御伽噺GIRLS!! ~赤ずきんちゃんが銃を撃ったり雪女が冷気で斬撃をしたり恩返しの鶴が魔法少女に変身をしたり~

八乃前陣(やのまえ じん)

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☆第七十四話 木製人間☆

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 比較的に裕福ではない街外れは区画整理もされておらず、真っ直ぐな道路は、ほとんど無かった。
 無計画に雑然と、特に大きさや形もバラバラな感じに家々が立てられていて、家と家の間が道のような造りである。
「…わ、こっち また行き止まりだ…!」
 道というか、歩ける場所をとにかく歩いて、家を曲がるとすぐ行き止まりだった場合もガッカリするけれど、数十メートルをグネグネと歩いて行き止まりだった場合は、とにかく精神が疲労させられていた。
 こういう時に、自分の才能をテキパキと発揮するのは、ブーケと有栖である。
「有栖、どうだ?」
「はい、チエリージャ様のお住まいから山へと向かう道程の、十・一六パーセントの行き止まりを 確認いたしました」
 元メイドロイドで現メカ生体メイドの有栖は、コンピューターのメモリーへ近辺の地図を記録して、軍隊で訓練を受けたブーケが、ルート探索の指示をしていた。
 チエリージャの家を起点として、山へ向かう道を一本一本歩いて、分かれ道を曲がって行き止まりになったら、また分かれ道へ戻って別の道へ。
「…という感じで、有栖ちゃんは 道を記憶しているのですね」
「はい♪」
「すご~い! あたしなんて、飛んで空から見ても~、屋根が邪魔して道が見えなかったもんね~♪」
 という道探索は、章太郎が最初に思いついて美鶴に試して貰った方法だった。
「急がば回れ。とは言うけどな…」
 一時間近く歩いて、まだ十パーセント程しか、行き止まりを潰せていないのである。
 仮に、代々で住み続けている人々がいるとすれば、生まれ育ったこの近辺など庭の如きなのだろう。
 けれど、初めて来た章太郎たちには、単なる複雑迷路だ。
「…とはいえ、誰にも訊けないっぽいしなぁ…」
 先ほどから、チエリージャ以外の人間を、見かけない。
 童話的には街外れという設定だけだからか、チエリージャ以外の住人は、そもそも存在しているかどうかも危ぶまれたり。
「ふぅ…ちょっと休もうか」
 家々の間に、雑草も生えっぱなしな空き地があったので、少し休憩を取る事にした。
「畏まりました、主様♪」
 こういう時は、有栖の独断場である。
 メイド少女な有栖は、いつ如何なる時でも主のお茶を用意出来るよう、街を探索した際に、綺麗な水をタップリと確保していた。
「~♪」
 いつも通り、鼻歌交じりでメカメイド・ドレスから変形させたカップ類を用意して、五人分の紅茶を煎れる。
「では、私も…」
 雪は、神通力で空気から水分を取り出して、お供たちへの飲料水とする。
 お茶が用意出来るまで、美鶴は鶴へと変身をして、これからの道を空から探索。
 ブーケも、美鶴からのスマフォで地図をチェックして、より効率的な探索ルートを考えていた。
「…みんな、凄いなぁ」
 実際には、この童話世界で知るべき情報を得る順序立てを考えたり、その為の行動を決定したりと、章太郎はリーダーとして活躍している。
 しかしそういう行動は、自己評価としても、あまり高くないのも事実。
 なんだか、自分だけが役に立っていない気がする少年である。
「主様、お茶の支度が 調いまして御座います♪」
「あ、ありがとう。美鶴ー」
「は~い♪」
 空の美鶴を呼んだら、鶴のまま返事をくれて戻ってきた。
 章太郎は、空き地の岩を転がして集めて円座にして、ハンカチで拭いて椅子とする。
「みんな、ご苦労様。それじゃあ」
「「「「「戴きます」」」」~♪」
 有栖は今回、雪と協力して、アイスティーを煎れてくれた。
 疲労した精神と身体に、冷たくて甘いアイスティーは、心地良く沁みる。
「ん…ふぅ、美味しいなぁ♪」
「有り難う存じ上げます…♡」
 主にサラっと褒められて、メイド少女は耳まで真っ赤に染まっていた。
「それにしても、童話世界だからー、だろうけど…」
 スマフォの時計で、四時間近くが経過しているけれど、まだ昼間だ。
「童話世界と俺たちの世界では、時間の経過も違うってのは、前にも経験してたっけ…」
 と、有栖へ向くと。
「はい。童話世界で三時間ほど過ごしましたが、帰還を果たした際の現実世界の経過時間は、一時間ほどでございました」
 かつて、有栖と二人で転移した童話世界との時間のズレは、確かに存在した。
「今回も、時間のズレがあるのかどうか…戻ってみないと解らないけどさ。まあ、こっちでの一時間が現実世界での一年ー、とかじゃない事を願うだけだな」
「あ~それはヤだね~♪」
 とか冗談を言える余裕が章太郎にあるのは、少女たちやお供たち、みんながいるからである。
 一人だったら、焦って落ち着かなかっただろう。
「あ、それでさ~。さっき空から見て~、ちょっと考えたんだけどさ~」
「ん?」
 美鶴が思いついたのは、名案というより、当然至極な発想と言えた。

