上 下
2 / 24
第一章 戦う聖女

どうしてあんな奴らのために~聖女の城での扱い~

しおりを挟む

はぁ、疲れる。
俺は自室に戻るとベッドに寝転んだ。
そして目を閉じて先ほどの出来事を思い返す。

血が出るほど唇を噛みしめた。
悔しくてたまらない。

「なんであんな奴らのために…!」

聖女は王国にとって大切な存在であり、象徴だ。
本来なら兄弟の言う通り、聖域と言われる隠された森の奥で、
祈りを捧げ、国を陰から支えるのが仕事だろう。

戦に出るなどもってのほか。
例え国王の子だとしても、聖女であれば
王子の地位ははく奪され、
一生神に身をささげるのが習わしだ。

そんな俺が王国に引きずり出されたのは
魔王軍の進軍が原因だった。

聖女の祈りによって、王国全体には強力な結界が
出来上がり、魔王並びにその部下である魔族が
立ち入ることはできず、王国は長い間平和が保たれていた。

しかし、俺の母である大聖母と呼ばれるマリアが
寿命を迎えたことにより、王国の結界が破られ、
魔王軍が王国に進軍した。

俺は必死で結界を元通りにするために力を尽くしたが、
到底彼女には及ばず、魔物たちの王国内への侵入を許した。

国王はそれに対し、苦渋のなか決断した。

神聖な魔力を持つ聖女たちを兵士として率いて、
魔物と戦うこととなった。

多くの犠牲はあったが、一時的に魔王軍を王国から
撤退させることに成功した王国では、
勇敢に戦い魔族を退けた聖女たちに賞賛の声が
上がっていた。

その中でも、元王子の俺を国王に、という声まで
上がっていたのだ。

国王はその声を無視することはできず、
俺を城に戻され、再び王子の地位を与えられた。

※※※


「おい、最後の稽古だ、来い!」

ガンガンと部屋の扉が乱暴に叩かれる。

第2王子の声だ。
俺はのろのろとベッドから起き上がり、
稽古用の剣を片手に持つと扉を開けた。

第2王子についていくと、そこには先ほど俺をバカにした
第3王子と第4王子もそろっていた。

俺が来たのを見ると、2人ともにやにやと凶悪な笑みを
浮かべる。

「立派に戦場で戦えるようにお兄様たちが稽古をつけてやるんだ」

「泣いて喜べよ、聖女ちゃん」

「ほら、さっさと剣を構えろ」

俺が剣を構えると、いきなり脇腹に蹴りを入れられた。

「うっ!」

受け身も取れず転がる。
続けざまに稽古用の刀で体を殴打され、
痛みに体を丸めて耐える。

「…ぐっ、うっ、」

「ほら、どうした?さっさと立ち上がって反撃したらどうだ?」

…こんなのは稽古じゃない。
ただの暴力だ。

痛みでくらむ視界の中、必死で立ち上がろうとするが、
それすらもできないくらい激しく叩かれる。

こんな奴ら、こんな奴らのために・・・・。
意識が遠のき、俺は気を失った。


※※※※


誰かに頭を撫でられている感覚がする。

気持ちいい。

「あなたが一番大事だと思う人のために
力を使いなさい」

お母様の声だ。

そんなこと言われても、俺は愛してもいない兄弟と
俺を疎んじる国王たちが逃げる時間を稼ぐために
聖女の力を使って、魔族と戦うんだよ。

これが俺の運命なんだ。

そう言うと彼女はとても悲しそうな顔をした。

視界が真っ白になる。

目を覚ますと自室のベッドの上だった。

「もういい。早く終わらせてくれ」

白い天井を眺める。


※※※

民衆によって、聖女たちがもてはやされるのと反対に
魔族の侵入に対して、何もできずただ逃げ惑うのみだった
国王や王子達には、国民の怒りの矛先が向けられた。

「情けない、何のために高い税を納めていると思っているんだ」

「この非常時に役立たずとはなんてざまだ」

「民衆を置いて我先にと逃げようとしたらしいぞ」

「なぜ国王は大聖母の寿命が来る前に代わりを立てておかなかったんだ」

「国王は聖女の祈りを軽んじていたらしい、
結界が保たれているのは彼女のおかげだということを忘れ、
森の奥へ追いやり、奴隷のように粗末な暮らしをさせていたらしいよ」

「なんて愚かな王だ。聖女の息子はどうなった」

「彼は聖女たちを率いて魔族に対し勇敢に戦ってくれたらしい」

「それに引き換え、王子たちはなんてざまだ」

膨れ上がった民衆の怒りはいくら国王でも抑えることができなかった。
軽んじられていた聖女の扱いは一変し、
国の英雄として確固たる地位を与えられる。
それに対し、王子達はひどくプライドを傷つけられ、
その怒りの感情の矛先は聖女である俺に向かった。

城に入ってから俺に待っていたのは、
終わることのない地獄だった。

それも明日で終わる。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

王と宰相は妻達黙認の秘密の関係

ミクリ21 (新)
BL
王と宰相は、妻も子もいるけど秘密の関係。 でも妻達は黙認している。 だって妻達は………。

【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜

百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。 最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。 死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。 ※毎日18:30投稿予定

悩ましき騎士団長のひとりごと

きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。 ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。 『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。 ムーンライト様にも掲載しております。 よろしくお願いします。

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

【短編】愛い花屋の子を揶揄っていたら美味しくいただかれたのは俺だった

cyan
BL
花屋のぽやぽやしたほんわか男子を揶揄っていたら翻弄され食べられちゃう話

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...