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☆第十五話 食べ物と望郷☆

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 昼休みになって、四人は学食へと向かった。
「昨日のカレ~♪ 美味しかったね~♪」
「うむ。不思議な食べ物であったな。しかしボクは、パンも食べてみたいぞ」
「私は、イノシシ鍋やタヌキ汁を、戴きたく存じます?」
「うーむ…」
 カレーやパンはともかく、シシ鍋は学食に出るメニューとは思えないし、ましてやタヌキ汁とか、現代の日本で食べさせてくれるお店すら、ないだろう。
(ああ でも…いわゆる故郷の味というヤツなのかな)
 雪女の物語は大抵、雪深い山の中だ。
 猟師の男性と生活をすると、食事は殆ど、山で取れる食べ物だろう。
 赤ずきんは、森の中で両親と生活をしているし、母がパンや葡萄酒を作っていたりするから、意外と色々と食べている気がする。
 恩返しの鶴は、とくにコレという特別な生活環境ではない。
 お爺さんやお婆さんと生活をしていて、鶴の織った反物をお爺さんが町へ売りに行っているくらいだ。
 赤ずきんも鶴も、当時の町の食べ物を知っている可能性が高いと、章太郎は考えた。
(って、彼女たちの自称を そのまんま信じてるって事か…)
 現実主義者としては、なんだか悲しい気分にもなったり。
 などと考え事をしている間に、学食へと到着。
「お、今日は結構 混んでるな」
「うむ…言われて見れば、ショータローの意見にも 一理あるのだな」
「ん?」
 何の事かと思ったら、テーブルに座る生徒たちを眺めて、納得しているブーケである。
「ショータローが言っていた通り、男女が席を同じゅうしていないのだ」
 どの席も、男子と女子で別々に座っていると、ブーケはあらためて理解をしたようだ。
「まあ そうだね…ちょっと意味が違うけど」
「あら、章太郎様…あちらは…?」
 見ると、男女が隣同士で座って食べている。
「ああ、あれは…付き合ってる二人だと思うよ」
 それなら、並んで食事も珍しくない。
「「「ええぇっ!」」~っ!」
「うわどしたっ?」
 三人の驚きに、少年が驚かされた。
「お、お付き合いをされている…つまり…」
「婚姻関係なのかっ?」
「みんなの前で大胆~んっ!」
 三人は真剣に驚いて、観葉植物の影に隠れてジっと見たり。
「あぁ、いや…婚姻ってほどの関係でもないっていうか…」
「「「?」」」
 時代の違いが感覚の違いとなっているのは、章太郎なりに解っているつもりだ。
 しかし予想外の事にもギャップというか、彼女たちの世界との違いがあって、それは章太郎にも思いつかない齟齬であった。
「まあとにかく…恋人同士の事は、放って置いた方がいいな。知りたいとしても、首を突っ込むと大抵は碌な事にならないから」
「そ、そうなのか…」
「男女の間に第三者が入ると 面倒な事になるのは…どこの世界でも同じなのですね…」
「ふ~ん」
 それぞれなりに納得をして、四人はカウンターへと向かった。

