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☆第七十二話 確定情報を欲して☆
しおりを挟む「えっ? ピノッキオとスイミーっ? えっ? えっ? そんなコラボレーション童話がガチなレベルで発刊されていたって事っ? えっ? ぇええっ?」
現在は「元」とはいえ現実主義者だったからか、現実世界とは真逆なファンタジー世界での想定外な現象を目の当たりにして、章太郎は軽く混乱をした。
「あ、主様~っ、うぅ~ん…っ!」
忠実な召使いの有栖も、初めて体験する主のテンパリに、どう対応をすれば良いのか解らず、一緒に混乱をしている。
「あはは~、章太郎君が混乱してる~♪」
「大変 珍しい光景ですわ」
御伽噺世界が出身の雪と美鶴は、特に慌てている様子も無し。
そしてこの混乱の中、現実世界で陸上自衛隊とアメリカ陸軍の特種訓練を受けたブーケが、最も冷静だった。
「まぁ落ち着け、ショータロー。それに有栖もだ。まずこういう時は、取り敢えずでも 目の前の現象を整理してみよう」
「え、あ、そぅだよな…」
「は、はい…それでは、有栖は…」
深く息を吐く章太郎と、メイドドレスのパーツからお茶の支度を始めた有栖。
「雪様、恐れ入りますが、蒸留水を 戴けますか?」
と、ポットを差し出す有栖。
「はい。神通力…っ!」
雪は、雪女としての能力で、ポットの中に小さな吹雪を発生させつつ、一瞬で解かして水へと変化をさせた。
有栖が五人分のお茶を用意する間、章太郎は考える。
「と、とにかく…この街がベネツィアで、チエリージャがいるんだから…ベースはピノッキオの童話世界と考えて、良いんだよな…ブツブツブツ」
「主様、お茶の支度が 調いまして御座います♪」
メイドとしての努めを始めた有栖は、すっかり落ち着いた様子だ。
「ありがとう…ブツブツブツ」
「ボクたちも、戴こうか」
「うん~♪」
「とても美しい色合いの紅茶です…♪」
それぞれが近場の段差へ腰掛けて、お茶を戴く。
「ズズ…あぁ、美味しいな」
「有り難う存じ上げます。主様♡」
主人が安息する事が、召使い少女にとって、何よりの喜びであった。
海を眺めながら、章太郎は考えを順序立てて、口にする。
「…とにかく、この物語世界のベースはピノッキオで、理由はともかく別の世界のキャラクター、スイミーがいる。スイミーの世界からはスイミーしかいない…」
「うむ」
相づちを打つブーケ。
「なんでそうなったのかはともかく、更に他の童話世界のキャラクターたちが混じっている可能性も、まだあるんだよな」
「なるほど…」
雪も頷く。
「…取り敢えず、俺たちが知るべき事は、その『更に他の世界のキャラクターが混じっているかどうか』を調べる事だと思う」
「ふ~ん」
美鶴は、余り深くは考えていないっぽい。
目的が絞られてくると、少年の瞳にも、自信の光が戻ってきた。
「よし! まずは街へ戻って、他の童話のキャラクターについて、みんなでそれぞれ 聞いて廻ろう」
「承りまして御座います、主様。して、どのようなキャラクターを探せば 宜しいのでしょうか?」
童話に関する知識は、童話出身のキャラクターである少女たちであっても、自分の童話しか知らなくて当然だろう。
特に有栖は、童話世界のアリスではなく、現実世界でメイドロイドとして生まれた存在であるから、知らなくても当たり前だ。
「そうだな…『動物売り』『まっくろくろのオバケ』…消防士…とか獣医さん…は、普通の職業か。あとは…『カテリネッラ』という少女とか…『梨の子ペリーナ』も女の子で…あとは『鬼』…あたりかな」
「「「「鬼っ?」~っ?」ですかっ?」で御座いますか?」
鬼と言われて、少女たちは蜃鬼楼を想像したらしい。
「あぁ、いや…こちの世界文化で言えば、妖精みたいな感じで考えても 良いと思う」
東洋の鬼は丑虎だけど、西洋の鬼は妖精の一種と考えて、差し支えはない。
「取り敢えずは、そんな感じかな。えっと…さっき、街の大通りに噴水があったから、あの場所に三十分後に集合。でどう?」
「わかった。ボクたちみんなが手分けして聞き回って、情報を集めよう」
戦闘隊長のブーケが纏めて、みんなで了解。
「みんな、スマフォ持ってるよな。有栖は、体内時計で時間が解るんだっけ」
「はい」
章太郎が、カップの紅茶を飲み干すと、みんなも従う。
