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☆第十八話 三人の食欲求☆
しおりを挟む「エスカレーターで、上に行ってみる?」
と誘ってみたら。
「う~ん、すごく興味 あるんだけど~」
と、美鶴が悩む。
「あたし~、地下食品売り場の方が、気になる~♪」
確かに、元々はそこが目的だ。
ついでに、三人のお腹がぐうぅ…と鳴ったり。
店内の時計をみると、もう夕方前。
「ああ…夕飯のおかずを買って帰った方が良い時間だな」
と、章太郎も納得をした。
「それじゃあ、デパート巡りはまた今度にして、地下へ行こうか」
「うむ」
「はい」
「は~い♪」
四人はエスカレーターへ乗って、地下へと向かう。
「う、動く階段…ですか…?」
「こ、これに乗って、転んだりしないか…?」
三人とも、エスカレーターに乗るのは初めてらしい。
「あたし~、飛んでい~?」
「出来れば エスカレーターに慣れた方が良いかな」
章太郎が乗ってみせると、三人も恐る恐る、足を載せる。
「こうですか…えいっ!」
おどおどしながら、ピョンとジャンプで乗ったユキ。
「こうするのか…ハっ!」
右足を載せた瞬間に左足で追いついたブーケ。
「こうかな~、出来た~♪」
羽根のように拡げた両掌で左右のベルトを掴んで、運ばれるようにエスカレーターの上へと降りた美鶴。
三者三様の乗り方で、取り敢えずは今後も大丈夫そうだ。
「ここが、地下のフロアだ」
地下階へ降りると、気温がヒンヤリとしてくる。
「あら…なにやら空気が ヒヤりといたします…?」
雪女は、特に温度には敏感なようだ。
「食品フロアは、野菜や果物も売っているからね。気温が低く調整されてるんだ」
「へぇ~、秋が深まった感じ~?」
「気温のコントロールが出来る事は、ショーノスケのま研究所でも体験していたが…一般的な商店でも、同じコントロールが出来るのだな…っ!」
御伽噺の世界から見たら、もはや魔法に近いのかもしれない。
「俺たちの住んでいるマンションだって。部屋毎のエアコンがあるよ」
と、現代人にとっては当たり前とも言える環境に。
「「「ぇええ~っ!?」」」
三人は一様に驚いた。
「ボ、ボクたちのっ、あの住居にもっ!」
「このように、空気を操る妖術が…っ!」
「ホ、ホントに~っ?」
まだエアコンを使用した事のない三人には、信じられなくても無理はない。
「まあそっちは、帰ったら動かしてみよう。とにかく今は、冷凍のエビチリだ!」
章太郎も目的を思い出し、まずは冷凍食品売り場へと入った。
夕飯の買い物客で賑わっているものの、買い物カゴを持った章太郎が歩いても、誰にもぶつからないくらいには、まだ余裕がある。
野菜売り場を通りながら、ユキが気付く。
「あら…お野菜が切られています…。これは、この商店さんで調理するお野菜 なのでしょうか…?」
カット野菜を知らないユキたちは、そう考えたらしい。
「それは、お店で切って販売してるんだよ。白菜なんかは芯の色が解るし、一人暮らしやお年寄りの家庭なんかだと、丸々一つは多すぎちゃうからね」
「「「ぉお~」」」
「なるほどですね…お野菜は残ると、傷んでしまいますものね…♪」
家庭的なユキにとっては特に、納得の販売方法らしかった。
ユキが求めたので、白菜をワンカット購入。
そのまま進むと、生鮮食品売り場。
魚が並んでいる光景に、美鶴が舌なめずりをする。
「みんな美味しそ~♪ あっ! しょっ、章太郎くんっ、あれなにあれ~っ?」
「ん?」
美鶴が指差す先を見たら、冷凍の剥き海老がパックで販売されている。
「ああ、あれは 下茹でとかしてある、調理用の海老だよ」
「剥き海老~っ!」
鶴である美鶴にとつては、大変なご馳走らしい。
「海老っていうか、ザリガニもだけど~、ハサミで反撃してくるし殻は固いしで~、美味しいんだけど食べるのは大変なんだよ~っ! それがこんな…っ、食べやすい感じになって売ってるなんて~っ! はぁっはぁ…っ!」
