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☆第四十三話 日曜日☆
しおりを挟む有栖がやって来た翌日は、日曜日。
自室のベッドで、章太郎は平日と同じような時間に、目が覚めた。
「ふわわ…はふ…ん~?」
枕元の時計をみると、まだ午前七時過ぎ。
布団の中は、温かい。
「んんん…むへへ…」
転がって身体を丸めると、なんだか幸せな気持ちになる。
「今日は日曜日だし…惰眠を貪っていられるぞ…」
高校生である以上、二度寝というこの上ない幸せは、やはり休日にしか得られない貴重な精神休養だ。
「昨日は、爺ちゃんの研究所へ行ったり 蜃鬼楼と戦ったり、有栖のメカ生体化を見たりとか、色々あったからなぁ…」
だから疲れている、とか立派そうな意見でもない。
そんな言い訳をしながらウトウトしていると、より惰眠に価値があるような気がするだけだ。
(今日は…特に買い出しとかしておく必要な物もないし…宿題もないし…昼まではゴロゴロと…)
とか、意識が二度寝へと流れ始めたら。
――ワンワン! ピヨピヨヨ! ウキキっ!
ベッドの上で、メカっぽい動物たちの声が聞こえて、軽い重さが三点で感じた。
「なんだ…? あ」
見ると、掛け布団の上でメカ生体のお供たちが、少年を起こすように、しかし楽しそうに、飛び跳ねている。
「なんだ、お供たちか…。お前たち、それぞれのパートナーの部屋で寝てるんだろ…?」
元々は、御伽噺「桃太郎」のお供であった、犬と猿と雉。
研究所で章太郎専用に開発をされた特種アイテム「オカルト・カード」によって、桃太郎世界からコピーをされたお供たちが、この三体であった。
普段は愛らしいマスコットな姿だけど、いざ蜃鬼楼との戦闘となると、みな大型のメカ生物となり、パートナーと連携をして戦闘をこなす、頼もしい仲間。
普段はヌイグルミのような幼体の姿で、性格も子供のように、はしゃいでいる。
犬は赤ずきんに、猿は雪女に、雉は恩返しの鶴へと、特に懐いていて、昨夜からそれぞれと同じ部屋で寝ていた。
「んん…お前たちの飼い主はどした…って、そっか」
御伽噺の三人は、普段からみんなで、家事炊事をこなしてくれている。
「みんな、キッチンか…」
だからお供たちは、章太郎に遊んで欲しいのだろうか。
とか考える。
「うぅ…まだ日曜日の 八時ずっと前だぞ…」
とかボヤいたら、掛け布団へ潜ろうとした少年の後頭部が、ポンポンと柔らかい感触で叩かれた。
「ん…? 刀か…なに?」
少年の頭をノックしたのは、やはりヌイグルミっぽい姿の日本刀。
元々は、桃太郎の使用していた刀からのデータコピーで、力を解放すると、章太郎の全身鎧となるメカ生体である。
刀の柄に単眼があって、鞘から、紐と手袋と靴が着いた手足が生えたような、なかなか可愛いスタイルで、寝坊助な主を起こしにかかっているらしかった。
「えぇ~、まだ寝てたいんだけど…」
折角の日曜日。
昼間で寝ていても文句を言われる筋合いはない筈な、聖日である。
しかし少年の反論を、刀は全く聞き入れる事なく、遂には掛け布団を剥ぐという暴挙に出たり。
「うわ…解ったよ。起きれば良いんだろ? ふわわ…」
二度寝を諦めて起き上がった少年へ、刀は単眼もニコニコと嬉しそうだった。
章太郎は、パジャマから室内着へ着替えて、キッチンへ向かう。
「みんな お早う…ふわわ」
キッチンでは、ブーケとユキと美鶴が、いつものように朝食の支度をしていた。
「お早う、ショータロー。おや、いつも通りに 寝ぼうではないのか?」
「お早う、みんな…。お供たちに 起こされたんだ」
「それはまた…♪」
「みんなも~、章太郎くんと、遊びたいんだよ~♪」
と、三人は笑って応える。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、コップで飲んで、フと気付く。
「あれ…有栖は?」
てっきりキッチンで朝食の準備をしているとか、想像していたら。
「有栖ちゃんでしたら、物干し台で 洗濯物を干しています」
「へぇ…」
どうやら、家事はメイドメカ生体の有栖が一人で引き受けるのではなく、四人で分担という事に決まったらしい。
なんとなくベランダへと見に行くと、ゴスロリなメイド衣装に身を包んだ少女が、鼻歌も楽しそうに、洗濯物を干していた。
「るんるん~♪」
よく晴れた温かい日差しを受けながら、メイド少女が、シャツや下着などを綺麗な並びで干している。
