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☆第六十四話 雪アプリ説☆

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 夜のリビングで和装の少女に裸になれと、章之助は言った。
「じっ、爺ちゃん何言ってんのっ!?」
 驚かされた章太郎に比して、命じられた雪は、実に落ち着いて立ち上がる。
「はい」
 特に訝しげな風もなく、綺麗な直立姿勢の黒髪少女は、スルスルと帯を解き始めた。
「うわっ、雪もっ――あわわっ!」
 同じ空間にいる年頃の少年は、慌てて焦って、後ろ向きで座り直す。
『あら、章太郎君、後ろを向いてしまうの?』
 などと、真希は楽しそうにニヤニヤしていたり。
「あっ、当たり前じゃないですかっ!」
「? 章太郎様…?」
 万が一にも、雪本人から見て良いと言われても、恥ずかしくて見られない。
「ショータロー、どうかしたのか?」
「まだお爺ちゃんとの話~、終わってないよ~?」
 ブーケや美鶴たちには、少年の羞恥心が、まだ理解出来ていないらしい。
「主様…? ハっ!」
 敬愛するご主人様の様子に、召使い少女は、何か思い当たったらしい。
「承りまして御座います! 失礼いたします」
 言いながら、立ち上がったメイド少女も、綺麗に着飾ったメイド服を脱衣し始めた。
 ソファーの端で後ろ向きに正座をする章太郎の耳に、衣服が擦れる音が、二種類一緒に聞こえてくる。
「――あ、あの、有栖…っ?」
「はい、主様っ! 主様が、雪様のみ脱衣という状況に羞恥をされております故、有栖も脱衣を持って、主様の羞恥を僅かにでも、和らげたく存じ上げますっ!」
 召使いとしては、リビングで雪が一人ヌードになる状況は、章太郎的に雪の羞恥を想うと見ていられなくて後ろを向いたので、他の女子たちもヌードになれば、みんな恥ずかしく無いので、章太郎も安心。
 と、考えたのだ。
「い、いやっ、そういう事じゃなくて――」
 慌てる少年の言葉も、有栖の認識を楽しく感じた真希によって、遮られる。
『あら~、そうだったの~♪ あ、それなら ついでですし、ブーケたちも、チェックをいたしましょう♪ 宜しいですか、博士?』
 何か好みに引っかかったらか、真希がノリノリな感じで、ブーケたちの身体をチェックしよう言い出し始めた。
『ん、そうか? なら、ブーケたちも、良いかの?』
 助手の提案に同意をした章之助が、二人の少女にも脱衣を進言。
「わかった」
「は~い♪」
「――っえっ!?」
 羞恥する少年の耳に、布が擦れる四種類の音が、サラサラと聞こえてくる。
 今このリビングで、四人の美少女たちが、裸になりつつある。
(そっ、そんな事…っ!)
 脱衣をした四人が、艶めく綺麗な肌でソファーへとお尻を下ろして、なんだか気怠げに寛いだり。
 とかな想像をしただけで、頭の中が熱灼けしそうだ。
「いっいやそのみんなっ――だから脱がなくても――」
「主様、全ての準備が 整いまして御座います」
 全ての準備というか、女子四人の脱衣が完了したという報告だろう。
「えっ――あわわっ!」
 一瞬、どういう意味かと想って無識に振り返りそうになって、しかし意外とすぐ隣に誰かのショーツが丸まっていて、また驚かされた。
 耳どころか、うなじまで真っ赤になって頑なに背を向ける少年へ、提案者の真希はモニターの向こうでニヤニヤしている。
 有栖を含めた四人の少女が、リビングという日常空間で一糸纏わぬ裸身となって、モニターへ映るようにウロウロしていた。
「う、うわわわ…っ!」
 同じスペースで女子たちが裸になっていると考えただけで、室温が上がるように、身体が熱くなってしまう。
 空気そのものも、なんとなく温かくなったように感じられて、何より女の子特有な、優しくて甘い良い香りと、石鹸の清潔な香りが漂ってくる。
 と、少年の思春期感覚は感知していた。
『それじゃあ、まずは雪。全身をスキャンするから、その場で一回転してみてくれ』
「はい」
 モニターの正面で姿勢正しく直立をしている雪が、その場で静かにクルりと廻る。
 対象者へは、モニター上部から緑色のスキャニング・レーザーが照射されていて、対象のデータを収集しているシステムだ。
 雪の身体情報を読み取って、章之助が問診をする。
『雪は、今回の蜃鬼楼に 怪我を負わされてしまったんじゃろ? 何か変調とか、無いかの?』
「はい♪ 章太郎様が、すぐに治癒をして下さいましたので?」
 ヌードは平気なのに、章太郎との治癒行為を思い出すとモジモジする雪だ。
『今、チェックしたデータによると、雪の発光現象も、少しヒント的なデータ変異が 確認できそうじゃな♪』
