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☆第十話 引っ越し初夜☆
しおりを挟む「ここが、ショータローの部屋だぞ」
と言われて、廊下の左右でで三対になっている部屋の、右側の真ん中へと招かれた。
「おぉ…俺が使い古した机やベッドが…っ!」
新しい部屋は、実家の部屋よりも広く、机とベッド、ネット環境のパソコン以外、ダンボール詰めされたままだ。
フローリングもピカピカだし、壁や天井は薄いブルーグレーで落ち着いた色合い。
ベランダへと続く大きな窓のカーテンは、壁よりも少し濃い色のブルーで、部屋全体の印象はなんだか大人っぽい感じだ。
暫し眺めて、見知らぬ部屋に使い慣れた家具が置かれている状況に「ああ俺は本当に引っ越してきたんだなぁ」とか、しみじみ。
「それじゃ~、みんなで引っ越しの荷物~、片付けようか~♪」
「はい、お手伝いいします」
と、三人は手伝う気がまんまんである。
「え、あっ、そのっ――荷物は自分で片付けるから…っ!」
手伝わせるのが申し訳ないのと、年頃の男子としては女子に見られたくない私物も、ないワケではない。
「エンリョするな。ショータローは紳士なのだな」
とか、ブーケも純粋で勘違いな発言だ。
「流石に…私たちでも、このだんぼーるの開け方くらいは、解りますわ」
と、雪女が掌に氷の刃を生成して、ガムテープで閉じ合わされたダンボールの天面をスッパりと切断。
「開きましたわ」
と、ダンボール板を一枚、両手で丁寧に持ち上げて、収められている章太郎の衣服を取り上げて見せた。
「へぇ~、この紙の箱、そうやって開けるんだ~♪」
とか間違った開封方法を知った美鶴が、指の先から極細な糸をシュルっと伸ばしてダンボールに巻きつけると、やはり天面だけを綺麗に断絶して見せる。
「おお~、この紙の箱~、丈夫なのに切りやすいんだね~♪ すっごい高級品~♪」
「いや…まあいいや」
価格や箱の開け方など突っ込みたいところだけど、章太郎は、必要な機会があればまた説明しようとか、思った。
ちなみに、ブーケはどこからか取り出したサバイバルナイフで、やはりダンボールの天面をシュっと切り裂いて、開封をした。
その数は、ナイフ一振りで箱三つ。
「こちらは 全て本か。沢山あるなぁ。ショータローは、読書好きなのだな♪」
と、ブーケの話を聞いて、ユキも美鶴もクワクワ美顔で、本の山へと集まる。
「わあぁ…これ程の本、章之助様の所蔵庫で拝見して以来ですわ」
「本当~! 章太郎くん~、お爺ちゃんと 似てるね~♪」
「そ、そう…?」
章太郎は、寝る前にベッドで横になって、なんとなく本を読むのが好きである。
特別に内容のある本とかではなく、難しい本だろうが内容の無い系のギャグ漫画であろうが、とにかくベッドでのゴロ寝な読書で、心がリラックス出来るのだ。
「そうなのか。もしかしてショータローは、王立図書館の司書を目指しているのか?」
「? いや、今は図書館員とか、区立でもいるから」
「「「?」」」
という章太郎の説明も、やはり文化や時代背景の違いなのか、三人には伝わっていないようだ。
こういう認識の違いを目の当たりにすると、さしもの現実主義者少年でも、無意識に色々と納得をさせられてしまう。
「まるで催眠術だなー」
「何の事だ?」
「いや、別に…」
と、三人が手伝ってくれる事に抵抗感が薄らいだタイミングで。
「あ、あの…章太郎様…。このような、枕絵は…どちらに…」
ユキが恥ずかしそうに、さり気なくチラと見せたのは、今や昔の、芸術系でもある女性芸能人の、ヘアヌード写真集。
「え――わわわっ! そ、それはあのなんで荷物の中にっ!?」
よく見ると、ダンボール一つにギッシリと、色々なヌード写真集が詰め込まれている。
「何だ? おお、芸術の絵画を集めた本とは、ショータローは画家にもなりたいのか。それにしても…まるで本物のような絵画だなあ!」
ブーケに続いて、美鶴も一冊、取り上げて閲覧。
「本当だ~! なんか紙とかも、すっっごく高級そうだよ~!」
「こちらの、その…じょ、女性同士が絡み合ってる枕絵など…なんとも、淫靡な雰囲気なのですが…」
「「ぉおお~!」」
恥ずかしがりながらも、ユキも興味がある様子だ。
三人ひは何となく、章太郎をジっと見つめる。
「ぃいやだからそれはっ、写真集というものでっ、そもそも俺の私物じゃあなくてっ、おふくろにコレクションがバレそうになった親父が混ぜた本だからっ!」
