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☆第八十九話 転入生ピノッキオ☆

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「それじゃあ先生、宜しくお願いします」
「おう」
 校長室で、校長先生と教頭先生と担任教師へ月夜を紹介した章太郎たちは、そのまま職員室へ連れられ、後は担任へ委ねた。
「月夜は、先生の仰る通りにな。すぐに教室で自己紹介とか あるから」
「おぅっ、わかったぜ!」
 美女な外見に反して言動は超ボーイッシュなピノッキオだけど、やはりというか、緊張しているのが解る。
 出身地とも言える同人童話世界では、学校とは貴族の通う教育施設だという認識が、いまだ根強くあるからだろう。
「それでは ツキヨ。ボクたちは一足先に、教室へ向かっているからな」
「教室で お会いしましょうね♪」
「またね~♪」
「お、おぅ…っ!」
 固い返答の月夜を残し、章太郎たちは教室へ向かった。

 教室では早速というか、転入生の噂で盛り上がっている。
「お早う、みんな」
「お早う~♪」
「あ、ブーケたち、聞いて良い~っ?」
 女子たちがブーケたちへ、転入生の話題で話かけてきた。
「ああ~、それね~♪」
 女子たち同士の話題になって、男子である章太郎は、蚊帳の外だ。
「もう 噂になってるのか」
「そりゃあそうだろう」
「っていうか、やっぱ噂の転入生、章太郎の関係者?」
「ああ、まあ」
 章太郎たちが登校した際に、目撃情報が拡がったらしい。
 タダでさえ、ブーケも雪も美鶴も、御伽噺の少女たちとして知られているし、カノジョらの使命が変身して蜃鬼楼と闘う事だという事実も、みんなは目撃済みなのだ。
 更に一部のクラスメイトたちは、章太郎の地元商店街で、ゴスロリなメイド少女を確認していたりする。
 美少女揃いな御伽噺の少女たちに、特に男子は興味津々だ。
「で、今度はドコの童話の女の子を 騙したんだ?」
「誰が騙すか! ピノッキオは、こっちの世界に来る事情があったんだよ」
「「「「「ピノッキオぉ?」」」」」
「? なんだよ」
 美少女の名前を聞いた男子たちが、顔を見合わせて、訝しそうな表情。
「章太郎よ、俺たちが童話に明るくないと知っていて、嘘八百を並べ立てるつもりか?」
「何の事だ?」
 男子たちの目は、疑心暗鬼で暗く光る。
「いくらオレらでも、ピノッキオが男だって事くらい 知ってるぞ」
「…あぁ」
 木製人形のピノッキオは、物語の最後に女神様のお力で人間になり、その際は少年となった。
 物語の殆どを占める人形の時でも、キャラクター的には男子と考えても差し支えはないけれど。
「まあ、明確に男性器の描写があるわけでもないから、どちらかというと男子寄りの中性というか――」
「「「「そーゆーヲタ談義は腹一杯だ」」」」
「そ、そうか…」
 小さな認識の違いに五月蠅く言うヲタクの悪い癖など、地元民であり幼馴染みの集まりでもあるクラスメイトたちにとっては、当然の認識であった。
「まあ 大雑把に言えば、ピノッキオは原典ではなく童話の同人誌とか、ゴッチャになってた世界から来たんだ。で、その世界では女の子だった。というだけさ」
「「「「童話同人誌…っ!」」」」
 馴染みの無いジャンルに対する驚きと同時に「同人誌」という単語が、頭に強く残ったらしい、男子たち。
「そ、それはアレかっ? いわゆる 薄い本ー的なっ?」
「マっ、マジか章太郎っ?」
「正直に答えんかいっ!」
 血眼な男子たちが詰め寄ってくる。
「そ、そういう同人誌じゃねーよ! 月夜の名誉の為に言うけど、ピノッキオに 同じ木の人形の兄弟がいるって真面目な同人誌だよっ!」
 モチロン章太郎自身は、その同人誌を読んだワケではないけれど。
「「「「なんだぁ…」」」」
 ガッカリしている男子たちはともかく、ホっとした様子の男子たちは、きっと月夜が気になっているのだろう。
 女子たちの間でも、ブーケたちへの質問責めで、同じような会話があったらしい。
「「「「へぇ~♪」」」」
「それで、名前が『陽乃月夜』ちゃんなんだ~♪」
 という言葉が、女子たちから漏れ聞こえてくると、男子たちの耳も鋭く拾う。
「「「「ひのつきよ…?」」」」
「章太郎、どんな字どんな字?」
