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第一章 戦う聖女
第一王子の聖女救出劇-隠し扉のその先に-
しおりを挟む「奴は厨房だ」
「追い詰めたぞ」
「料理長、大丈夫ですか?」
「さて、どうする?」
扉の向こうには、魔物たちが今にも扉を
押し破ろうとしていた。
「これはまずい」
俺はこの場をどう切り抜けるか必死で頭を巡らせていた。
うん、こういう時はリラックスすることが大事だ。
気絶している料理長の耳に触る。
すごい、ふわふわする。極上の羽毛布団のごとく柔らかく
暖かい感触に震えた。
「ほわぁああああ」
そして尻尾に手を伸ばして、付け根の方から先端に向けて触ってみる。
普通の猫だったら怒って絶対に触らせてもらえないところだから、
その感触に感動していた。
「ふっ、にゃぁっ、…」
料理長の耳がぴくぴくと動いて声が漏れる。
やっ、やばい、これ以上触ってたらいろいろまずい。
癒されようと思って触ったのに、変な気分になってきた。
そうだ、思い出せ。
あのゴブリン。
今日会った奴は特にでかかった。
そうだ、深呼吸。
料理長から離れて、胸に手を当て、深呼吸しながら
後ろに下がったところでがしゃんと音がした。
床の石が一部ズズズっと押される。
あ、これ脱出ゲームによくあるやつだ。
ゴゴゴゴゴという音とともに、厨房の棚が左右に動いて、
隠し扉が現れた。
性欲ってすごい。
すべての問題を解決するじゃん。
俺は料理長をまた抱えなおすと、
慎重にその重い扉を開いた。
通路は暗く、人一人がやっと通れるくらいの広さだ。
グネグネと曲がりくねり、難解な通路を進んでいく。
聴こえるのは自分の息遣いと気絶している料理長の
規則正しい呼吸だけ。
先が見えない狭く暗い場所を
ずっと孤独に進むのは気が狂いそうだが、
今は敵(未来の嫁)とは言え一人ではないという事実に
少し安堵する。
ふいに、うすぼんやりと光が差し込む。
周囲の様子を慎重に確認しながら
俺はそれをゆっくりと開いていった。
誰もいない。
俺は扉を開けて、その部屋に侵入した。
天井からは大きなシャンデリアが吊り下げられ、
床は赤い絨毯が敷かれている。
壁や柱には丁寧に装飾が施され、
一目で地位の高い者の部屋だろうということがわかる。
そして天蓋のついた規格外に大きなベッドには
白いカーテンがかけられて中が見えない。
一歩足を踏み出す。
ふとベッドのカーテンの影が揺れたような気がした。
…誰か人がいるのだろうか。
椅子の上に料理長をそっと置いて、
静かにベッドに近づいていく。
一歩、また一歩と。
短剣を抜いて、すぐにでも攻撃できる体勢を取る。
そして。
引きちぎるような勢いでカーテンを
バッと開けた。
「…ユーリ?」
ベッドに静かに横たわる人物は
真っ白なドレスにを着せられて、
ピクリともしない。
一瞬女性かと見まがうほどの美しさと
軽々しく触れてはいけないような神々しさに
伸ばしかけた手を引っ込めた。
何年も会ってなかった。
王国にいたころは他の王子と違い、
ちょくちょく聖なる森に行っていた俺
(綺麗な女性がたくさんいたので眼福だった)は
ユーリともそれなりに関りがあった。
だが、最後の記憶の彼は子どもの姿だ。
聖女らしい白い衣装を着ていたが、
中身は生意気なガキだった。
旅に出ようとする俺を引き留めて、
「なんで行くんだ、バカ兄貴」
「そんなんだからお父様にも
呆れられるんだ」
「行くなよ」
憎まれ口をたたきつつ、
俺の裾を放さないユーリに
しょうがないなと頭を撫でたら、
思いっきり脛を蹴られた。
「夢が叶うまで帰ってくるな!バカ兄貴」
あんなに小さいガキだったのに。
「ユーリ、お兄ちゃんだ、助けに来たぞ
起きろ、ユーリ」
ユーリの頬をぺちぺちとたたくと、
その瞳がゆっくりと見開かれていく。
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