「ぷはっ…それじゃあ、調査開始だ!」
「ああ!」
「はい!」
「了解~♪」
「ご指示を戴きました♪」
五人は街へ戻って、キャラクター探索を開始した。
三十分後、章太郎は噴水へと集まり、調査報告。
「どうだった?」
ブーケの答えは、章太郎の調査結果と同じだった。
「うむ。ショータローの言っていたキャラクターは、みな 知らないと答えていたな」
雪は。
「私も同様でした。ただ、スイミーについては、皆さんご存じでした」
「あたしも~、みんなそう言ってたよ~。それとね~」
美鶴は、他にも情報を仕入れてきたらしい。
「チエリージャさんって~、街外れに住んでるんだって~♪」
と言いながら、山の方角を指さした。
「なるほど…チエリージャは、まあバージョンによって違いはあるけど…基本は大工さんだしな。山の近くに住んでいるってのも納得だ」
「主様」
と、手を上げて発言権を求めたのは、召使い少女の有栖。
「うん?」
メイド少女にとっての発言許可を戴くと、有栖は恭しく礼を捧げて、発言をした。
「この童話世界の、最重要キャラクターと思われます ピノッキオと、ゼペット氏に関してなのですが…」
「うん」
「ピノッキオという木製人間の存在は、この街でも存じている方々は少数のようで。それと、愚考いたしますが、ゼペット氏と同一人物と思われる人名で、ツェッペット氏…という方が存在しているようです」
報告を終えた有栖は、また恭しい綺麗な礼を、主へと捧げる。
「なるほど…。ツェッペットは、たしかに原文の意訳でもあるから、いわゆるゼベットと同一のキャラクターだろうな。それで有栖、ツェッペットの家とか、解った?」
主からの問いに、メイド少女は誇らしげな気持ちを隠しきれず、つい笑顔で応えた。
「はい、主様♪ 先ほど美鶴様がご報告をされていた、街外れの更に山に近い一角が、いわゆる貧民街なのだそうです。ツェッペット氏は、貧民街の更に果ての、最も貧しい一角にいらっしゃる…との事でした」
有栖の報告に、章太郎も山の方へと向いて、呟く。
「貧民街か…なるほどな」
「ショータロー。ピノッキオを製作したツェッペット氏とは、貧民なのか?」
意外とストレートに聞いてくるブーケだ。
「ああ…。原典だと、その日の食べ物もレストランの残り物を貰うくらい、生活に困窮している設定なんだ。それに、チエリージャとは知り合いだけど、ツェッペット自身は特に木工に関わってる…という訳でも無いんだ」
その日暮らしのような中年のツェッペットが、町の人形劇団の人形を見て、ピノッキオを作る。
「無職の中年男性なんだ~」
「ま、まぁね…」
美鶴も無自覚に辛辣。
「みんなの調査だと、すでにピノッキオが製作されている。という事だな。とにかく、まずはチエリージャの家へ行ってみよう。ピノッキオは 元々、チエリージャが山で手に入れた立派な材木、っていうのが出発点だからな」
五人が街外れまで来ると、風景は少し変わった。
「…貧民街が近いからかな…」
貧民の人たちに偏見がある訳では無いけれど、建てられている家屋は割と古く、壁にはヒビなども走っている。
屋根などもアチコチが痛んでいて、地区も全体的に埃っぽい感じがした。
「なんというか…町造りとして 雑然としている感じがするな」
「申し訳ありませんが、私も…」
さっきまでいた街と比べても、区画整理がされていない。
「で、でもまだ 貧民街じゃないんだよな…」
家に表札があるワケでもないので、とにかく章太郎たちは、家々を尋ねてチエリージャの住まいを探した。
「章太郎くん~、アレだって~」
美鶴が指さした建物は平屋造りの一軒家で、幅は二件分くらいあって、半分は木工の工場のようだ。
「なるほど…よし」
章太郎を先頭に、五人は工房へとオジャマをする。
あまり広くない工房には、ノコギリやカンナ、木槌や木材などが、トコロ狭しと雑然に散らかっていた。
作業用テーブルの上には、製作途中の椅子の脚部が置かれている。
「えぇと…ゴホん。チエリージャさんは、いらっしゃいますかー?」
声を掛けて、数秒が過ぎて。
「んん~? 誰か呼んだか~?」
と、やや小太りな初老の男性が、姿を現した。
~第七十二話 終わり~
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