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☆第二十九話 章太郎は大きい☆
しおりを挟む三人がレントゲン室へ入って行くと、室内の様子はモニター標示へと切り替わる。
「それでは、頼んだぞ」
『はい』
中で待機をしている女性のレントゲン技師さんたちへ、章之助が声を掛けた。
画面の中には、章太郎も情報としては知っている、大きなベッドに身体が通る大きさのリングが付いたような、MRIが見える。
(…ちょっとSFテイストだよな…)
とか思って眺めていたら、絵像の中で、ブーケたちがローブの脱衣を始めた。
「あわわ…」
三人の白い背中が見えたあたりで理性が勝って、章太郎はまた後ろを向く。
「そうじゃ、章太郎」
「はいっ!」
祖父に呼ばれて、つい見てしまった事がバレたのかと焦った。
「お前さん、蜃鬼楼に 聖力を吸われたそうじゃな」
「え、ああ…ほんのちょっと だけどね」
先日の、防御力満点な蜃鬼楼との戦いなどは、祖父へ報告してある。
「で、聖力を吸われるというのは、どんな感じじゃった?」
「どんなって…なんて言うか、無理矢理に吸い取られる感じで、結構 不快…ってくらいかな…?」
御伽噺の少女たちへ聖力を分ける時は、温かい触れ合いのような心地良さを感じるけれど、蜃鬼楼は違った。
「ふむ…やはり女の子と正体不明の鬼とでは、感じ方にも違いがあるか」
「まあ…性別だけの問題じゃない…とも思うけど…」
女子はともかく、蜃鬼楼に吸われる事に関しては、比較対象が少なすぎてあまり参考にならない。
「しかしなんじゃな。三人でも苦戦するような鬼とか、居るもんなんじゃなあ! ハッハッハッ!」
「笑い事じゃないよ。三人が怪我でもしたらと思うと…」
という少年に、年上女性の真希は。
「なるほど…うんうん」
と、妙な納得をしている。
「まあ、アレじゃな。章太郎にも何か、身を守るーくらいの ナンか適当に作ってやるからな。ちょっと待っておれ」
「…なんか適当なアレ…?」
なにを作るつもりなのだろうか。
「さて、章太郎くん」
「あ、はい?」
思案している少年を、真希が誘う。
「蜃鬼楼と物理的な接触をした章太郎くんも、検査をさせて欲しいのですが」
「検査…ですか?」
蜃鬼楼と触れ合ったら、なにか影響でも受けるのだろうか。
「そういうところも含めて、データが欲しいのです。何と言っても我々には、オカルトジャンルのデータが 圧倒的に不足していますので」
「そ、そうなの 爺ちゃん?」
と、祖父にも伺いを立てたら。
「そうじゃよぉ? そもそもオカルト世界との門だの蜃鬼楼という現象だの、みんな初めてじゃからのう。ついでに、蜃鬼楼と直接に接触をしたのも、人類史上で今のところ、章太郎が唯一じゃしのう」
「…なるほど…」
言われてみれば納得である。
「そういう事ですので、章太郎くんにも、三人と同じように 色々と検査を受けて頂きたいのです」
蜃鬼楼とのデータが増えれば、三人の負担も減るだろう。
「わかりました」
「ありがとうございます。それでは、こちらへ」
少年の了解を、真希は優しい微笑みで喜んでいる。
章太郎は部屋を後にして、真希の後ろを付いていった。
「こちらです」
連れられた部屋は、一フロア上の、実験用の検査室。
病院の検査室と殆ど同じで、レントゲンやら触診用の椅子など、いわゆる街医者の診察室を連想させる造りだ。
「まあ、身体検査と たいして変わりません。コチラで、ローブに着替えて下さい」
「あ、はい…」
カーテンの向こうが脱衣室として使われて、正太郎は、カーテン一枚を隔てて家族ではない女性がいる空間で、初めて裸になる。
(な、なんか…)
妙に背徳感というか、恥ずかしい感じだ。
(まあ…漫画みたいに突然カーテンを開ける…とかはないだろうし…)
とか考えたら、なんの躊躇いもなく、シャっとカーテンが開けられた。
「章太郎くん、コレを」
「うわぁっ――ま、まだ着替えてませんっ!」
思わずローブで裸体を隠すと、真希は一瞬だけキョトンとして、我に返る。
「…あ、ああ、すみません! いつもっ、動物を検査したり、しているもので、つい…」
「ど、動物ですか…」
