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☆第五話 お昼ご飯☆

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「エ、エネルギーって…」
 ファーストキスでの動揺だけではなく、章太郎はたしかに、身体の奥の物質ではない何かを少しだけど吸引される感覚を、覚えていた。
「章太郎くんの、身体のエネルギーだよ~♪ やっぱり美味しかったね~♪」
 とか嬉しそうに言いながら、美鶴が可愛らしく舌なめずりをしたり。
「美味しいって…あ」
 急激に、お腹がグウゥ…と鳴った。
「なんか…急に、さっきより腹が減ってるみたいな…」
「はい。私どもが、章太郎様の生体力…聖力(せいりょく)を戴きましたので…」
「せいりょくを貰ったって…何か言い方を…」
 取り敢えず、ただキスをされて空腹になったワケではない。
 という事を現実主義の少年は、納得をしなければならなかった。
「あんな、鬼ってのも出たし…」
 あれが、何かの手品である可能性は否定できないものの、可能性としては極めて低い事なんて、いくらファンタジー否定派の章太郎でも、解っている。
「と、とにかく…う」
 ――ぐうううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…。
 お腹の空き具合が、尋常ではない感じだ。
「まあ、まずはショータロー、お弁当を食べた方が良いだろう」
「わ、悪いけど…そうさせて貰うよ」
 まるで、朝ご飯を食べてこなかったみたいな空腹感。
 いまなら、牛丼の大盛り二杯も軽く食べられそうである。
 教室へ戻ってお弁当の蓋を開けたら、人生でこれ程までにお弁当が美味しそうだと思えた事などないと自覚出来るくらい、お弁当が美味しそうだった。
「おおぉ…ご飯を食べられるって、幸せなんだなぁ…。戴きます!」
 両手を合わせて食べようとして、気づく。
 章太郎の机を取り囲むように、三人の童話少女たちが立っている。
「………えっと…」
「? なに~?」
「三人とも、なにしてるの…?」
 正直、シっと見られていると、食事がし辛い。
「どうぞ、お気になさらず」
「うん。ボクたちの役目は、ショータロー、アナタを護る事だからな。こうして警戒をしているのだ」
 そう言われても、落ち着かない。
 しかも、
 ――ぐううううぅぅぅぅぅうううううぅううううううううぅぅぅぅぅぅぅううううううぅぅぅぅぅ…。
 屋上での章太郎の空腹よりも大きな音が、三人から発せられた。
「うわっ! みんなっ、お腹空いてるじゃんっ!」
 と慌てたら。
「ああ、これは単純に、この肉体が反応しているだけだ」
「はい。ですので、皆様方のような空腹…という訳では、ございません」
「だから~、章太郎くんも気にしなくていいよ~♪」
「え、あ…」
 と笑顔で教えられても、目の前でお腹を鳴らしている少女たちを放って置いて「そうですかそれでは」とかご飯を食べられるような男子は、まず存在しない。
 女子三人が空腹を訴えている音に、クラスメイトたちも気づいている。
 特に女子たちの目が、とても冷たく突き刺さってくる感じの章太郎だ。
「みんなは、その…食べないの? お昼」
 と尋ねたら。
「ああ、その点は大丈夫だ。ボクたちはさっき、章太郎の聖力を戴いて――」
「ああーーあーーっ! そういえばーっ、学食やってるよなあああっ!」
 大変な言葉を吐かれそうになって、章太郎は再びお弁当の蓋を閉じて、三人を連れて教室からダッシュ。
 そのまま四人で、学食へと走った。