「!」
 昼間の、雪女ナゾ発光に関して何か解りそうだという章之助の言葉に、章太郎はつい、モニターへと振り向いてしまう。
「えっ、ホント――あわわっ!」
 視界には、モニターの前にヌードで並んでいる、四人の少女たち。
 それぞれのプロポーションは違っていて綺麗で、みなバランスが取れた、美しくも魅惑的な裸身であった。
「ん?」
 章太郎の反応に、みなも振り向いたけれど、章太郎に肌を見られる事を拒否している様子はなし。
「主様、どうぞ…?」
「見てて良いよ~?」
「あの…私、お見苦しいでしょうか…?」
「っいっいやっ、そんな事ないっ――っていうかっ、そんなに見てないからっ!」
 一人すごく勘違いをしているけれど、真っ赤になってまた慌てて背中を向ける反応に、三人は微笑んで、一人は恭しく礼を捧げていた。
「そっ、それでっ――雪の発光と、蜃鬼楼の発声が、関係あるって話…っ?」
 背面なままの孫の問いに、ヤレヤレ顔の祖父が答える。
『なんじゃ章太郎。こういう場で背中を向けているようでは、男子として まだまだじゃのう』
 そもそも、女子たちが自ら同じ空間で脱衣をしているのだから、むしろ視線を逸らす方が失礼である。
 という章之助の自論は、まだ少年である章太郎には、難易度が高すぎるだろう。
「そ、それよりもっ、発光現象なんだけど…っ!」
『おお、そうじゃったな』
 雪にとっては自身の事であるし、他の三人にとっても興味があるだろう。
『ユキ。お前さん自身は、発行時において 何か違和感とか、あったかの?』
 科学者としては、本人の意見も重要だ。
「それが…私の身体には、発光現象が由来の変位は、全く感じられませんでした…」
 雪の返答に、章太郎が補足をする。
「あ…俺たちの認識って言うか…とりあえず、蜃鬼楼の発声と雪の発光現象には、特に関連性とか 解らなかったっていうか…。何らかの影響はあったんだろう、くらいって…」
 蜃鬼楼という現象に関して、科学的に専門家というワケではない少年たちにとっては、まだナゾばかりである。
『ふむ…まあそうじゃな。ワシらの見解としては、雪の傷による影響…と考えておる』
「傷…? つまり、雪を傷付けた時に…あ、聖力を吸い取ったって事?」
 蜃鬼楼の活動源が章太郎の聖力なのだから、雪を傷付けた際に聖力を吸収していても、おかしくは無い。
 と、章太郎は考えた。
『聖力ではなく、可能性としては、血液じゃな』
「血液…?」
『うむ。ブーケたちが聖力を吸収される現場は、ワシらも確認しているじゃろ? その時に、三人の身体が発光する様子は 確認されておらん』
 研究所へ行った際に出現をした、蜃鬼楼二体との戦いの時だ。
「あぁ、そうだよね…」
『三人の人工素体も、有栖のメカ生体もじゃがな。有機物質として体液の循環は必要じゃし、ワシら人類と構成物質は違うが、血液も流れておる』
 たしかに、雪の細くて白い背中に真っ赤な鮮血が流れていたのを、章太郎もハッキリと覚えている。
『聖力を吸収した蜃鬼楼が…まあ話す意図があったかはわからんから、あくまで可能性の範疇じゃが…発声してはおらんかったじゃろ? つまりじゃ、今回の蜃鬼楼が人語を話した原因は、雪…というか、御伽噺の娘たちの体液に触れたから。という可能性もある』
「なるほど…」
『で、雪の発光はじゃ…蜃鬼楼の思念とか思考とかと、血液の影響で一時的にリンクした状態であり、その影響で、蜃鬼楼の発声を、我々も聞き取れた。という推測じゃ』
 簡単に言えば、雪を通して翻訳アプリ現象を起こした。
「っていう事?」
『そうですね。ザックリ言えば そういう事でしょう。雪の身体データでも、外部とかのナゾ電波と言いますかナゾ念波を受けて、人工素体の電気信号が共振現象を起こしたと言える振れ幅を 記録してますしね』
 人工素体も、人間などの身体と同じく、微弱な電気で人工筋肉を動かしている。
 と訊かされて、章太郎も考える。
「…つまり、俺とか 普通の人間の体液でも、もしかしたら 蜃鬼楼が話せるようになるかもしれない…って事?」
『そうじゃな』
 章太郎の推論を、祖父は大きく頷いて肯定をして、そして召使いの少女は。
「主様…」
 少年が、少女たちを護る為にも、自らの身体を危険に晒すのではないか。
 と、愛顔を不安げに曇らせた。
「あ、いや…だ、大丈夫だよ。無茶とか、しないから」
 なんであれ、少女たちを心配させるワケにはゆかない。

                        ~第六十四話 終わり~
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