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☆第四話 敵性と純正☆
しおりを挟む蜃鬼楼が四メートルを超えるまでに成長するのに、数秒と掛からなかった。
赤黒い二つの目の下に、大きな裂け目が横走って。
――ガオオオォォォォォオオオオオンッ!
「うわっ、何だあの音っ!?」
まるで巨大な熊やライオンを思わせるような、遠吠えの如き音。
「蜃鬼楼が物質化をするぞっ!」
章太郎の盾となっている三人の美少女が、戦闘準備で身構える。
ブーケはミニスカートの背中からハンドガンを抜いて、ユキは頭上へと掲げた掌の上で吹雪を起こし、美鶴は指先からしなやかな細い糸をそよがせ…。
たりしないで、なんだか素手で身構えるのみ。
「章太郎様も、その御目にてお確かめください…! 蜃鬼楼は、この世界に災いをもたらす邪悪な存在なのです!」
「災い…」
蜃気楼から、太い両脚と両腕が染み出して、屋上へと降り立つ。
ボンヤリとした影が、ハッキリと視認できる物質へと、完全に変換をされる。
その姿は。
「あ、赤い…だるま…っ?」
目の前に立つ四メートルほどの、赤いダルマ的な何か。
大きなバランスボールを二つ重ねたような身体に、太い手足が生えていて、上のボールには赤黒い邪眼と裂けた口と、天辺に二本の角が生えている。
左掌には金棒も携えていて、全身からイヤな感じのオーラが立ち上っていた。
なかなか可愛い外見とは裏腹に、殺意マンマンな感じだ。
「あ、あれが…鬼…?」
「そうだよ~! あんな可愛い感じだけどぉ、悪い事しかしないんだよ~!」
穏やかな美鶴が、真剣な感じの話し方。
「そ、そうなのか…っ!」
実体化をしたバランスボールな鬼は、あきらかに章太郎を直視して、赤い舌でズルりと舌なめずりをする。
「うわっ…なに、俺を、食べる気なのか…?」
まだ目の前に異常に対して、現実主義脳が処理をしきれておらず、バカな問い方をしてしまった。
丸い鬼が章太郎を目がけて、ズシンと一歩近づく。
「………」
(て、手品じゃあないよな…!)
手の込んだ手品の可能性も否定しきれない現実主義少年だけど、一歩を踏み出した際の音はともかく重たい振動は、説明が思い付かない。
「ショータロー。あのオニが、ボクたちの戦う相手なんだ!」
そう話してくれたタイミングで、鬼は目の前の獲物である章太郎との間で盾となって邪魔をしている三人の美少女たちへと、力を振るってきた。
――ガオオオォォォッ!
力を誇示するように金棒を振り上げると、少女たちをも叩き飛ばそうと、横凪に振り回す。
――ブウウウンっ!
「うわっ!」
章太郎が叫んだ直後、三人は華麗で綺麗なジャンプで身をかわし、中でも美鶴は少年を抱いたままのジャンプで金棒をかわした。
「みっ、みんなはっ!」
男子の本能で、思わず声を掛けると。
「えへへ~♪ こう見えてもあたし、力自慢なんだ~♪」
「そ、そうですか…」
鶴なのに。
とか思っていたら、ブーケとユキは鬼の背後へと着地をして、美少女三人は鬼を取り囲む位置を確保している。
そして、ブーケが二人に告げる。
「みんな、変身するよっ!」
「はいっ!」
「いいよ~♪」
「え…っ?」
変身というと、まさか。
「レッド・スタイル・チェンジっ!」
「大雪山下ろし…っ!」
「白き翼 羽ばたきて 我天空を舞う!」
一緒に変身のコールをすると、章太郎の目の前で光に包まれ、また裸となる。
「わわ――っ!」
鬼の前で大丈夫なのか?