 学食はほどほどに混んでいて、菓子パンや総菜パンは既に完売。
「一応 訊くけど、三人とも、食事は出来るの?」
 訊いておかなければならない事だけど、この質問じたいが、既に現実主義者としてどうかしていると、章太郎はまだ気づいていなかったり。
「ああ、食べ物を食べる事は、なんでもないぞ」
「そっか…じゃあ、取り敢えず 学食の事を教えておくよ」
 三人とも食事が出来る聞いて、なんとなく安心した章太郎だ。
「とりあえず今残ってるのは…カレーライスだけか」
「「「かれーらいす…?」」」
 三人とも、知らない食べ物らしい。
「え…雪女と鶴はともかく、赤ずきんが知らないとか、意外だな」
「そうなのか?」
 とはいえ知らないらしいので、章太郎は四人分の席を確保すると、三人にトレイを渡して、一緒にカウンターで注文をした。
「オバちゃん、カレーライス三つ」
「はいよー」
 お皿に盛られたライスとカレーに、三人は不思議そうな顔をしている。
「…この白い粒は、何だ…?」
「こ、これは…まさか…」
「ぎっ、銀シャリだよ~っ!」
 白米を見て「?」顔のブーケと、大変な興奮と緊張をしている、ユキと美鶴。
 お皿にカレーライスが盛られると、次は水とスプーンの場所へ。
「水とスプーンはここ。解る?」
「ああ、スプーンは解るぞ。って、これは金属ではないか! 木製ではないのかっ!?」
「これが お匙なのですね…。まるで 鏡のような美しさ…」
「見て見てっ、湯飲みが透明だよ~♪」
 それぞれの生まれた時代感覚なのか、現代人にとっては当たり前な食器類が、三人には珍しい物のようだった。
 席について、ようやく食事だ。
「じゃ、戴きます」
「「「戴きます」♪」」
 章太郎がやっとお弁当を食べようとして、また止まる。
「……食べないの…?」
「う、うむ…」
「この液体は…」
「食べ物~?」
 カレーライスを見た事のない三人には、この濃緑色の液体が食べ物とは、認識しづらいのだろう。
「美味しいよ。この学校のは甘口だから、食べやすいし。ご飯と一緒に食べるんだ」
 と、人生初にしてたぶん最後であろう、カレーの食べ方のレクチャーをした。
「そうなのですか…」
「じゃあ~」
「戴こう…」
 三人のお皿に、スプーンが下ろされる。
「は、白米だ~っ!」
「このような贅沢を…天罰が下ったりは、しないでしょうか…?」
「え、あぁ…」
 章太郎にも、なんとなく解った。
 雪女や鶴の恩返しの時代は、庶民が白米を食べる事など、ほぼ皆無。
 白米は税として献上させられ、農民たちは麦飯や粟(あわ)や野菜などを、主食としていた。
 なので、二人にとって白米は超高級品であり、お上の食べ物という認識なのだろう。
「今は 白米が主食だよ」
「わ、私は…麦でも十分なのですが…」
「あたしも、粟でも沢山だよ~」
 まだ抵抗というか、白米に対する高級感が拭えない様子。
「白米の方が沢山作れるから、今じゃ麦飯とか粟のほうが、値段が高いよ」
「ええ~っ、そうなの~っ?」
「なんという…」
 二人とも、それなりにショッキングな現実らしい。
 そしてブーケも。
「この白いものは…麦ともパンとも違うな…?」
 ホカホカのご飯とカレーをスプーンに乗せて、ジっと見つめていた。
「お米っていう穀物で、英語で言うとライスだな。カレーとライスで、カレーライス」
「な、なるほど…」
 という感じで、なかなか食事が始まらない。
「とにかく、食べると解るよ」
「わ、わかった…」
 あらためて、三人がスプーンのカレーライスを戴いた。
「「「ぱく…んんっ!」」」
「な、なんという美味…っ!」
「これ、美味しい~っ♪」
「おおぉ…まるでスパイシーな濃厚スープのごとく…っ!」
 それぞれ、カレーライスの美味しさを実感したらしい。
「良かった。特にウチの学校のカレーは、オバちゃんたちがスパイスから調合してるらしいから、他の学校の学食カレーよりも美味しいと思うよ」
「そうなのか…どこの城の料理人かと思ったが…」
「いやそういうのって…ああ、イギリスとかなら 今でもあるのか」
 三人は未知なるカレーライスに魅了されたようで、一口戴いては感激の微笑みを零して魅せて、周囲の男子たちが魅了されたり。
 ここで、章太郎はハっと気づく。
「そういえば、今更でなんだけど…雪女って、湯に入ると溶けちゃったりする話があるけど…カレーライス、大丈夫なのか?」
「はい。溶けるも再結晶かするも、自由自在ですので…?」
「そ、そうなんだ…」
 民話の見方が変わりそうな告白だった。
                        ~第五話 終わり~
       
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