上 下
72 / 134

☆第七十二話 確定情報を欲して☆

しおりを挟む

「えっ? ピノッキオとスイミーっ? えっ? えっ? そんなコラボレーション童話がガチなレベルで発刊されていたって事っ? えっ? ぇええっ?」
 現在は「元」とはいえ現実主義者だったからか、現実世界とは真逆なファンタジー世界での想定外な現象を目の当たりにして、章太郎は軽く混乱をした。
「あ、主様~っ、うぅ~ん…っ!」
 忠実な召使いの有栖も、初めて体験する主のテンパリに、どう対応をすれば良いのか解らず、一緒に混乱をしている。
「あはは~、章太郎君が混乱してる~♪」
「大変 珍しい光景ですわ」
 御伽噺世界が出身の雪と美鶴は、特に慌てている様子も無し。
 そしてこの混乱の中、現実世界で陸上自衛隊とアメリカ陸軍の特種訓練を受けたブーケが、最も冷静だった。
「まぁ落ち着け、ショータロー。それに有栖もだ。まずこういう時は、取り敢えずでも 目の前の現象を整理してみよう」
「え、あ、そぅだよな…」
「は、はい…それでは、有栖は…」
 深く息を吐く章太郎と、メイドドレスのパーツからお茶の支度を始めた有栖。
「雪様、恐れ入りますが、蒸留水を 戴けますか?」
 と、ポットを差し出す有栖。
「はい。神通力…っ!」
 雪は、雪女としての能力で、ポットの中に小さな吹雪を発生させつつ、一瞬で解かして水へと変化をさせた。
 有栖が五人分のお茶を用意する間、章太郎は考える。
「と、とにかく…この街がベネツィアで、チエリージャがいるんだから…ベースはピノッキオの童話世界と考えて、良いんだよな…ブツブツブツ」
「主様、お茶の支度が 調いまして御座います♪」
 メイドとしての努めを始めた有栖は、すっかり落ち着いた様子だ。
「ありがとう…ブツブツブツ」
「ボクたちも、戴こうか」
「うん~♪」
「とても美しい色合いの紅茶です…♪」
 それぞれが近場の段差へ腰掛けて、お茶を戴く。
「ズズ…あぁ、美味しいな」
「有り難う存じ上げます。主様♡」
 主人が安息する事が、召使い少女にとって、何よりの喜びであった。
 海を眺めながら、章太郎は考えを順序立てて、口にする。
「…とにかく、この物語世界のベースはピノッキオで、理由はともかく別の世界のキャラクター、スイミーがいる。スイミーの世界からはスイミーしかいない…」
「うむ」
 相づちを打つブーケ。
「なんでそうなったのかはともかく、更に他の童話世界のキャラクターたちが混じっている可能性も、まだあるんだよな」
「なるほど…」
 雪も頷く。
「…取り敢えず、俺たちが知るべき事は、その『更に他の世界のキャラクターが混じっているかどうか』を調べる事だと思う」
「ふ~ん」
 美鶴は、余り深くは考えていないっぽい。
 目的が絞られてくると、少年の瞳にも、自信の光が戻ってきた。
「よし! まずは街へ戻って、他の童話のキャラクターについて、みんなでそれぞれ 聞いて廻ろう」
「承りまして御座います、主様。して、どのようなキャラクターを探せば 宜しいのでしょうか?」
 童話に関する知識は、童話出身のキャラクターである少女たちであっても、自分の童話しか知らなくて当然だろう。
 特に有栖は、童話世界のアリスではなく、現実世界でメイドロイドとして生まれた存在であるから、知らなくても当たり前だ。
「そうだな…『動物売り』『まっくろくろのオバケ』…消防士…とか獣医さん…は、普通の職業か。あとは…『カテリネッラ』という少女とか…『梨の子ペリーナ』も女の子で…あとは『鬼』…あたりかな」
「「「「鬼っ?」~っ?」ですかっ?」で御座いますか?」
 鬼と言われて、少女たちは蜃鬼楼を想像したらしい。
「あぁ、いや…こちの世界文化で言えば、妖精みたいな感じで考えても 良いと思う」
 東洋の鬼は丑虎だけど、西洋の鬼は妖精の一種と考えて、差し支えはない。
「取り敢えずは、そんな感じかな。えっと…さっき、街の大通りに噴水があったから、あの場所に三十分後に集合。でどう?」
「わかった。ボクたちみんなが手分けして聞き回って、情報を集めよう」
 戦闘隊長のブーケが纏めて、みんなで了解。
「みんな、スマフォ持ってるよな。有栖は、体内時計で時間が解るんだっけ」
「はい」
 章太郎が、カップの紅茶を飲み干すと、みんなも従う。
「ぷはっ…それじゃあ、調査開始だ!」
「ああ!」
「はい!」
「了解~♪」
「ご指示を戴きました♪」
 五人は街へ戻って、キャラクター探索を開始した。

