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☆第七十九話 異質者☆

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 ジミーの説明を、理性的に聞いているピノッキオだけど、理解をするほどに、感情が揺さぶられてきた。
「…オレがいると…そんなにマスい…のか?」
「とぃぅかぁ、既に異変は起こり始めててねぇ。ピノッキォ、ぉ前さんが街へ出ると、男性たちみんなが、ぉ前さんに心をトキメぃたりしてるでしょぉ?」
「? それが、なんだよ」
「パノッキォ…はともかくとしてぇ、プノッキォやペノッキォやポノッキォも、ぉ前さんのように美しぃのに、街の男性たちは心を動かされて居なぃでしょぉ?」
「え…あ、あぁ…」
 思い返してみるに、みんなは街の人々と普通に接しているけれど、ピノッキオだけは、若い男性たちからのアプローチが激しい。
 なので最近は、街へ働きに出るのはほとんど兄妹たちであり、ピノッキオは家で父の世話を担当していた。
 ジミーの指摘は続く。
「本来ならぁ、この世界では ぉ前さんも兄妹たちみたいにぃ、街のみんなに愛されて働く木製人形だったしぃ、ツェッペットも…働き者とぃぅ程では無くてもぉ、もちょっとマシな人間だったんだよねぇ。そして ちょっと前にはさぁ、別の童話世界のスィミーまでぇ、現れちゃってるからねぇ」
「そ、それじゃあ…」
 自分が原因でこの世界に異変が起こり、自分のせいで父がダメ人間になってしまった。
 そう考えると、明るかったピノッキオの美顔が、アンニュイだけど美しく曇る。
「オ、オレが…原因で…この世界…親父が…――」
「ってぃぅかぁ――」
 ジミーが何かを告げようとしたタイミングで、落ちこむピノッキオの考えに、章太郎は否定をした。
「違う! ピノッキオが原因でツェッペットがおかしくなった…という考えは、ピノッキオの存在に対する本質的な捉え方じゃないっ!」
「「「「「っ!」」」」」
 ヲタク口調な章太郎の意見に、ピノッキオだけでなく、ブーケたち四人も驚かされる。
「仮にピノッキオが異変の原因なら、そもそもなぜツェッペットの製作したピノッキオがそんなに影響力を持ったのか…って話になる。つまりピノッキオ、君が生まれる前に、この世界に異変を起こす、何らかの原因が起こって、それがキミという存在に、影響を与えた…と考えた方が、辻褄が合う!」
「そ、そうなのか…?」
 章太郎なりに「ちょっと強引かな」とも思ったけれど、ピノツキオが異変の元凶みたいに捉えられているのが、感情的に受け付けられなかった部分があった。
(…現実主義者としては失格だ)
 御伽噺の少女たちと過ごすようになってから、自分はかなり影響を受けているな。
 とか、あらためて自覚をさせられる。
 そして章太郎の意見に、ジミーが嬉しそうな納得の笑顔で、肯定をくれた。
「ぁははぁ~♪ 章太郎氏はぁ、思慮深くてぇ、優しぃねぇ~♪ ぉ前さんの言う通りだよぉ♪ この童話世界の異変の、ぃま直接に影響力がぁるのがピノッキォってぇ話でぁってぇ、、元凶そのものがピノッキォってぇ話じゃぁ、なぃんだよぉ♪」
「? ? ?」
 言われたピノッキオ本人は、全く理解が出来ていないらしい。
「ぁあのよぉ…オレはバカだから分かんないんだけど…結局、どういう事なんだ?」
 章太郎に答を求めるピノッキオの、恥ずかしそうで逡巡している美顔も、やはり美しいと少年は感じた。
「えぇと…うん。後で纏めて、ちゃんと説明するから待っててくれ。で、ジミー」
 章太郎は、もっと根っこの話を、ジミーへ尋ねる。
「この童話同人誌世界に異変が起こった、直接の原因って、知ってるのか?」
 実は章太郎にも、思い当たる節が、一つだけある。
(出来れば、爺ちゃんが原因ではありませんように…っ!)
