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☆第二十五話 章太郎なりの☆

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 三人の必殺技が効かない蜃鬼楼。
「あ、あの腕でっ、全ての攻撃を防いでいるんだっ!」
 逃走しながらの観察で、章太郎も一緒に逃げる少女たちと同じく、敵の防御方法に気がついていた。
「おのれ! あの防御さえ、なんとか出来れば…っ!」
「本当にね~っ!」
「何か、良い方法は…っ?」
 このまま逃げ続けていても、章太郎の体力だって持たない。
 とにかく、少年を捕らえようと舌を伸ばすその瞬間には、鉄壁のガードが開く事は解っている。
 それはつまり、本体には攻撃が通用するという事だろう。
「お、俺が囮になってっ、舌を伸ばした隙にっ…とかっ!」
 と思いついたものの。
「そのような危険な提案は、私は却下いたします!」
「あたしも~っ!」
「ボクもだっ!」
 三人みんなに否決されてしまった。
「章太郎を危険に晒すだけではない! オカルト・シュートには、集中する時間が必要なのだ!」
 一瞬の隙を突いて必殺。
 というワケには、ゆかないらしい。
 逃走する四人が対策を練っている間も、蜃鬼楼は空中を滑るように移動しながら、頭の角から放電をして逃げ道を塞いだり、舌を伸ばして捕まえようとしている。
「そ、そうなのか…それならっ!」
 少年は、走りながら植林を掠めて、拳ほどの大きさの石を拾う。
「これでっ、ガードを開けっ放しに…っ!」
 開いたガードに、石を噛ませる作戦。
「あ~っ、なるほど~♪」
 少しでも隙間があれば、オカルト・シュートが通じるだろう。
 とはいえ、舌を出させる為には、やはり章太郎が囮になる必要がある。
「…悔しいが、今はそれ以上の方法が思いつかない…っ!」
 ブーケもユキも、納得は出来ないものの、という表情だ。
 それでも、今はこの方法しかないので、章太郎はタイミングを計る。
 立ち止まって振り向いて、蜃鬼楼の舌の拿捕範囲に入るのを待って。
「! みんなっ、いくぞっ!」
 蜃鬼楼がガードを開いた瞬間に、石を投擲。
「それっ――うわわっ!」
 石が上手くガードの隙間に挟まって、伸ばされた捕獲の舌を、章太郎はギリギリで避けた。
 ――ガっ!
 開いたガードが石を挟んで閉じられなくなり、明らかに蜃鬼楼が焦る。
「やった!」
「みんなっ、今だっ!」
 三人の少女が三方から鬼を囲んで、再び必殺技を放つ。
「「「オカルト・シュートっ!」」」
 眩い光が集まって。
「よ、よしっ!」
 少年が、今度こそ勝ったと思った瞬間。
 ――ビシャアアンッ!
 蜃鬼楼は、頭の角から雷を放出して石を砕くと、ガードをピタりと閉じてしまった。
「「「ああっ!」」」
 ブーケたちが驚いた瞬間には、必殺のエネルギーが放たれて、先ほどのように、蜃鬼楼の外殻から攻撃の角へと、吸収されてしまう。
「し、しまった…っ!」
 再び必殺技が防がれたうえ、蜃鬼楼はまた放電用のエネルギーを蓄えてしまった。
「な、なんという…うぅっ!」
「つ、疲れてきたよ~っ!」
 三人とも、必殺技を二度も使って、エネルギーも限界らしい。
「だ、大丈夫かっ?」
 聖力そのものは章太郎から補充できるけれど、今はそういう隙も無いくらい、蜃鬼楼は活力が満々だ。
 ブーケたちは、章太郎の前で盾となって、強く言う。
「ショータロー…お前だけでも、逃げろ…っ!」
 正直、勝ち目が見えないのだろう。
 しかし。
「そ、そんな事できるかっ!」
 男子の本能とし、女子を置いて逃げるなんて出来ない。
 それに。
 この三人には、この世界で楽しく暮らして欲しい。
 そう願っているのも本音だ。
 打開策が浮かばない間にも、蜃鬼楼は逃走する章太郎たちを捕らえようと、追跡を緩めない。
「ど、どうすれば…ハっ!」
 走りながら、思いついた。
 ①とにかく、ガードが開いていると、攻撃は通る。