涎が大変な事になっている美鶴だ。
「まあ、調理用だし…このまま食べられない事はないけど…」
美鶴が求めたので、パックの剥き海老を購入。
更に通路を進むと、ブーケが気付く。
「ショータロー、これはみな、ブレッドなのか?」
見るとパンのコーナーで、食パンだけでなく、あんパンやメロンパンなど沢山の総菜パンが並んでいた。
「ああ。全部パンだよ」
「そうなのか…。みな可愛い形だな♪」
「…ん?」
章太郎は、フと思った。
(可愛い形…)
もしかしたら、ブーケたちは総菜パンそのものを、知らないのではないか。
時代的にも雪女や鶴はパンを知らないだろうし、文化的にもブーケたちのブレッドは肉やスープなどと一緒に戴く主食だろう。
章太郎は、サンドイッチを指さして、教える。
「これはハム野菜サンドで、パン…ミルクブレッドに野菜やハムを挟んだもの。こっとはタマゴサンドで、こっちはフルーツサンド。みんな、具が挟まっているパンだよ」
「…ミルクブレッド…?」
パン生地を練る際に、牛乳を使うのは日本のパンだという。
「ブーケたちのブレッドとは、製造工程も材料も少し違うパンだからな。外国からの旅行客とかには特に、日本のサンドイッチが人気らしいよ」
「ほほぉ…?」
「お総菜ぱん、ですか…」
「これ綺麗~♪」
章太郎の話を聞いて、総菜パンに興味津々らしいブーケ。
四角い食パンと一緒に、頭が膨らんだ西洋タイプの食パンも並んでいるけれど、ブーケたちには色鮮やかなフルーツサンドが気になっていた。
「…買ってく?」
「いいのかっ?」
ブーケが求めたので、フルーツサンドを購入。
冷凍食品のコーナーへ辿り着く前に、買い物カゴが結構いっぱいになってしまった。
「こっちは…とりあえず、エビチリだけでいいか」
「あ~っ、カップめんは~?」
美鶴が、昨夜の食欲を思い出した様子。
「あ、そっか。一応、見てみるか」
冷凍エビチリを四人分カゴにいれて、レジへ向かう途中に麺のコーナーへ。
「生麺とかカップ麺とか、麺にもいろいろな種類があるよ」
「まあぁ…♪」
「おおぉ…!」
「わあぁ~?」
左右の棚いっぱいに並べられた麺類に、三人はそれぞれ興奮している。
「ショータロー、この袋に入っているのは…?」
「それは生麺で、鍋で茹でるタイプだよ」
「章太郎様、こちらの容器に入っているのが、かっぷめん でしたね?」
「うん。そのまま、かやく…中の袋を開けて、お湯を掛けるタイプ」
と説明しているけれど、昨夜にも食べた種類だ。
「ね~ね~章太郎くん~っ! この四角いのも、かっぷめん~っ?」
「ソレは…カップ焼きそばだよ。焼きそばって、解る?」
章太郎の質問に、ブーケは勿論、美鶴もユキも、頭を横に振る。
「そうだよね…う~ん…」
取り敢えずラーメンを知っている三人に、焼きそばをどう説明しようか。
「…それも、買って帰ろうか」
「わ~い♪」
どんな食べ物でも、説明するより食べたほうが早いだろう。
「カゴが二つになったな」
レジへ到着する頃には、章太郎の両掌がカゴで塞がっていた。
会計を済ませて、食品を袋に入れる。
「ボクたちが持つぞ」
「え、でも…」
男子的には、荷物は男が持つほうが落ち着くというか。
「私たちのワガママで、章太郎様がお買い求め下さった食品ですから?」
「そ~そ~♪」
三人とも、にこやかな笑顔だ。
「そ、そう? なんか、悪いね…」
とはいえ、男子としてはやはり、自分だけ手ぶらなのは、後ろめたい。
「じゃあ、俺がみんなのカバンを持つよ」
少年が四人のカバンを肩から下げて、少女たちは買い物の袋を両掌持ち。
(フルーツサンドは食後のデザートとして…白菜の調理はユキに任せて…冷凍剥き海老はエビチリにも足していいかな)
とか調理方を考えた章太郎だけど、剥き海老は美鶴の要望で、美鶴の分だけ小皿にそのまま載せられる事となった。
~第十八話 終わり~
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