 三十分後、章太郎は噴水へと集まり、調査報告。
「どうだった?」
 ブーケの答えは、章太郎の調査結果と同じだった。
「うむ。ショータローの言っていたキャラクターは、みな 知らないと答えていたな」
 雪は。
「私も同様でした。ただ、スイミーについては、皆さんご存じでした」
「あたしも~、みんなそう言ってたよ~。それとね~」
 美鶴は、他にも情報を仕入れてきたらしい。
「チエリージャさんって~、街外れに住んでるんだって~♪」
 と言いながら、山の方角を指さした。
「なるほど…チエリージャは、まあバージョンによって違いはあるけど…基本は大工さんだしな。山の近くに住んでいるってのも納得だ」
「主様」
 と、手を上げて発言権を求めたのは、召使い少女の有栖。
「うん?」
 メイド少女にとっての発言許可を戴くと、有栖は恭しく礼を捧げて、発言をした。
「この童話世界の、最重要キャラクターと思われます ピノッキオと、ゼペット氏に関してなのですが…」
「うん」
「ピノッキオという木製人間の存在は、この街でも存じている方々は少数のようで。それと、愚考いたしますが、ゼペット氏と同一人物と思われる人名で、ツェッペット氏…という方が存在しているようです」
 報告を終えた有栖は、また恭しい綺麗な礼を、主へと捧げる。
「なるほど…。ツェッペットは、たしかに原文の意訳でもあるから、いわゆるゼベットと同一のキャラクターだろうな。それで有栖、ツェッペットの家とか、解った?」
 主からの問いに、メイド少女は誇らしげな気持ちを隠しきれず、つい笑顔で応えた。
「はい、主様♪ 先ほど美鶴様がご報告をされていた、街外れの更に山に近い一角が、いわゆる貧民街なのだそうです。ツェッペット氏は、貧民街の更に果ての、最も貧しい一角にいらっしゃる…との事でした」
 有栖の報告に、章太郎も山の方へと向いて、呟く。
「貧民街か…なるほどな」
「ショータロー。ピノッキオを製作したツェッペット氏とは、貧民なのか?」
 意外とストレートに聞いてくるブーケだ。
「ああ…。原典だと、その日の食べ物もレストランの残り物を貰うくらい、生活に困窮している設定なんだ。それに、チエリージャとは知り合いだけど、ツェッペット自身は特に木工に関わってる…という訳でも無いんだ」
 その日暮らしのような中年のツェッペットが、町の人形劇団の人形を見て、ピノッキオを作る。
「無職の中年男性なんだ~」
「ま、まぁね…」
 美鶴も無自覚に辛辣。
「みんなの調査だと、すでにピノッキオが製作されている。という事だな。とにかく、まずはチエリージャの家へ行ってみよう。ピノッキオは 元々、チエリージャが山で手に入れた立派な材木、っていうのが出発点だからな」

 五人が街外れまで来ると、風景は少し変わった。
「…貧民街が近いからかな…」
 貧民の人たちに偏見がある訳では無いけれど、建てられている家屋は割と古く、壁にはヒビなども走っている。
 屋根などもアチコチが痛んでいて、地区も全体的に埃っぽい感じがした。
「なんというか…町造りとして 雑然としている感じがするな」
「申し訳ありませんが、私も…」
 さっきまでいた街と比べても、区画整理がされていない。
「で、でもまだ 貧民街じゃないんだよな…」
 家に表札があるワケでもないので、とにかく章太郎たちは、家々を尋ねてチエリージャの住まいを探した。
「章太郎くん~、アレだって~」
 美鶴が指さした建物は平屋造りの一軒家で、幅は二件分くらいあって、半分は木工の工場のようだ。
「なるほど…よし」
 章太郎を先頭に、五人は工房へとオジャマをする。
 あまり広くない工房には、ノコギリやカンナ、木槌や木材などが、トコロ狭しと雑然に散らかっていた。
 作業用テーブルの上には、製作途中の椅子の脚部が置かれている。
「えぇと…ゴホん。チエリージャさんは、いらっしゃいますかー?」
 声を掛けて、数秒が過ぎて。
「んん~? 誰か呼んだか~?」
 と、やや小太りな初老の男性が、姿を現した。

                        ~第七十二話 終わり~
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

神様自学

天ノ谷 霙
青春
ここは霜月神社。そこの神様からとある役職を授かる夕音(ゆうね)。 それは恋心を感じることができる、不思議な力を使う役職だった。 自分の恋心を中心に様々な人の心の変化、思春期特有の感情が溢れていく。 果たして、神様の裏側にある悲しい過去とは。 人の恋心は、どうなるのだろうか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

放課後、理科棟にて。

禄田さつ
青春
寂れた田舎の北町にある北中学校には、都市伝説が1つ存在する。それは、「夜の理科棟に行くと、幽霊たちと楽しく話すことができる。ずっと一緒にいると、いずれ飲み込まれてしまう」という噂。 斜に構えている中学2年生の有沢和葉は、友人関係や家族関係で鬱屈した感情を抱えていた。噂を耳にし、何となく理科棟へ行くと、そこには少年少女や単眼の乳児がいたのだった。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

処理中です...