 ②章太郎の聖力が目当てなので、ガードを開いて舌を伸ばし捕らえようとする。
「みんなっ、聞いてくれっ!」
 章太郎は、攻略法を思いついて、逃げながらみんなに伝えた。
「みんなっ、俺がアイツに絡め取られるからっ! みんなは開いたガードの隙間からっ、アイツを倒してくれっ!」
 少年のアイディアに、しかし三人は。
「バっ、バカな事を言うなっ!」
「章太郎くんを囮になんて~っ!」
「そのような無体、やはり私は、賛成しかねますっ!」
 いつも温厚なユキもご立腹である。
 しかし現状、それ以外に攻略法はないうえ、ヘタをすると三人とも、章太郎を逃すために犠牲となる道を選びかねないのだ。
「大丈夫っ! 少しの間、ガードを開けさせるだけだからっ! いいねっ!」
 無意識にも、強い感じで命令口調になっている少年。
「うむむ…っ!」
 三人とも、了解ではないけれど、反対を出来ない立場ではある。
「それじゃあ、あとヨロシクっ!」
 章太郎は走りながら、落ちていた枝を拾って蜃鬼楼へと振り向いて、ヤケになった感じで突っ込んだ。
「こっ、こんのやろおおおおおっ!」
「「「っ!」」」
 章太郎の、渾身な演技ではなく割とマジにヤケクソ気味な突撃に、息を飲む少女たち。
 枝を振りかぶって殴りかかろうとしたら、ガードが開いて目が光る。
 飛んで火に入る夏の虫のごとく、嬉しそうな蜃鬼楼の長い舌によって、章太郎の身体が捕らえられた。
「うわわっ――ひいぃっ!」
 カメレオンのように獲物を巻き寄せる蜃鬼楼の口へと取り込まれる直前、少年は自由な両脚で、開いたガードの腕を閉じないように、突っ張る。
「呑まれて堪るかっ――はわわ…っ!」
 飲み込まれないまでも、巻き付いた舌から少しずつだけど、聖力が吸い取られるのが解る。
 三人に聖力補充をする際の、他者へと力が流し込まれてゆく心地良さとは違い、一方的に吸い取られる不快感。
「みっ、みんなっ!」
「いくぞっ!」
 章太郎の合図で、三人が素早く蜃鬼楼を取り囲んで、最後の力で必殺の攻撃。
「「「オカルト・シュートっ!」」」
 眩い光に包まれて、蜃鬼楼は慌てて獲物を放してガードを閉じようとするも、章太郎に舌を掴まれる。
「閉じさせて堪るかっ!」
 聖なる光が蜃鬼楼で収束をすると、大きな爆発。
 ――っどどおおおおおおおおおおおんんっ!
「うわわっ!」
 少女たちの技ではなく、その爆発の空気圧で、章太郎は後ろへ吹っ飛ばされる。
 ――ゴオオオオオオオッ!
 爆風と悲鳴が収まって、蜃鬼楼は消滅をして、四人は戦いに勝利した。
「ショータローっ!」
「章太郎様っ!」
「章太郎くん~っ!」
 三人が駆け寄ったのは、コントの爆発みたいな黒焦げアフロな章太郎だ。
「いてて…みんな、大丈夫か?」
 俯せから仰向けにされて、視線を上げると、少年の視界には、三人のバストが。
「…うわっ!」
 数瞬の後に理解したのは、仰向けの少年へ、三人の美少女たちが膝枕をしてくれている事だった。
「私たちは、大丈夫です…」
「章太郎くんこそ、ケガはない~?」
「あ、ああ、大丈夫大丈夫」
 爆風には驚いたけれど、特に火傷も打撲もない。
「章太郎…すまない…。ボクたちが、ショータローを護れず…」
 守護対称が危険を冒して囮となった事に、三人はシュンと落ちこんでしまっていた。
 少年の心理としては、負傷するよりもキツい空気である。
「あわわ…えっとそのっ…ま、まあ勝ったんだし! 戦いは結果オーライだからさ! うんうん!」
 明るく振る舞う少年に、少女たちは弱々しい笑顔しか返せない。
「そ、それよりみんな、今日は疲れたろ? なんかこう、みんなで美味しい物食べて、元気だそうぜ! 俺も腹ペコだよ!」
 章太郎の腹が、元気の証みたいにグゥと鳴って、三人も少しだけ微笑む事が出来た。

                        ~第二十五話 終わり~
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