 休憩の後、章太郎たちは美鶴と鳳翼丸の鳥重合体「鶴凰丸」の上にいた。
「なるほど…」
 美鶴の提案とは、空から山の麓まで飛んで、山からツェッペットの家を探す。
 という手段。
「うむ、美鶴も思いついたモノだな。確かに、山と隣接している民家は 六軒ほどしか無いようだし」
「私たちも、なぜ思い至らなかったのでしょうか」
 と、少女たちからも大絶賛である。
「えへへ~♪ そんなに褒めても、何も出ないよ~♪」
 賞賛された美鶴も鳳翼丸も、照れくさそうだった。
 数分で山の麓へ着陸をして、美鶴も少女姿へ、鳳翼丸もヌイグルミ形態へと戻る。
「ご苦労様、それじゃあ…家は六軒か」
 この童話世界は、必要以上の登場人物が、存在していないっぽい。
 スイミー系は海中限定なので、カウントに入れなくても、差し支えは無いだろう。
「山の麓となると、登場人物も ツェッペットとピノッキオくらいだろうから、順番にノックして行こう」
 向かって右の家から、章太郎がノックして尋ねる。
「すみませーん」
 返事はなし。
「…ご不在のようでございますね」
「ここじゃないんだろうな」
 二件目も三軒目も返事が無く、四件目をノックすると、返答があった。
『へーい』
「?」
 ノックをした章太郎が「?」になったのは、ガサツな感じの返答に比して、その声はとても綺麗だったからだ。
「…女の子なのに 下町の兄さんみたいな返事だな」
 とか、少女たちと顔を合わせたら、扉が開かれた。
「誰だーい?」
 立っていたのは、平均的な身長の、木製人形だった。
 色褪せたボロ布のシャツとショートパンツは、男性物の古着だろうか。
 顔や両腕、剥き出しの腿は、人間の肌ではなく、木目であった。
 頭髪は緑色で、髪ではなく極細い蔓草の集まりで、男子のようなショートカット。
 そして面立ちは、中性的な男子とも女子とも取れる、美しい整いを魅せていた。
 大きなタレ目は瞳も緑色で、透き通っていて中心は深い黒色で、翡翠を思わせる。
 小鼻は鼻筋が通っていて、脣も小さくて控えめ。
 全身のラインは華奢な感じだけど、バストも小振りでスレンダーにバランスが整っていて、性別は特定できなかった。
「………」
 これが木製人形だと、認識としては理解出来ているけれど、余りにも中性的な美しさ故に、少年は感覚として理解をするのに、僅かな時間を要してしまう。
「「「………」」」
 そんな少年を、ブーケと雪と美鶴が、何か思い有り気に見つめたり。
「主様」
「――ハっ!」
 有栖に呼ばれてハっとなって、慌てて取り繕う。
「あ、えっそのっ…ココは、ツェッペット氏のお住まい ですか…?」
「そうだけど、あんたたち 誰だい?」
 怪訝そうな顔も中性的な美しさが曇ることなく、むしろ剥き出しな肩や腿など、背徳的で危険な雰囲気すら感じさせてくる存在だ。
 美しさに戸惑っていた少年だけど、目の前の存在が間違いなくピノッキオだと意識をすると、知識系の童話ヲタクは、落ち着きを取り戻す。
「えぇと」
 ツェッペット氏はご在宅ですか?
 と聞こうとしたら、木製人形は、思い当たる節で、先回りをしてきた。
「あ、もしかしてアレか? レストランから、いよいよ代金の請求か? 悪いけど、ツェッペットは銅貨一枚も 持ち合わせちゃいないぜ」
「え、いや…」
「あ、それともアレか? 酒場で飲んで払ってなくて取り立てか? どっちにしても、ウチに金は無いぞ。あ、まさかチエリージャのオッサン、今さら松の木の代金を払えとかヌかしに来やがったのか? まあ、借金の取り立てじゃない事だけは確かだろうな。ウチの親父はダメ人間だけど、借金だけはしないからな。取り立てが怖くて」
「「「「「………」」」」」
 章太郎だけでなく、御伽噺の少女たちも、呆気にとられる。
「…えっと、キミは、あの…」
「ん? ああ、オレはピノッキオ。親父が作った木の人形だ」

                        ~第七十四話 終わり~
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