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☆第十六話 あなたの好きなもの☆
しおりを挟む放課後。
「じゃな」
クラスメイトたちに挨拶をすると、章太郎は教卓側の出入り口から退室。
「それでは」
「また明日ね~♪」
「失礼いたします」
ブーケ立ち三人も、クラスの友達へ挨拶をして、後ろ側から退室をした。
章太郎は先に、一人で下駄箱へと歩いてゆく。
わざと別行動をするのは、一緒にマンションで住んでいる事がバレないようにである。
「本当は、みんなで教室から出た方が 安心らしいけど」
章太郎が一人の時に、鬼がやって来るかもしれない。
と、三人は言うけれど。
「そもそも、これまでの人生で鬼が来た事とか、ないんだよな」
という疑問があった。
祖父であり、童話世界の門を開いてしまった章之助いわく「鬼が気付く可能性を予見して三人を呼んで訓練をさせておいたら、予見通り鬼が来た」という話ではある。
「まあ…そこを疑うつもりはないけどさ」
なんであれ、鬼が来て、三人が変身したりして、助けてくれたのは事実である。
いくら現実主義者だとしても、感覚として実感した事に嘘をつくのは、敗北宣言だと、章太郎は心得ていた。
だからこそ。
「俺も、あの娘たちの負担になるの 嫌だからなあ」
男子の本能である。
とか考えているウチに、下駄箱へと到着。
章太郎がシューズへ履き替えていると、三人が追いついてきた。
「あ~、いた~♪」
「ショータローは、歩くのが速いな」
「まあ、変に噂されるのも なんだしな」
下駄箱で追いついて、一緒に校門へ向かうのは目立つ気がするけれど、適当に距離を開けていれば、それほど目立たない。
章太郎が前を歩く形で三人の警戒を邪魔しなければ、それでもOKだと、三人も了解していた。
校門を出て駅へ向かう途中で、さり気なく距離を詰める。
「章太郎様、帰りに…りょうはんてん…に寄られる、との事でしたが…」
「うん。冷凍のエビチリを 買って帰ろうと思って」
「りょ~はんてん~?」
三人は、量販店を知らないらしい。
「まあ、デパート…って言っても同じか。食べ物とか色々、沢山 低価格で売ってるお店だよ」
「ほほぉ…市(マーケット)のようなものか」
「あー…そう言えなくもないかな」
自分たちにとっては当たり前の設備でも、知らない人に説明をするのは難しい。
特に危険でも困難な場所でもないし、食料品店などは、実際に行った方が早いだろう。
「市~♪ 諸国の珍品とか、集まるの~?」
「それは楽しみですわ?」
「うむ、そうだな。ボクも街の市には、行った事がなかったからな♪」
三人とも、それぞれの時代背景で想像をして、楽しみにしている様子。
「うーん…実際は随分と違う~ みたいな印象だと思うけどねぇ…」
童話少女たちはまだ電子パスを持っていなかったので、この際にと、駅で購入。
三人それぞれにパスを手渡すと、不思議そうに眺めて回した。
「昨日、ショータローが買ってくれた キップとは違うのだな」
「キップは一回毎だけど、これはチャージ…金額を記憶して、残っている間は何回でも使えるんだ。で、それをこの改札機の、ここに充てて、通過するんだけど…やっぱり一人ずつだから」
「は、はい…ドキドキ」
まずはユキが、カードを充てる。
「ひゃあっ…何か数字が…あら」
「それは カードに残っている金額だよ」
驚いた次の瞬間には、数字の意味を教えられて、キョトンとしている雪女。
「そのカードを離して、通過して…そうそう」
ユキが改札機を無事に通過して、次は鶴少女。
「それじゃ~。えっと…あっ、なんか鳴った~♪」
ピっという音も、楽しいようだ。
「でも~、ジャンプして通過した方が~、早いよ~♪」
「それだと無賃乗車になっちゃうから」
そもそも鶴としては、家まで飛んで帰った方が早いだろう。
「うむ…これをここに充てるのだな…おお!」
赤ずきんも、同じくカードの残高が標示されて、驚いている。
「昨日も思ったが、これは一体 どうなっているのだ? この箱の中に、誰か隠れているのか?」
という疑問を聞いて。
「ああ、そういえば。爺ちゃんたちの頃は、改札も人力だったらしいんだっけ…」
