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☆第七十八話 お持ち帰りどうぞ☆
しおりを挟む「俺を、呼んだ…?」
「ショータローを…」
「呼んだのは…」
「コオロギさんなの~?」
「主様を…呼ばれたのですか…?
ジミーの言葉に、章太郎たちは驚愕をした。
「うん。って言っても、このジミーが直接呼んだってワケでも 無ぃんだょお」
ややクセのある話し方で、ジミーは自分を名前で呼ぶ。
「ジミーが呼んだんじゃ無いって、じゃあ…あれ?」
外から雨の音が聞こえてきて、壊れた屋根から雨漏りがし始めた。
「雨が降ってきた――うわわ!」
「大変な雨漏りですわ」
「主様っ、応急的に御座いますが…っ!」
家庭的な雪と有栖が、ツェッペット家のヒビが走るお皿などを持ち出して、滴る雨たちを受け止めるけれど、お皿か足りない。
「ぁあぁ~、またぁ~、雨なんだねぇ~」
「「「雨だぁ~」」」
長男らしいパノッキオが身体を変形させて、床面積の三分の一ほどのスペースで、雨垂れを受け止めて始めた。
雨漏りを楽しむプノッキオたち三人は、それでも出来上がった料理を、父であるツェッペットへと運んだり。
「おぉ~、美味そうな野菜のスープだなあ♪」
怠け者キャラが徹底しているツェッペットは、雨漏りだろうと気にもせず、ご飯を食べ始める。
「…凄いモノだな、キミのお父上は…」
「な? 呆れてモノも言えないだろ? ハッハッハ」
ブーケの感想に、ピノッキオは呆れた笑いで返した。
「…雨か…」
「? 章太郎氏?」
「…童話世界の雨…なんか、ここの世界は かなり変容しているっぽいけど…」
童話世界で、雨が降るシーンは少ないからだろうか。
章太郎は雨という現象に、ちょっとヲタク魂が反応してしまった。
「うぅ…気になるからっ…」
章太郎は、濡れてキシむ扉を開けて、山へ続く森の樹木を注視する。
「………誰もいないな…」
「ど~したの~?」
美鶴だけでなく、お供たちも雨空を見上げながら、章太郎を気にしているようだ。
章太郎は、近くの大樹の下へ走ると、高く繁る枝葉を見上げて大きく口を開け、滴り落ちる雨雫を口の中で受け止め始めた。
「っ! あっ、主様なにをっ!?」
主の奇行に、メイドロイドである有栖が驚愕をして、主の元へと走り寄る。
「あっ、主様っ! 申し訳御座いませんっ、有栖が気付かずにっ! 喉をっ、潤されるのであればっ、この有栖がっ、御用意を…っ!」
都会でなくても、煮沸消毒をした湯より清潔とは言えない雨水を、仕える主が飲んだ事に、メイドロイドの少女は自分の失態だと、強く恥じ入った。
「え、あぁ…ゴメン、違うよ有栖」
「…うぅ~」
主の奇行の真相が解らなくて、メイド少女は申し訳なさ全開な涙目で、見上げてくる。
「ここの童話世界はさ、ピノッキオとスイミーだけじゃなくて、色々とおかしな事になってるだろ? だからさ…」
インドに「あまいアメの雨」という昔話がある。
貧しい子供の姉弟が、両親の残してくれた家の庭で、大変高価な財宝を掘り当てる。
弟は無邪気にも、それを近所の人たちに話してしまい、姉は困惑する。
姉は一計を案じ、弟の為に買ってあったアメを溶かして、水で薄める。
帰ってきた弟が庭の木の下で昼寝をしたので、姉は木の上からアメの水を垂らす。
起こされた弟が喜んで甘い水を舐めた頃、近所の大人たちが家へとやって来た。
財宝を分けろと言い出したので、姉は弟に語らせる。
無邪気な弟は、庭で財宝を掘り当てた事や、今さっき甘いアメの雨が降った事を話す。
大人たちは、子供が寝惚けたのだと、笑って帰って言った。
姉妹は、掘り出した財宝を少しずつお金に換えながら、幸せに暮らした。
「…って話でさ」
「ほぉ、そんな物語もあるのか」
「ショータローお前ぇ、色々と学があるんだなぁ」
いつの間にか、ブーケとピノッキオも、大樹の下へとやって来ていた。
「まぁそれで…木の下に少年とか居ないのは、見て解ったんだけど、なんとなく雫を…」
流石に、唐突で非衛生的で非常識っぽい行動だったので、ヲタク特有な「やってから恥ずかしかった」状態の章太郎である。
「それで、雨は甘かったのか?」
真面目なブーケは、真剣に問う。
「いや、普通の雨っていうか…童話世界の雨だから、俺たちの世界よりも安全な気はするけどな」
章太郎の肩に乗ったままだったジミーが、章太郎の言葉に、ある納得をした。
「なるほどなるほどぉ。章太郎氏は、この世界を素直に童話世界だとぉ、理解をしてぃるつて事なんだねぇ」
「どういう事?」
ナゾな言い方のジミー。
「まずはさ、そもそもこの世界は 章太郎氏が考えてぃるよぅなぁ、ぃわゆる童話世界じゃぁなぃんだょねぇ」