慌ててカーテンを閉めた真希は、テーブルの上に、小瓶を置いていた。
『ああ、そ、その瓶は、バリウムのような薬品ですから、飲んでから出てきてください』
と、カーテン越しの、少し落ち着いた声で告げられる。
「は、はい…」
裸になって白いローブを着用した章太郎は、小瓶の中の透明な液体を飲み干して、出て来た。
「準備できました。これ、バリウムなんですか?」
空になった小瓶を手渡しながら、なんとなく気になった事を尋ねてみる。
「まあ、厳密に言えば全く違う薬品なのですが、用途としては同じですので。これで、人体などの物質と、章太郎君自身のエネルギーとは別な要因が、影になって写せる。という事なのです」
「………へぇ…」
オカルト的なエネルギーを影として写すとか、どう考えても祖父の発想だろう。
と思って、章太郎は深く質問するのを止めて、扉を潜って奥の部屋へ。
「では、輪切りします」
「は、はい…」
MRIに対する専門家たちの間での呼び方だと解ってはいるけれど、輪切りすると言われて、少しヒヤっとする。
「私は画面だけを見ますので、ベッドの上には 裸で乗ってください」
「え、あ、はい…」
ブーケたちも全裸で検査を受けている様子だし、章太郎もそうだろう。
いつもは全裸と言える動物たちを検査している真希だけに、相手が人間の少年でも、検査となると裸でも気にならない様子だ。
章太郎はローブを脱ぐと、白いMRIベッドの上へと、仰向けに寝る。
「えっと…」
寝ました。
的な声を掛けようとしたら、真希からの声が、室内のスピーカーから聞こえてきた。
『はい、仰向けですね。それでは、ジっとしていて下さいね』
仰向けだと解るという事は、見られているのだろうか。
と思った視界に、人体のサーモ映像のような、モニター画面が見えた。
上からと横からの画像は、体温を赤系のドットで、人型に標示している。
(なるほど…これで俺の姿勢とか 解ったんだ)
とりあえず見られている訳では無くてホっとしたけど、風呂場など以外の、しかも女性のいる研究施設で裸になっているのは、やはり何だか恥ずかしいというか。
やや緊張しながら仰向けのまま、身体の周りを大きなリングが移動をして、緑色の細い光で全身をサーチされている。
(やっぱり…SF的な感じが…)
頭から足の先までをゆっくりと往復サーチされていると、特にすることも無い頭は「三人も同じ検査を受けているのだろうか」とか、考えてしまう。
(………)
同じタイプのベッドで仰向けに寝転がる、ブーケとユキと美鶴。
三人とも全裸だし、それぞれの起伏を魅せる肌の曲線が、緑色の細い光線で、なぞられてゆく。
美顔や細い首を過ぎると、鎖骨から乳房へ。
ブーケの豊乳やユキの美乳、美鶴の小乳がなぞられて、直視以上に、その形を実感させてくる。
(……うぅ…)
更に、細いお腹や広がる腰を通り過ぎると、秘められた箇所へも、光の細線でサーチをされて。
(…っ! まっ、まずいっ!)
脳が退屈の余り、三人の肌色成分を想像していたら、あきらかに退屈ではない健全男子反応が表れてしまった。
慌ててモニター画面を見たら、正面の画像では股間部分が一際高熱で標示されていて、横からの画像を見るとハッキリと熱の棒が標示されている。
(うわっ! こんなのサーチされたらっ、変態扱いされてしまうっ!」
そう思って、なんとか隠さなければと思考を巡らせていると。
『はいOKです。次は採血などをしますので、ローブを着用してくださって大丈夫です』
どうやら、臨戦態勢がバレる前に、サーチが終わったらしい。
「…ホ…」
章太郎は、安心してローブに袖を通し、学校の男性教師たちの中年脂フェイスを必死に想像して、一時的とはいえ難を逃れた。
隣の部屋へと戻って、これから採血などをするらしい。
着座して待つ真希と向かい合って座ると、真希がニコやかに告げてくる。
「章太郎くんは、大きいのですね」
「えっ!」
「二十八センチでしょうか。靴のサイズ」
「え、ああ…そうですね…」
着替えの時に見た、裸足のサイズの事だった。
~第二十九話 終わり~
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