「ちょっと前にねぇ~、童話世界とかのさ~、壁を越ぇる穴? みたいなのが、開いててねぇ~」
「爺ちゃんかっ!」
「ショーノスケか」
「章之助様ですか」
「お爺ちゃんか~」
「大旦那様で御座いますか」
 章太郎の願いは、届かなかった。
「その穴を通ってさ~、こっち…ジミーたちの世界の『邪気』がさ~、ここの童話世界へ流れ込んじゃってたんだょね~。今は仲間が流出を止めてるから、これ以上の影響は出なぃと思ぅけど~、ツェッペットが受けた影響を、みんなピノッキォが受け継ぃじゃっててねぇ~。だから…」
「ジミーの世界の邪鬼を全部 身に内包しているピノッキオを、別の世界…俺たちの世界へ連れ出せ。っていう事か」
「そぅそぅ~。幸ぃにもさ~、章太郎氏は、強い聖力? を持ってるでしょ~。だからさ~、ピノッキォが章太郎の側に居ればぁ、ぃつかピノッキォの中の邪鬼が、消滅すると思ぅんだよねぇ~」
「…成る程」
 ジミーの言い分は、納得出来たけれど。
「最後に一つ…ジミー、お前は俺の名前とか童話同人誌世界だけじゃ無くて、聖力の事も知っているよな…。お前…ていうか…お前たちの世界って、何なんだ…?」
 童話世界全体の神様的な世界、だろうか。
「章太郎氏たちの言ぅ、蜃鬼楼だょ~♪」
「「「「「蜃鬼楼っ!?」」」」」
「? シンキロー? あの、海底の貝が出すとか言う、アレか?」
 というピノッキオの質問に、章太郎たちは「この世界には、蜃鬼楼的な脅威がいないっぽい」と考える。
 戦闘隊長であるブーケが、いち早く現状理解に努めた。
「つまり…ジミーは蜃鬼楼、という認識で、良いのだな?」
「ぅん~。ぁ、でもね~、章太郎氏の良~ぃ香りな聖力とか、吸ぅ気はなぃから~♪」
 と、ジミーはニコニコ笑顔で、章太郎の首筋を撫でてたり。
「蜃鬼楼~? でもなんか、すっごい、お友達っぽいよね~♪」
 美鶴は、蜃鬼楼かどうかではなく、仲良くなれる事が楽しいらしい。
「ぇへへ~♪ 蜃鬼楼にも、色々ぃるからね~♪」
 とか、美鶴の指先とジミーの掌で、ハイタッチ。
「ですが…じみーさんからは、蜃鬼楼の特有な気配とか、感じられませんでした…」
 という雪の疑問にも、章太郎は同感する部分があった。
「たしかに…お供たちもみんな、警戒してなかったからな」
 見ると、子犬も子猿も小鳥もヌイグルミ刀も、みんな、章太郎たちの傍らで大人しく座って、尻尾を振っている。
「で? コイツはその、貝の幻なのか? 触れるじゃんか」
 ジミーの頭を人差し指で軽く突っついたピノッキオは、当たり前だけど、まだ蜃気楼だと思っていた。
 章太郎は、思った疑問を口にする。
「ジ、ジミーが、蜃鬼楼っていう話を、信じるとして…なんでその、普通にしゃべれるんだ?」
「主様の、仰る通りに御座います! 以前に遭遇いたしました『友好的と判断される蜃鬼楼』は、言葉もおぼつかない様子に御座いました!」
 有栖がジミーに対して警戒している理由は、召使いとして極力、主を危険に晒さない心構えであった。
 蜃鬼楼だと解った以上、出来るならジミーを主の首元から引き剥がしたい有栖である。
 しかし、その主である章太郎が肩の上のジミーという存在を認めている以上、有栖は有栖なりに、ジミーを最大限に注視するしか出来なかった。
「あ、有栖…俺は大丈夫だよ。それで、ジミー…」
 忠実な召使いに配慮して、章太郎はジミーからの答えを望む。
「まぁ~、こぅぃぅ蜃鬼楼もぃる~、って事かな。基本ね~、体力組とか頭脳組とか、ぁるからね~」
「そうなんだ…」
 蜃鬼楼も、タイプとしては一種類ではない、という話だ。
「つまりジミーは…なんて言うか、聖力を奪う事を望まない組…いわゆる『穏健派』って事か?」
「そぅそぅ~それ~。 争いとか~、好きじゃなぃ派~♪ 他にもいっぱぃ居るよ~、穏健派~♪」
 以前に遭遇した、戦いを望まない蜃鬼楼と、話は一致する。
 章太郎は、これまでジミーが語った話を、自分が理解する為にも纏めた。
「つまり…爺ちゃんが開けた時空間の壁の穴から、ジミーたち蜃鬼楼の世界の…なんらかの力が、この童話同人誌なピノッキオの世界へと流れ込んで、ツェッペットが影響を受けて、その影響力が作りだしたピノッキオへと移って…今はジミーの仲間が力の流出を防いでるけれど、現状の異変を取り除く為にも、俺たちがピノッキオとスイミーをこの世界から連れ出す…っていう事か?」
「そぅそぅそのとぉり~♪ 章太郎氏、理解が早~ぃ♪」
「「「「なるほど…」」ですね…」に御座います…」
 と、章太郎とブーケと雪と有栖が納得をした傍らで、美鶴に異変が。
「なる――ぁむ…んむ、らんふぁふひひふぁひっは(なんか口に入った)~」
 小さな掌の上にペっと吐き出したら、小さくて黒い小魚が、ピピチと跳ねていた。
「まぁ、すいみーちゃん…っ!」
 知り合いの唐突な再登場に、雪も驚く。
「ぁ~、丁度スィミーも到着したね~。この雨に乗せられて、飛ばされてきたのかな~」
 海で竜巻が起こってスイミーが吸い上げられて、章太郎たちの元へ、雨と一緒に降ってきたらしい。
「それで美鶴の口の中とか…なんてストライクっていうか…。あ、有栖、なにかコップとか、用意できるか?」
「はい! 申しつかりました、主様!」
 命を受ける喜びで返答しながら、メイド少女はドレスのパーツからカップを作り、雪の神通力で潮水を溜め込んだ。
「サンキュー。これで…」
 スイミーの生活環境は、一応だけど確保が出来て、美鶴も安心。
「危なかった~。ウッカリ飲み込んじゃうトコロだったよ~♪」
「はは…小魚だしな」
「………オレは…」
 談笑をする章太郎たちの傍らで、ピノッキオは複雑に美顔を曇らせていた。

                    ~第七十九話 終わり~
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