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☆第六十八話 ある闘い☆

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「みんなっ!」
「うむっ、大丈夫だ!」
「章太郎様は、安全な場所へっ…!」
「そ~そ~♪ あたしたちに任せて~♪」

 土曜日の昼過ぎに、クラスメイトから「なんかお前ら懸案な感じのがいる」と電話があって、章太郎たちは電車に乗って、県内でも都会とは反対方面の繁華街へ。
 少し裏道を入った丘陵地帯の広い斜面に到着をすると、電話をくれたクラスメイトよりも遙かに目立つ、巨大な蜃鬼楼と遭遇をしたのだ。
「で、でかい…っ!」
 クラスメイトたちとの挨拶もそこそこに、章太郎たちが注視したのは、全高が十メートル程もある巨大な二つの黒い三角形。
 小山と見るには二つとも急角度で尖っていて、天辺をぶつけ合っていたりもして、地面から生えた鳥の嘴のようでもあった。
「こ、これも…蜃気楼なのか…?」
 と疑問を口にするも、答えは明白だ。
「章太郎様…この気配は、間違い有りません…っ!」
 と、生真面目な雪が、少年の独り言へ答えてくれる。
 最近は、章太郎たちの活躍を県や市の広報で知った人たちも多く、みな以前から感じていた、蜃鬼楼に伴う「なんだか良くない気配」を、大雨警報などのように具体的な危険と認識をしていた。
 なので今も、章太郎たちへ連絡をくれたクラスメイトたちのように、蜃鬼楼を目撃している一般の人たちはみな、蜃鬼楼から大きく距離を開けている。
「ど、どうかな…?」
 章太郎は、この蜃鬼楼が友好的な個体かどうかを、気配で感じ取ろうと、集中をした。
「…うぅ、気分が悪い…」
「それじゃ~やっぱり~、悪い蜃鬼楼だよね~」
「そ、そう判断するよ。俺も…」
 深呼吸をして、章太郎の気分が落ち着くと、ブーケが戦闘の許可を求める。
「ショータロー」
「あぁ、やろう!」

