上 下
1 / 11
1章

なんで俺が極秘任務に?美人青年将校との出会い

しおりを挟む
「東少尉、お待たせしました。佐倉軍曹であります」
「入りなさい」
「はっ」

少尉が懇意にしている待合茶屋に呼ばれた。
襖を開けると、上官としてよく知っている東少尉と
もう一人軍人らしき男の姿があった。

軍服と少尉の態度から、おそらく少尉以上の階級であることが分かる。
その割に年若く、整った見た目をしていた。

はっと思い至る。

あれは陸軍士官学校をトップで卒業し、
戦場で次々と戦功をあげていったエリート将校ではないか。
親は確か、如月中将。判断力があるが、冷徹な性格と言われている。
彼の息子ということもあり軍では期待の星だ。

しかし、初めて間近で見た如月中尉は思っていたよりも優男だ。
虫も殺せなさそうな見た目をしている。

「そんな緊張せんでもよろしい、人が来たら困るから」
「襖を締めなさい」

「はっ、申し訳ありません。」

少尉に呼ばれただけでも緊張しているのに、
噂の青年将校もそろっているとわかり、
俺はさらにがちがちに緊張していた。
なぜ自分がこの二人の密談に呼ばれたのか見当もつかない。

「不思議そうな顔ですね」

如月中尉はそんな俺の心中を察してか、
少し顔をほころばせて話しかけてきた。

本当に軍人というよりも男娼と言われたほうが
納得できるような見た目をしている。

そんな気はないのに、軍生活が長く女日照りの俺は
彼の笑顔に少しどきどきしてしまった。

「ごほん、そこで本題なんだが・・・。」

ぼーっとしていた俺を現実に引き戻したのは
東少尉のわざとらしい咳払いだった。

如月中尉に見惚れていたのがばれたのか。
少し居心地悪くなり、慌てて姿勢を正す。

「今回貴様には潜入任務を行ってもらう」

「自分が・・・でありますか?」


ああ、最近東の連中が都で大規模な事件を起こした。
それにより、多くの市民が犠牲となった
この事件については知っているな。


「はい、とても人間の仕業とは思えないような惨状で・・・。」

俺は事件のことを思い出して吐き気がした。


それは多く人が集まっている祭りの夜に起こった。

俺はその時にその場にいなかったため、実態はわからないが
その時多くの人が見たのだという。

空を飲み込むような大きな化け物の姿を。

”それ”が通り過ぎた後には、死体の山が築かれていた。

無残に食いちぎられた死体、または、ぐちゃぐちゃに潰された死体。

現場に駆け付けた時に見たものは、まるで地獄絵図。


その事件はどうやら妖を使ったものらしい。
更にここだけの話、どうやら東の連中は妖を使って陛下の暗殺を
企てているようだ。
その顔、うそだと思っているのだろう。
だが実際に東の連中は某敵国とつながり、
スパイ行為を行っているとの報告も上がっている。


そこで如月中尉が東少尉の言葉を引き継いだ。


重大な案件なのですよ。
しかし、上層部は妖の存在を端から信じようとせず、
ありもしない人間の犯人を血眼で探しています。
陛下暗殺の件に関しても同様で、
誰もこの案件に取り掛かろうとしないのです。

そこでわたし自ら敵地におもむき、調査をすることにしました。
そこでその相方としてあなたを選ばせていただきました


ここで如月中尉が言葉を区切った。
目の前にあったお茶を少し口に含む。

「おい、せっかく如月中尉が直々に指名してくださったんだから、
何かないのか?」

東少尉がわざとらしく眉根を寄せて俺を睨む。
ぼんやりとしている俺はよくここでビンタを食らっていた。

「はっ、大変光栄であります」

体に慣れ親しんだ条件反射で勢いよく敬礼しながら、
頭の中では疑問符ばかりが浮かんでいた。

本当にあの事件は妖によるものなのだろうか?
それに陛下暗殺など東の連中がそんな恐れ多いことを
計画しているとはにわかに信じがたい。

それに、そんな重大な任務になぜ俺を?ますます意味が分からない。

「如月中尉、一つ、質問してもよろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ。」

「なぜ、俺、自分なんです?」


ええ、聞かれると思っていました。
ではわたしからも一つ質問させてください。
戦場において、将校と呼ばれるような上級士官にとって
一番の敵はなんだと思いますか?


「えっ、自分の中の怠け癖とか・・・ですか?」

ふふっと如月中尉が口を押えて笑った。
どうやら違ったらしい。


やはり、面白い方だ。それは軍人にとっては一番の敵ですね。
ですがわたしが今言いたかったのは、そうではなくて、
後ろから撃たれること。つまりは味方です。
だからもしわたしが重大な任務で相手を選ぶなら、
一番信頼に足るだろう人物を選ぶことにしていました。
わたしにとってあなたがそうです。


「あ、ありがとうございます!」

俺は単純だがうれしくなってしまった。
こんな上級士官に見初められて重要な任務の相方に選ばれるなんて思わなかった。
そして軍人になってから褒められるよりも怒られてばっかりだった俺は
素直に人格を褒められたことがうれしかった。

「では、一緒に頑張りましょう」

「は、はいぃ!佐倉軍曹、精いっぱい頑張ります。
必ず任務を成功させて見せます!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

Nude

爼海真下
BL
小学二年のとき、睦月はコインランドリーで会という少年に出会った。 王子様のように美しい容貌を持ち、巧みな絵を描く会に惹かれた睦月は、彼から絵を教わるようになるが、ある出来事をきっかけに二人は疎遠となる。 会への復讐心を燃やしながら絵を描き続け美大生となった睦月は、久々に再会した会に自分の絵を買いたいと言われ、対価として肉体関係を持ちかける。 モデル×美大生の拗れ幼馴染

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

悪役令息に誘拐されるなんて聞いてない!

晴森 詩悠
BL
ハヴィことハヴィエスは若くして第二騎士団の副団長をしていた。 今日はこの国王太子と幼馴染である親友の婚約式。 従兄弟のオルトと共に警備をしていたが、どうやら婚約式での会場の様子がおかしい。 不穏な空気を感じつつ会場に入ると、そこにはアンセルが無理やり床に押し付けられていたーー。 物語は完結済みで、毎日10時更新で最後まで読めます。(全29話+閉話) (1話が大体3000字↑あります。なるべく2000文字で抑えたい所ではありますが、あんこたっぷりのあんぱんみたいな感じなので、短い章が好きな人には先に謝っておきます、ゴメンネ。) ここでは初投稿になりますので、気になったり苦手な部分がありましたら速やかにソッ閉じの方向で!(土下座 性的描写はありませんが、嗜好描写があります。その時は▷がついてそうな感じです。 好き勝手描きたいので、作品の内容の苦情や批判は受け付けておりませんので、ご了承下されば幸いです。

処理中です...