「おおっ、今日はエビチリが出てる!」
 章太郎は、実はエビが大好物だ。
「えびちり…?」
「えびちりとは…どのような食物なのでしょう…?」
 赤ずきんの物語は森の中だし、雪女は山の中だから、そもそもとして、海老を知らないのだろう。
 対して鶴は。
「エビ~♪ 海でなくても エビが食べられるの~っ?」
 と、驚きながらも大喜びだ。
「あれ、美鶴は海老 知ってるの…? あ」
 素朴な疑問であるが、尋ねてから、フと気付いた。
「うん~♪ あたしたち~、エビとかカニとか、大好物だよ~♪」
「ああ、そうだよね。鶴は渡り鳥だもんね」
 海の海老よりも、川などで取れるサワガニやザリガニが、大好物の筈である。
「エビ~♪ 渡りの仲間から聞いて~、食べた事 あるんだよ~♪ すっっっごくっ、美味しいんだよ~♪」
「ほほう」
「そうなのですか…♪」
 ブーケとユキも、美鶴のグルメレポに興味を刺激されたらしい。
 少年としては、ぜひ食べさせてあげたいと感じる。
「それじゃあ、エビチリ 食べてみようか」
「「「はい」」~い♪」
 メニューも決まって、章太郎も大好物のエビチリを食べる事となり、正直嬉しい。
 カウンターで注文をすると。
「エビチリ、四人前 下さい」
「あーエビチリねー、さっき売り切れちゃったんよー。ゴメンねー」
 と、食堂のオバさんの申し訳なさそうなニガ笑いが、帰ってきた。
「ええぇ~…そうですか~…」
 期待した分だけ、ガックリと来る。
「エビチリ 売り切れたって…なんか、ゴメン」
 自分から振っただけに、申し訳ない気持ちだ。
「そうか…まあ気にするな。商品が売り切れるのは 良い事だ」
「またの機会を、楽しみにいたしましょう」
 と、少女たちはニッコリとしている。
「うぅ…ですよね…」
 まあ商品がない以上、しかたがない。
「それじゃあ、何か珍しいメニューは…」
 気を持ち直して探していたら、美鶴が気になるメニューを見つけた。
「ね~ね~章太郎くん~。この真っ赤なのも、ラーメン~?」
 言われて見ると、スパゲティー・ナポリタン。
「ああ、これはスパゲティーだな。甘辛いソースや肉との相性が良くて、日本では結構前から 好まれてるメニューだ」
 などと説明をしながら、むしろ地元と思われるブーケを見るも。
「?」
 少女には伝わっていない様子。
「「「すぱげてぃー?」」」
「あれ、ブーケは知ってると思ったけど…ああ、もしかして、パスタの方が、知ってるのかな?」
「なんだ、パスタなら知っているぞ。しかし、ボクが知っているパスタとは、ちょっと違うようにも見えるぞ」
「ああ、まあ。スパゲティーは 日本で進化した食べ物って側面が強いからな」
 ブーケたちの時代背景だと、そもそもパスタのソースとしてトマトを用いる料理は、まだ発明されていない。
 くわえて、スパゲティーという呼び方もしない。
「それじゃあ、今日はこれを食べてみようか…。ちょっと待ってね」
 提案して、また売り切れだと困るので、章太郎はオバさんに確認をとった。
「大丈夫だ。これを食べよう」
「「「は~い♪」」」
 今日の昼食は、スパゲティー・ナポリタンになった。
 テーブルの上に、四つのお皿。
「「「「いただきます」」」~す♪」
 少女たちは、初めて見るスパゲティーに、やや戸惑っている。
「フォークは解るが、このスプーンは、どうするのだ?」
「ああ、こうして…」
 フォークでスパゲティーを刺して、スプーンで先端を受け止めて、フォークをクルクルと回してみせる。
「「「ほおぉ~」」」
「こうすれば、ソースが飛び散る事とか ないから」
「なるほどでね…こうですか」
 フォークを初めて使うユキと美鶴だけど、最初だけ戸惑って、すぐに使い方に慣れる。
「あ~、ミミズみた~い♪」
「そ、そうですが…」
 美鶴の素直な感想に、食欲が軽いダメージを受けたり。
 三人の童話少女たちが、初めてのスパゲティー・ナポリタンを実食。
「ずず…んん~♪」
「なんて、甘く香ばしいのでしょう…?」
「それに、なんだろうか…この、心の奥底を撫でられるような感覚…っ!」
 それは特に、ブーケだけの感覚ではない。
 日本人の若い世代でも、スパゲティー・ナポリタンやチキンライス、昭和のデザインや町の写真などに、不思議な望郷感を覚えたりする。
 しかも最近では、日本を訪れた経験の無い諸外国の若い世代たちにも、同じような懐かしさを覚える層が、一定人数いたりする。
 昭和よりも昔の時代背景な御伽噺の少女たちも、それは例外ではない様子だ。
(なんか、不思議な感じだな)
 スパゲティーを食べながら、章太郎は思う。
 昭和の日本というか、あの時代の文化というのは、もしかしたら人類にとって一つの理想に近い、何かがあるのかもしれない。
(現代人の俺たちも、実体験とか無いのになんとなく懐かしく感じるくらいだし…三人も同じ感覚っぽいし…)
 だとすれば、鬼たちがこちらの世界に興味を持ったのも、何か関係しているのかも知れない。
 と考えて、後で爺ちゃんに話してみようかな、とか思いつつ。
「帰りにスーパーで冷凍のエビチリを買う!」
 と決心している章太郎であった。

                        ~第十五話 終わり~
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