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☆第十三話 登校風景☆

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「じゃ、学校行こうか」
「「「はい」」~い♪」
 年頃の男子である章太郎としては、女子たちと歩くのは、嬉しいけど恥ずかしい。
 しかし相手は、もはや自称などはない感じで、御伽噺の世界の女の子たちである。
 一般家庭の炊飯器も知らなかったくらいだから、この現代社会の歩道だって、彼女たちの世界からすれば鉄の塊が走り回る魔境だろう。
(だから、俺がちゃんと護らなければ…っ!)
 という、少年らしい使命感に突き動かされていた。
 カードレールのある道で、少女たちの後ろを歩き始めたら。
「……あれ?」
 いつの間にか、美鶴が先頭で、章太郎の少し後ろをブーケが歩き、更に最後尾をユキが付いてきていた。
「う~む…」
 章太郎をガードしてくれているのだろうけれど、男子としては心配というか、なんだか格好悪く感じてしまう。
(三人とも…車が危険とか、まだ知らないのか…あれ?)
 考えを巡らせていたら、フと違和感を覚えた。
「………」
 そのまま歩いてみて、前方から車が走ってきて、四人とすれ違って、章太郎は違和感の正体に気づいた。
「!」
(そうだよ…そういえば、昨日だって…っ!)
 交差点の赤信号で立ち止まったタイミングで、章太郎は尋ねて見る。
「あのさ…」
「はい?」
「なに~?」
「なんだ?」
 三人とも、愛らしい笑顔で聞き返してきた。
「う…いや、あのさ…三人とも、車とか見ても、驚かないなーって…」
「なんだ、そんな事か」
 と微笑むブーケは少し得意げで、ユキが話してくれた。
「先ほども、お話いたしましたが…私たちは、こちらの世界へ呼ばれ、しばらくの間…魂のような状態で、自由に街などを散策させて戴いておりました」
 たしかに、そう聞いた。
「その時にね~、この世界の街をね~、色々と見て~、お爺ちゃんに色々~、教わったんだ~♪」
「ほほぉ…うむむ、なるほど」
「ボクたちだって、一から十まで何も知らないワケではないぞ。たとえば…」
 ブーケが、街行く人が覗いているスマフォを指差し。
「あの四角い板は、スマートフォンという物体で、なんだか色々なことが出来るとか。あの四角い箱は自動販売機というマシーンで、中には美味しいジュースがいっぱい入っている。とかな!」
 かなりボンヤリした情報だけど、街中の景色として確認できる物は、色々と知っているという話だ。
「だからか」
 思い直してみれば、昨日マンションまで送った際にも、三人は何か驚いた様子は無かった。
 なのに、マンション室内の家電一般は、全く知らない様子であったのだ。
「街中の物は、爺ちゃんに聞いて知ってるけど、室内に関しては全く未知だった。ってワケか…」
「そのとおりだ。あたりで走り回っているのは車で、あの馬のような乗り物はオートバイ!」
「あの大きく綺麗に四角い箱は、ばす という乗り物ですね」
「あとね~、あの高く飛んでいるのが~、へりこぷた~、だよね~!」
「なるほど…」
 と、空を見上げて、ヘリコプターではなく三人の認識に納得をした章太郎であった。

