る通りに御座います♪」
自分の事を正確に理解して貰えて、有栖も嬉しい。
「他にも、番犬を努めるメカドックや、こちらとは別次元の方々と通信が出来る異次元通話機器など、様々な開発を手がけられております」
「え…めかどっく…? 異次元通話…?」
さすがに聞き慣れない言葉過ぎて、若い教務員さんも混乱している。
対して、大学で教鞭を執っていた章之助を知っている校長先生は、メカ関連よりも、恩師の現在の仕事に納得がいった様子だった。
「まぁ、教授ってば、昔とお変わりないのねぇ♪ 私が大学で受講させて戴いていた頃も、そういう研究開発をされてましたもの」
校長先生は大学生の頃、教育学科と生体工学を受講していた才女だったとか。
その生体工学の講義をしていたのが、そこそこ若き日の章之助。
「いつもいつも、変わった研究をされていてねぇ。一度なんて、大学の敷地内で時速千キロのワゴン車用ロケットブースターを完成させて走らせたり…。うふふ、懐かしいわ♪」
昔から、トンデモ気質だったらしい。
~第九十話 終わり~
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