「しゃしんしゅう~? これくしょん~? 何それ美味しいの~?」
「え、えぇと…」
決して章太郎の私物ではないという説明の他に、そもそも写真についての説明をしなければならない少年だった。
「じゃあ、撮りまーす」
「「「はいちーず」」」
少年のスマフォで、写真を撮影をしてみせる。
「これが…まぁデジタルだけど、写真だよ」
「「「ほおおぉぉ~っ!」」」
平面の中に自分たちがいる事に、驚きを隠せない三人。
「こ、これは如何なる魔法なのだっ? ボクたちがっ、みんな薄い板に…っ!」
「氷の鏡に映したよりも、鮮明な…!」
「あれ~? あたし こんな顔なの~? あれれ? 斜めから見ると、変な色になっちゃうよ~っ!」
初めて写真を見た少女たちは、当たり前だけど理解が出来ない様子だった。
「それにしても…こちらの枕絵とも、また違う感じですが…」
と、再びヘアヌード写真集をペラっと開いて見せるユキ。
「ああ、そっか。なら、紙に出力するから」
机の上に、パソコン一式を並べて設置して、スマフォの写真を紙へとコピー。
「これはコピー用紙だから、写真集に使われている紙よりも 品質はアレだけど」
「うわ~っ! あたしたち、こっちでも真っ平らだ~!」
「なんとした事かっ! ボクたちはこうして、実在しているというのにっ!」
写真の存在がまだ理解できていないブーケは、自分の頬を両掌で撫でながら、存在を確認中。
「まあ簡単に言えば…鏡に映っている風景とかを写し取って、インク…絵の具で紙に映した感じ…かな?」
少女たちの時代背景に合わせて、現代科学を説明するのは、なかなかに困難だ。
「そうなのですか…? ですが、鏡のように左右が反対では、ありませんが…」
と、日常的に氷の鏡を使っているっぽいユキは、疑問に思ったらしい。
「ああ、そういえば! ガラスに映ったボクも、右と左が逆になっていたぞ! このシャシンとは、どういう物なのだっ?」
「ううん…どう言えば良いだろうか…?」
マッド・サイエンティストな祖父であれば、的確にスラスラと、難なく説明を出来るのだろうけれど。
「うぅ~ん…つまりなぁ」
このまま、頭の中の祖父に負けっぱなしなのも悔しくて、章太郎はなんとか知恵を絞り出す。
「そもそも、物が見えるって事は、光の反射なんだ」
人間などに光が当たり、跳ね返された光を目が感じ取って、物の形や色が見える。
鏡の場合は、立体的に反射した光が更に平面として二次反射されるので、光の平行移動によって、左右が逆転して見える。
「…で、この写真っていうのは、人間の目と同じ、最初の反射を捕らえて記録しているんだ。それを紙に写し取ると、実物と同じに見える平面の画が出来上がる。という感じだけど…わかる?」
と、少年としては、なかなか上手く説明できたと思う。
果たして少女たちは。
「難しいが、なんとなくは解るぞ!」
と、少し誇らしげなのは、赤ずきん。
「なるほどです。そのような仕組みを発明してしまう人間方は、とても発展的な存在なのですね♪」
と、雪女は意外と知性派らしい。
「なんだか ちんぷんかんぷん~♪ ただ、あたしたちじゃ無くて~、あたしたちの画だって事は、解ったよ~♪」
解らないなりに理解している鶴である。
「まあ、うん。間違ってないし、その理解で良いと思うよ」
とか、こんなちょっとした物理とも言える話をするなんて、思ってもいなかった。
(…やばい。楽しい…!)
この三人が御伽噺の世界の少女たちだと、現実主義者の少年としては、まだ意地とかも含めて、認めたくない本音はある。
しかし、御伽噺の世界という時代背景がなれければ、生まれた頃には当たり前に普及していた写真への疑問なんて、普通は感じなくて当然だろう。
写真についての説明を受けた三人は、コピーした紙を見ながら、楽しそうにワイワイ。
「ね~章太郎くん~! 章太郎くんも~、一緒にシャシンしようよ~!」
「おお、それは名案だな!」
「素敵ですわ…♪ さあ、章太郎様」
「え、あ、うん…」
一般的に、男子はあまり自分のシャシンに、興味は薄い。
しかも、愛らしい女の子三人との撮影なんて、章太郎には緊張の一時である。
「じゃ、じゃあ…」
「「「はいちーず!」」」
日常的な室内での撮影なのに、三人のキラキラした笑顔が眩しい。
真ん中に収められている少年は、美少女たちに取り囲まれるという人生初の体験に、恥ずかしさが隠せていなかった。
~第十話 終わり~
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