 通学路に学生が多くなって、学校が見えてきて、章太郎はようやくハっと気づく。
「あっ…このままだと、マズイかな…?」
「? どうした?」
 三人は気にしていないけれど、男子と女子が一緒に登校しているだけでも、色々な噂が立ってしまう。
 ましてや、男子一人と女子三人で、しかもブーケたちは転入生だ。
 昨日の今日で、まだ目立つだろう。
「えっと…ここからはさ、俺とみんなは、離れて登校しないか?」
 男子としての恥ずかしさもあり、また女子たちの名誉のためでもある。
「? なぜでしょう…?」
 しかし当人たちには、全く想像できないらしい。
「いやあのさ…そうそう、三人とも『男女七歳にして席を同じゅうせず』って、知ってるだろ?」
 と、少女たちの世界背景に合わせて言葉を選んだつもりだったけれど。
「? なにそに~?」
「ボクたちは七歳ではないぞ」
「いやまあそうなんですが…」
 どう言えば良いのかと戸惑っていると、背後から声を掛けられた。
「おっはよう~、赤井さん、柊さん、美鶴っち!」
 クラスメイトの女子たちだ。
 美鶴っちとか、もう親しい呼び名が付けられている。
「やあ、お早う」
 ブーケが挨拶を返したら、女子たちが華やぐ。
「「「きゃ~?」」」
 ブーケは、女子の平均よりは身長があるし、美人だしボクっ娘だしで、ポニテであっても女子たちからボーイッシュ的に人気が出た様子だ。
「お早うございます」
「「「ひゃあぁ~?」」」
 綺麗な挨拶を変えすユキに、女子たちは大和撫子な美しさを感じているらしい。
 平均的な身長やプロポーションと、雪女の雰囲気や艶やかで長い黒髪が、女子たちにとって憧れなのだろうか。
「おっはよ~♪」
「「「おっはよ~?」」」
 小柄で元気な美鶴の挨拶にも、女子たちは同じく元気な挨拶。
 小動物のような朗らかさと愛顔は、やはり女子たちにとって可愛い妹のような感じなのだろう。
「あ、御伽噺くん、お早う♪」
「あ、お、お早う」
 一緒にいるついでに挨拶を貰ったような男子であった。
 三人はクラスメイトの女子たちに囲まれて、更に同じ学校の女子たちが、遠巻きに三人を見ている。
 章太郎は、完全に蚊帳の外だ。
 ブーケたちから少し遅れて歩いていても問題無いらしい様子から、今はこの付近に、鬼はいないのだろう。
「………」
 安心ししつつも、一人残されたようで、少し寂しい章太郎。
 登校しながら、女子たちが質問をしている。
「ねーねーブーケさんたち、どこに住んでるの?」
 章太郎にも聞こえていて、ちょっとマズい気がすると、同居少年は考える。
「ああ、駅前のマンションだ」
「「「ええぇ~!」」」
 高級マンションだと知っているようで、女子たちも驚いている。
(大丈夫かなあ…俺も一緒に住んでるとかバレると、色々と五月蠅そうだけど…)
 高校生男女の同居とか、何もやましい事などなくても、世間的にも学校的にも問題視されて当然だと、常識人の少年も考える。
 うっかりでも妙なことを口走ったりはしないかと、ハラハラしてきた。
「あのマンション、すっごく高いって、聞いてるけど~」
「はい。私も、そのように伺っております。炊事洗濯の…機械…? などが、よく解りませんでしたので、本日これより、家庭Ⅱの田中先生に、色々とご教授を願おうと考えております」
「「「おぉ~? ユキちゃんママ~?」」」
 なんだか話がズレ始めた。
「あ、知ってる~? かっぷらーめん~? お醤油味~、美味しいよね~♪」
「「「カップ麺~♪」」」
 美鶴のカップ麺好きを、庶民派と受け止めている様子だ。
 三人とも、高級マンションに住んでいるわりには、家電の使い方が解らなかったりカップ麺好きだったりと、親しみやすさを感じて貰えたようである。
(ホ…これなら、大丈夫そうだな)
 同居バレはなさそうだ。
「三人で住んでるの?」
 という、何気ない質問に対して、生真面目に答えようとするブーケ。
「いや、四人だぞ。ボクと――」
(――っ!)
 章太郎は、慌てて話に割って入る。
「ぁぁああああああ~っ! ああ赤ずきんちゃんって~、本によっては父母赤ずきんの三人で~、最後はお婆ちゃんも同居する話があったりなかったりするんだよ! あはは!」
 と、赤ずきんの返答を遮りながら、適当な説明をした。
「「「へぇ~」」」
 取り敢えず女子たちは納得したらしい。
「ああそうそうユキは田中先生に用事かあるんだよな! 先生をお待たせしては失礼だから職員室へ早く急ごう! それじゃお先っ!」
 と、章太郎は女子たちの塊から三人の掌を掴んで引っ張り出して、急いで下駄箱へと駆け込んだ。
 女の子三人と同居している事を秘密にする為、何か適当な設定を考えよう。
 現実主義の少年としては、今まで考えたこともなかった事を考えなければならない日常になったと、あらためて実感をした。

                        ~第十三話 終わり~
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