とか思いながらも、ブーケたちの変身裸体から目が離せない年頃少年だ。
ブーケが赤いゴスロリドレスを纏い、ユキが純白の和装となり、美鶴は鶴ではなく、鶴を模した魔女っ娘風。
三人は着地をすると、名乗りを上げた。
「赤い弾丸っ、赤ずきん参上っ!」
「純白の冷徹…雪女…っ!」
「仙鶴(せんかく)だよ~♪」
「変身、さっきと違う人が…」
気にしているのは、章太郎だけらしい。
変身少女たちは油断する事なく今度こそ、赤ずきんはハンドガンを取り出し、雪女は掌にマイクロサイズの吹雪を作りだし、仙鶴は背中に鶴の翼を拡げる。
戦闘態勢の完了である。
「ではショータロー」
「私たちの戦いを…」
「見ててね~♪」
と、明るく手を振る少女たちだ。
「大丈夫なのかなぁ…」
章太郎の心配は、まだ見た事も無い三人の能力ではなく、あんな巨大な正体不明の存在と戦って、ケガしないかという一点だ。
「いくぞっ、ハっ!」
赤ずきんが、鬼の棍棒を避けつつ右の背後から銃撃を浴びせると、バランスボールの球面が凹んで、鬼が姿勢を崩す。
「ぇえいっ!」
雪女が掌のマイクロ吹雪を強めて、ミニ吹雪が三日月型で超高速な運動をする、氷の刃を生成。
瞬時に発射をしたら、重なったボールの接点を通り抜けて、鬼は上下の二つに分断された。
――ガオオォォッ!
頭がバウンドして転がる鬼だけど、まだ章太郎の事は諦めていないらしい。
胴体に残される左掌と両脚を引っ込めたかと思ったら、その分みたいに右腕を伸ばし、章太郎の脚を掴もうと狙って来た。
「うわっ!」
「見逃さないよ~っ!」
と言いながら、仙鶴が羽根の先から細い糸を無数に伸ばし、章太郎へ向かう右腕をスパスパとスライスして、鬼は身動きが取れなくなる。
「では、フィニッシュだっ!」
「はいっ!」
「うん~♪」
三人が三方で、分断された鬼を取り囲むと、みんなで両腕を掲げて、エネルギーを集中させる。
「「「オカルト・フィニッシュっ!」」」
「オカルト?」
必殺技の名前らしい。
三人のエネルギーが鬼の頭上で集められると、虹色の光の珠となる。
眩い輝きに、鬼は苦しみ、修太郎は心地良さを感じていた。
「「「聖浄黄泉帰し(せいじょう よみがえし)っ!」」」
やや物騒な技名を称えたら、光の珠が鬼へと落下。
――ッグォォォアアアアアッ!
邪悪な鬼は聖浄なる光に呑み込まれながら、断末魔の絶叫を上げて消滅をした。
屋上の床には鬼の残骸など一粒も無く、ただ何も無かったかのように、いつものコンクリ床だった。
魔女っ娘アニメのような戦いを見せられた、現実主義少年が思ったのは。
「えっと…なんかみんな、けっこう易々と 倒してない…?」
三人が強いのか鬼が弱いのか、章太郎には判断できない。
少年の疑問に、赤ずきんが答える。
「今のは、さほど強くない鬼だな。ボクたちの実力であれば、変身しなくても一人でも倒せる程度だ」
と、綺麗なドヤ顔。
「え、じゃあなんで、ワザワザ変身したんだ?」
三人の裸身を思い出すと、顔が赤くなる。
「章太郎様を…この命に代えてもお守りする意志の証…で御座います…」
と、雪女が頬を染める。
「そんなワケだから~♪ 力を使ったあたしたちに~、力を補充して欲しいんだ~♪」
「力の補充…?」
鬼が狙っっていたという、章太郎の純正らしい生命エネルギーの事だろう。
「それって、何をするんだ?」
「こうするんだ~♪ ちゅ」
と言って、仙鶴が脣を重ねてきた。
「んっ――うわっ、なっ、何だ何だっ?」
突然のファーストキスに、少年も同様を隠せない。
「ボクたちには、ショータローのエナジーが必要なんだ」
と、笑顔のウインクをくれて。
「必要って――んちゅ」
「私も…ちゅ」
「んっ――んゃ、ぁのっ、あのっ!」
立て続けに三人からのキスを貰って、少年は動揺しか出来ない。
対して、エネルギーを貰った三人の童話少女は、美しく輝いていた。
「そんなワケで、これからもヨロシクだ。ショータロー」
~第四話 終わり~
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