「どのみち すぐHRで紹介されるだろ」
「「「「今知りたいっ!」」」」
「自己紹介まで待ってやれよ」
 迫るクラスメイトたちを受け流しながら、章太郎はフと「良く考えたら ブーケたちと違って、元々ピノッキオって名前があるんだから、偽名とか必要無かったのでは?」とか思った。
「お、チャイムだ!」
 予鈴が鳴って、みんなが席に着く頃、担任教師が入室をする。
「え~、もうみんなも知っていると思うけど、転入生を紹介します」
 教室内が華やいで、前側の扉が開かれて、噂の転入生が入って来た。、
「「「「ぉおお~っ!」」」」
 サラサラな緑色の艶髪は長く、風と陽光を受けて輝いている。
 平均よりも高い身長に、美しく整った大人な美顔。
 睫毛も長く細い鼻筋も通っていて、桜色の脣は薄くてもプルプルで、肌は白くて透明感があって滑らかな艶を魅せていた。
 セーラー服の胸元を中から押し上げているバストは豊かで、ウエストは細く、お尻も広くて丸くて大きい。
 ミニスカートから伸びる健康的なパツパツ腿から、細い膝を抜けて柔らかいカーブの脹ら脛を通って、片手で掴めそうな程に華奢な足首と、小さな靴。
 教卓に立って席へと向いて、ソっと目を開けたその細面は、窓からの陽光を受けて神秘的に輝いていた。
 その姿は、まるで繊細な芸術美人形のようである。
 清楚にして静かな佇まいに、特に男子たちの胸が、ドキドキとときめいていた。
 男性教師が、ホワイトボードへ名前を書かせると、達筆ではないけれど愛嬌がある筆跡で「陽乃月夜」と記される。
「「「「陽乃月夜…?」」」」
「綺麗な名前よね♪」
「かぐや姫みたい~♪」
 女子たちも華やぐ。
「え~、それでは陽乃くん。自己紹介を」
 見た目から想像出来る美声で、月夜は自己紹介をした。
「オレは陽乃月夜ってんだ! 今日から、この貴族学校に通う事になったぜ! こっちの世界に来てから、まだ日が浅くてさー。何にも知らなくて、みんなにも迷惑をかけちまうと思うけど、頑張るから、よろしくな!」
 と、昭和の少年漫画の主人公みたいな堂々たる事故紹介で、最後は元気ウインクとサムズアップ。
(ぉおお…ヤッパリというか、臆してなかった!)
 章太郎たちは、感心と安心のハーフ感情で胸を撫で下ろし、クラスメイトたちは見た目とのギャップで、一瞬だけ思考が止まって。
「「「「………ぉおおおおっ!」」」」
「「「「……きゃああああっ♪」」」」
 男女とも、声援上がった。
「清楚系かと思ったらまさかのボーイッシュ系っ!?」
「長いサラサラヘアなのに一人称オレっ!」
「ギャップ萌えが仕事しすぎっ!」
 心を掴まれた男子たちに比して、女子たちも黄色い歓声を上げる。
「あんな美人なのオレって~♪」
「背も高いしっ、格好良い~♪」
「声も透き通ってて綺麗~♪」
 みんなの好感触よりも、月夜は声に圧倒されていた。
「ん? センセー。オレ なんか変なこと言ったのか?」
「いやあ、みんな 陽乃くんを大歓迎してるんだよ」
「そ、そうなのか? へへへ…♪」
 月夜が恥ずかしそうに頬を掻いたりすると、また女子たちが黄色く騒いだり。
「え~、それでは 陽乃くんの席だけど…お、後ろが空いてるな」
 廊下側の後ろの席を指された月夜は、生徒たちの間を通って、席へ着く。
 隣の女子は、美しい転入生と並べた嬉しさでドキドキしているっぽいけれど、月夜は気にする様子も無しだ。
「お♪ よろしくな、御嬢様」
「ぉおじょっ――っ! はっ、はいっ!」
 月夜が「お嬢様」と呼んだのは、特に意図しているワケではない。
 月夜にとって、まだ「学校は貴族が通う特別な場所」という認識であり、学校に通っている男子は「御子息様」であり、女子はみな「御嬢様」なのだ。
 という認識とは関係無く、透き通る声でのお嬢様呼びに、呼ばれた女子が耳まで真っ赤になって、気絶しそうな程に目が「?」で鼓動する。
「きゃ~っ♪ 聞いた~っ?」
「御嬢様って~♪」
「やっぱり実は育ちも良さ気~っ♡ すごい~♪」
 女子たちが騒いでも、男性教師は慣れた様子。
「ほらほら~、歓迎会は休み時間になー。授業するぞー」

                        ~第八十九話 終わり~
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