昭和の映像などで、改札のボックスに駅員さんが立っていて、切符に何か切り口を入れている光景とか、見た事がある。
「では、やはりこの箱は…」
「いやいや、自動…機械仕掛けだから」
「「「そう」なのか」なのですか~」なんだ~♪」
三人それぞれに納得をしたようだった。
電車はまだ空いていて、四人は並んで座る。
「外~♪ 電車~、早いよね~♪」
空を飛ぶ感じにも似ている景色の後方流れに、嬉しそうな笑顔で窓の外を眺めた。
「本当に、狼よりも早そうだ」
「そうですね…♪」
赤ずきんの口から狼の話題が出たのも、ちょっと驚いたけれど、雪女が同意しているのは、当時の日本に狼がいたからだろうとか、納得もしてたり。
「ブーケはさ、狼が怖い…とか ないの?」
童話に於いては食べられてしまったワケだし、トラウマどころの騒ぎではない気がする少年だ。
「それは無いな。そもそもボクの物語は色々な種類があって、初めて描かれた物語では、ボクは食べられてお終いだった。だから トラウマ以前に終わってたのだ」
たしかに、童話や御伽噺は様々な作家の手によるバージョン違いが、数え切れない程にある。
「だから、平気…?」
なんでかイマイチよく解らない理由だと思ったら。
「いや、後々の物語で改編されて猟師に助けられたりして、生存したあたりの物語を認識してから、やはり狼が怖くなってしまったぞ。しかし!」
なんだか目がキラキラし始めた。
右掌を銃のような格好にして。
「戦士たちとの特訓で、訓練された軍用犬を相手に様々な鍛錬をした結果、犬類に対する恐怖そのものが解消されたのだ! 狼に対しても、今では生きる為の狩猟であったと理解をしているし、軍用犬を素手で制する事も可能なボクは、あの狼ですら 可愛いと思えるのだ!」
指銃を、パーンと撃ったり。
「な、なるほど…トラウマは乗り越え済みで、今は犬好きって事か」
そういう意味では、雪女と恩返し鶴には、そんな漢字のトラウマは無さそうだ。
「ユキは、何か好きな物というか、あるの?」
やはり、冬が好きなのだろうか。
「私は、夏が好きです~♪ 緑や動物たち、命が最も華やぐ季節ですよね…?」
恥ずかしそうに、頬を赤らめる雪女だ。
「夏…? えっと…御伽噺基準の話だけど…溶けちゃわない?」
「いいえ~♪ 私たち雪女は、夏になると人の来ない高山地帯に移ったりしてましたのですが…それは特に、熱さに弱いという理由でもなくて、ですね…」
モジモジしながら、雪女の事情を語る。
「なんと言いましょうか…夏は、幽霊さんとか人魂さんとかの季節ですし…私たちや冬将軍様とか、夏には合わない感じではないですか…?」
雪山に出現する理由は、熱さが苦手なのではなく、なんとTPO。
「湯に入って溶けてしまうのも、湯から出て氷が残されていたりする方が、雰囲気が出るかな~…とか」
「そ、そうだったんですか…」
雪女族のメンタル強し。
「美鶴は? なにかコレが好き~、みたいのって…?」
「う~ん…食べ物としてはカエルとかバッタとか好きだけど~♪ 食べ物じゃなければ、コレかな~♪」
と、自分の着ている制服を摘んで見せた。
「…制服?」
「うん~♪ 制服も~、この不思議な生地も~、全部好き~♪ アタシには織れない、新しい生地だよね~♪」
「ああ、そっか…」
恩返しに羽根で織った反物を差し上げる鶴だから、生地や衣服に興味があるのも、なるほどと思う章太郎。
「それでそれで~、章太郎くんは~ 何が好きなの~?」
「俺? …ううむ」
あらためて問われると、直ぐには思いつかない。
暫し考え。
「………敢えて言えば、本かなぁ…。名前の事でからかわれてたから、言い返す為に本で色んな勉強っていうか、知識を溜め込んでたからなぁ」
小学生の頃に読んだ御伽噺や、ちょっと不思議なオカルト現象、科学とか、今でも頭に残っている。
「「「そうなのだな」なのですね」なんだね~♪」
「章太郎様は、知識人でいらっしゃいますね…?」
笑顔で認められると、なんだか照れくさい。
「そ、それ程でもないよ…。負けず嫌いなだけかも…」
とか話していたら、次の駅でお年寄りが三人、乗ってきた。
~第十六話 終わり~
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