男性物のトランクスを手にして、なんだか初めて扱うっぽくチェックをしたりして。
今までも、ブーケたち三人に洗濯をして貰ってたけど。
「あらためて見ると、女の子に下着を洗濯して貰ってるって…なんか恥ずかしいな…」
申し訳ない気持ちが芽生えたり。
ベランダへ顔を覗かせて、章太郎は手伝いを申し出るも。
「えっと…俺も、手伝おうか…?」
「あ、主様、お早うございます♪ 家事は私たちのお仕事ですので、どうか主様は、お寛ぎください♪」
と、満面の笑顔で返されてしまった。
「そ、そぅ…?」
と言われても、なんだか落ち着かず、またキッチンへと向かう。
「えぇと…なんか、俺、手伝う事ない…?」
「ん? どうしたのだ 急に?」
とか、逆に聞かれて。
「い、いやぁ…よく考えたらさ…俺その、家事とか、手伝った事なかったなー…とか」
女子四人が家事をしているのに、自分だけダラダラしているのが、申し訳なくて居心地が良くないという、良い意味で小心者の少年であった。
「章太郎様は、私たちの守護対称の方ですので…家事一切は、私どもにお任せ下さい♪」
と、ユキは優しい笑顔。
「そうだよ~♪ それに~、台所は女の仕事場なんだからさ~♪」
「え、あ、はぃ…」
そう言われてしまうと、章太郎はキッチンからスゴスゴと退散するしかなかった。
リビングのソファーで腰掛けて、纏わり付くお供たちを適当に撫でたりしながら、フと思い出す。
「そういえば…お婆ちゃんも、あんな事 言ってたなぁ…」
お婆ちゃんの両親、章太郎にとって曾祖父よりも前の年代にとって、男女の仕事は現在よりも、明確に分けられていたと、章太郎も知識としては知っている。
男性は外で働いて稼ぎ、女性は家庭を守る。
そうして、お互いに相手へ感謝をしながら、人生を共に生きてきた。
「…ブーケたちも、世界背景的には そういう社会環境だったわけだもんな…」
そう考えると、彼女たちの世界を受け入れることも、自分の役目なのではないか。
ついでに、思い出す。
「…亭主元気で留守が良い…だっけ?」
そんな昔のテレビのCMも、ネットで見た記憶がある。
少年の実家は、父が会社員で、母は専業主婦だ。
家族とはいえ、日常的に家事をしない相手がキッチンでウロウロするのは、主婦にとって邪魔だという意見もあるらしい。
特に夫や息子は、身体も大きくて、母的にはジャマにスペースを取る相手なのだとか。
祖父の研究所でもそうだけど、その人の仕事場を他人が勝手に弄るのは、確かに迷惑でしかないのだろう。
「…今度から、なにか俺に出来る事、考えようかな…」
とか、人生の早くから褒められるべき反省をした、章太郎。
ボンヤリと思っていたら、ベランダからカゴを掌に、有栖が戻ってきた。
「まあ、主様。流石で御座います♪」
「? 何の事?」
ニコニコな微笑みで賞賛をくれた有栖の言葉だけど、ただソファーでボンヤリしていただけなので、全く意味がわからない。
「お供たちのお相手、ご苦労様です♪」
有栖の話だと、少女たちが食事の支度や洗濯物をしていると、遊んで欲しいらしいお供たちが足下に纏わり付いて、それなりに危ないのだとか。
「主様が、この子たちの相手をして下さいますと、有栖たちも 安心して家事に専念できますので♪」
「そ、そう…」
言われて、何となく撫でているお供たちを見ると、みな章太郎の掌に抱き付いたりくすぐったそうに転がったりと、楽しげだ。
「…そういえば…」
母親が家事をしている間、休日の父親が子供の遊び相手をしていると、家事が捗って助かる。
という話を、なんとなく耳にしたこともあった。
「たしか、休日の夫に求める事って…」
子供の相手やみんなでお出かけ、買い物での荷物持ちなどが、ランキングにもあげられていた気がする。
「…つまり、奥さんのお手伝いって話か…。っていうか…っ!」
自分で「休日の夫」とか考えてしまっていたことに、なんだか焦る。
「べ、別にっ、みんなを奥さんとかっ、考えてるワケじゃあ…っ!」
勝手に想像して勝手に戸惑っていると、意外と近い背後から、少女たちの声がした。
「まあ、正太郎様♪」
「四体とも、とても懐いているな」
「正太郎くん~、朝ごはん 食べよ~♪ 有栖ちゃ~ん♪」
「は~い♪」
朝食の後の、みんなの予定を聞こうと、章太郎は思った。
~第四十三話 終わり~
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