「えっ!?」
「ぁんたさんの知識とかも含めて察するにぃ、ぁんたさんが感じている『この世界の違和感』もぉ、元々の世界とは色々と違うぅ。ってぃぅ事なんじゃなぃぃ?」
言い当てたジムニーへ、章太郎も素直に応え、問うた。
「あ、あぁ…その通りだ。俺は…この童話世界は、ピノッキオのだと思っているけど、スイミーが混じっていたりして、なんかゴッチャになってるって、感じてる…! その上でだけど…ジミー、お前はこの世界が、そもそも素直に童話世界じゃないって…そう言いたいのか?」
「ご名ぃ算~♪」
「オレの世界ぃ? なんの話だ?」
当事者というか、物語の主人公であるピノッキオには解らない話でも、仕方が無い。
「あぁ…うむ、なんと説明すれば良いだろうか…」
疑問を向けられたブーケも、返答に困ってしまった。
「なあジミー、素直に童話世界じゃないって…それはどういう意味だ?」
「う~ん、なんて言うのかなぁ…。世界で読み継がれている物語ではなくて、もっと少人数に認識されている世界…っていうのかなぁ」
「少人数…?」
一つの童話を根幹として、様々な作家による多種多様なバリエーションがある童話の物語だけど。
「その中でも、あまりみんなに読まれていない…通俗的な言い方をすると、売れてない童話絵本の世界。っていう事?」
「それとも違ぅんだよねぇ…。もっとこぅ…人の知識としてぇ、狭く深くぅ…みたぃな世界ぃ?」
「…マニアックな世界っていうか…趣味で執筆された世界…同人誌ー的な…?」
章太郎の推測は、正解に近かったらしい。
「あぁー、そのドゥジンシ? とかは解らなぃけどぉ、趣味を同じくする人たちが、深く愛してる世界? ってぃぅ意味では、ほぼ正解って言えるのかなぁ♪」
「つまり、この世界は ピノッキオに関する童話の同人誌…って事か…」
キッチンの整理を済ませた美鶴と雪も、近くで章太郎たちの会話を聞いていた。
「同人誌~? あの薄い本~?」
「あ、あの、いかがわしい書物ですか…?」
魔法少女系の薄い本を、美鶴は何冊か読んだ事があるらしい。
「え、いや、そういうジャンルではなくて…」
「なんだぁ? ショータローお前ぇ、なんかやらしーの、好きなのか?」
「だからそうじゃなくてっ」
同人誌はエロばかりではないと、童話系の創作本をチェックした事のある章太郎は、力説をした。
「でぇ、この童話世界なんだけどぉ。この世界にとっての異物ってぃぅの? それがスィミーとぉ、このピノッキオぉ、なんだよねぇ」
「「「「「ぇえっ!?」」」」
「? オレぇ? なんだよこのコオロギめっ、オレがいらない娘だぁ?」
章太郎たちみんなが驚き、更に当事者であるピノッキオも、不満で美顔を曇らせる。
「少なくともぉ、この狭小な童話世界ではって話さ。章太郎氏なら、解るでしょぉ?」
「あ、ああ…なんとなくだけど、ジミーの言いたい事は、すごく解る」
この世界の女神様は、ピノッキオとパノッキオを、ゴッチャにしている様子だし。
「だからさぁ、章太郎氏。ぁんたさんには、このピノッキオと、スィミーの二人をぉ、連れてって欲しぃってぇ話なんだよねぇ」
「俺が、ピノッキオとスイミーを連れてく…?」
驚きながらも現状を認識する章太郎に、ジミーは笑顔で頷いた。
「? オレが何だって? なーブーケ、この二人、何を話してるんだ?」
事態が理解出来ないピノッキオへ、流石に理解が早いブーケが、説明をする。
「うむ。どうやら ボクたちがこの世界へ呼ばれたのは…ピノッキオ、キミとスイミーの両名を、ボクたちの世界へ招待する為…だったようだな」
「? ? ?」
まだ理解が出来ていないらしいピノッキオの「?」顔も美しい。
そして章太郎が、この世界へ呼ばれた理由を、理解をする。
「…たしかに、この世界の異物と言えるのは スイミーだと思うけど…ピノッキオも…」
「狭小な理解で想像された この童話世界のピノッキオはぁ、美しぃ少年と確定してぃるんだよねぇ。だから、その中性的なピノッキオはぁ、異物混入による結果なんだぁ。キミたちが連れだしてくれればぁ、ツェッペットはまた新しぃ、この世界の本物のピノッキオをぉ、作り出すんだよぉ」
「そうすれば…この世界が正常に戻る。って事か」
「そぅそぅ~♪」
ピノッキオの童話世界だけど、同人誌的な世界であり、現在のピノッキオは異物。
「…ちょっと切ないなー…」
まだ理解が出来ていないピノッキオの美顔を見ながら、章太郎は少し寂しく感じた。
~第七十八話 終わり~
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