 こうして、ブーケたち三人が変身をして、章太郎は三人の邪魔にならないよう、距離を取って人のいない後方へと下がっていた。
 少女たち三人の変身行程は、光に包まれて章太郎にしか見えないけれど、周囲の特にクラスメイト男子たちは、喝采を上げている。
 ――ッッガアアアアアアァァァァァアアッ!
 巨大な黒い嘴は、二体が全身をぶつけると協力な衝撃波を発して、赤ずきんの弾丸や雪女の氷竜巻、魔法少女の羽根手裏剣などを、本体へ到達する前に破壊してきた。
「こ、攻撃が、届かない…っ!」
 苦戦をする三人を援護するために、章太郎が変身をしようとした時、戦闘隊長の赤ずきんが告げる。
「ショータロー、大丈夫だっ! 援軍か来た!」
「えっ?」
 少女たちの視線を追うと、マンションの部屋で留守番をしていたメイド少女とお供のヌイグルミたちが、駆けつけて来た。
「主様~、皆様~っ!」
 ヌイグルミたちも、子犬が既に大きなメカ生体モードへと変身をしている。
 メカ狼のウルフィーは、ヌイグルミ刀を抱いたメイド少女と、ヌイグルミの小鳥と小猿を、背中へ乗せていた。
「有栖たちっ、来てくれたか!」
 章太郎の前へと到着をしたヌイグルミたちへ、章太郎が聖力を補充すると、ウルフィーはパワーが満タンになり、小鳥はメカ怪鳥の鳳翼丸へと変身をして、小猿はメカゴリラの家帝となる。
 ――っァオオオオオオオオオォォォォォォォォっ!
 ――っケエエエエエエエエェェェェェェェェェンっ!
 ――ゥゴホホオオオオオオオオオオオオオオっ!
「わぁ~っ、すげ~っ!」
「メカゴリラかっこい~っ!」
 メカ猛獣たちの登場に、特に一般人の男児たちは、大喜びで興奮していたり。
 大型のメカ狼は赤ずきんを背に乗せて、メカ怪鳥は魔法少女を背に立たせ、メカゴリラはクリア化させた胴体をオープンさせて雪女を収納合体をした。
「………」
 メカ狼へライドする銃撃少女や、メカ怪鳥の上に立って飛行をする魔法少女、メカゴリラの内部へと合体をする雪女。
 どれもこれも、少年心を擽るパワーアップ形態である。
「いいなぁ…」
 あんな感じの合体とかをしたくて、章太郎は先日、屋上で色々と試したりしたのだ。
 なのに今は、格好良い合体どころか、メイド少女に手を引かれて後方待避の身である。
「主様、こちらへっ!」
「は、はぃ…」
 男子としては、非常に情けなく感じてしまった。
「受けてみろっ!」
 メカ狼の高速疾走で、スピードの乗った弾丸が蜃鬼楼の衝撃波を突破して、黒い嘴へダメージを与える。
 上空からの、メカ怪鳥と魔法少女の高周波な怪鳥音によって、衝撃波そのものも弱められている。
 そして、メカゴリラの怪力+拳へ纏った極低温超硬質な氷パンチで、蜃鬼楼本体が容赦無く叩きノされて行った。
「「「オカルト・シュートっ!」」」
 ――っドオオオオオオオオオオオオオオオンンっ!
 御伽噺少女たちによる、聖光の必殺技を以て、蜃鬼楼は消滅をした。
「「「「「ぉおお~っ!」」」」」
 人々の賞賛を受ける御伽噺の少女たちは、赤ずきんは照れくさそうな笑顔で、雪女は恥ずかしそうに、魔法少女は満面の笑みで手を振って応える。
「ショータロー、怪我は無いか?」
 光の中で変身を解いた三人が、章太郎の元へと駆け寄った。
「うん、ありがとう」
 ヌイグルミ状態へ戻ったお供たちも、章太郎たちへと駆け寄って、じゃれる。
「みんな、ごくろうさま」
「えへへ~♪」
「怪我人が出なくて、何よりでした♪」
「主様、皆様、お疲れ様で御座いました。お茶の支度が 調って御座います♪」
 戦闘が終わると、有栖は丘陵の一角に設置されているテーブル席で、お茶の用意をしてくれていた。
「ああ、ありがとう。みんな 一息いれようか」
 緑地に日常が戻ってくると、一般の人たちも再び、休日を楽しむ。
 章太郎は、連絡をくれたクラスメイトたちと暫し談笑をしてから、有栖のお茶会へと戻ってきた。
 五人はテーブルを囲んで、有栖の焼いたクッキーと、有栖の煎れた紅茶を楽しむ。
「いただきます。あむ…ぉいひぃ♪」
 メイド少女がお茶を用意してくれているのは、少女たちやお供たちが、戦闘で聖力を消耗しいる事にも関係していた。
 お茶で気分も安らいだ章太郎から、少女たちやお供たちへ、聖力を補給する。
 さすがに、公の場での補強は少年的に恥ずかしいけれど、マンションへ帰ったらキスで補給をするのである。
 毎朝の補給で、戦闘後とはいえ少女たちの聖力に余裕があるけれど、初めて来た緑地でもあるし、今日のお茶会には気分転換の意味もあった。
(って感じで、有栖も 気を回してくれているんだよな…)
 つくづく、メイド少女には感謝であった。
「それにしても、さっきの蜃鬼楼も 敵意がマンマンだったな」
 そう言いながら、章太郎はポケットから、本体がグリップ程の長さしかないハンドガンみたいな機器を取り出す。
「それは…先日 博士から送られた、ましーん…ですか?」
「うん。例の、雪と関連した『敵意の無い蜃鬼楼』繋がりのさ」
 蜃鬼楼が人語を発したのは、御伽噺少女たちの血液が関係している。
 と、章之助博士は推論を立てて、聖力と体液が関係しているなら自分の血液でも同じ効果が得られるのではと、章太郎も考えた。
 そしてマッドな祖父が作ってくれたのが、いま五人の目の前にある、銃身の無いハンドガンみたいな機械だ。
 章太郎は手に取って、四人に解説を開始。
 右手でハンドガンのように握って、左腕の手首の内側へと、本体の前面を充てる。
「なんかさ…こうやって引き金を引くと、この本体の中に 俺の聖力を含んだ血液が僅かだけど送られて…キャンディーみたいな丸薬が 精製されるんだって」
 章太郎の肌と接触をする本体の前面から、聖力と血液を少しだけ吸収して、本体の後ろから出てくる。
 それらのタイミングは使用者の自由に出来るから、万が一にも本体内で精製された丸薬が転げ落ちる事も、ないらしい。
「とか、そこが 爺ちゃん一番の自慢らしいけど」
「そうなんだ~」
「とまあ、そんな感じでさ。この機械があれば、もし敵意の無い蜃鬼楼が出現しても、すぐに会話が出来る可能性が グっと上がったって事だな」
 とか、説明好きなタイプの少年が満足をしていると、ブーケがソワソワと尋ねて来た。
「ショ、ショータロー、その…」
「? なに?」
「そ、その銃…ではなく、機械か? ちょっと、触らせて貰って、良いだろうか…っ?」
 銃で戦う戦士だからか、ブーケはこういうシステムに、興味を引かれるらしい。
 章太郎が手渡すと、ブーケはトリガーガードの外へ人差し指を掛けながら受け取った。
「おおぉ…なんと 掌にフィットする…っ!」
 章太郎の掌のサイズに合わせて製作されたワケでも無いので、ブーケが握っても違和感はないというか、むしろピッタリサイズだったらしい。
「ふぅむ…銃身が無いという事は、命中精度は全く期待出来ないという事か…? いやしかし、ショーノスケが製作をしたのだし…ぶつぶつ…」
 ガンヲタ全開なブーケだった。

                        ~第六十八話 終わり~
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