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入学式の終わり 光のシャワー
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国中を見下ろせるような高い場所にローズは立っていた。
眼下には入学式のために集まった大勢の民衆と学園の生徒たち
教師、さらに人間ではない使い魔や妖精、ジンなどが広場から
学園への道を埋め尽くしていた。
下界にいた時には気づかなかった美しく咲き乱れる花々も
よく見ることができた。
薄桃色の花びらが舞い上がり、ローズの頬にまで飛んでくる。
ローズが鼻に花びらをつけて、アランを振り返ると、アランは
声を上げて笑った。
「ははっ。いいな、よく似合ってる」
ちょっとローズは膨れて、また目下の景色を眺めた。
そこは新しい世界があった。
シャボン玉のトンネルも、虹色の炎の吹雪も見たことがなかった。
絵本で見た光景が現実のものとなって、ローズの目から入ってくる。
目から入力された情報は本物なのに、それについていけなくて、
思わず何度もまばたきをした。
大きく目を開いてもう一度よく今の光景を見る。
ヒュー、ドンっ!
空気を轟かす衝撃音が響いて、思わずローズが頭を抱えてうずくまろうと
すると、横からアランが支えてくれた。
「ありゃ?花火は初めてか?それなら絶対みるといい。大きな音は驚くだろうが
そのうち慣れるさ。ほら、次がくるぞ」
ヒュー、ドンっ!
ローズが恐る恐る目を開いて、空をみると、夜空にはなんと
大輪の花が咲いていた。
しかし、チカチカと点滅するとそれもすぐに枯れ落ちる。
ヒュー、ドンっ!
しかし、再び轟音が轟くと、夜空にさまざまな大輪の花が咲き乱れ、
咲いては散り散りになり、消えていく。
なんて儚い。
なんて美しい花なんだろう。
もう音よりもその一瞬の花の生き様に目を奪われて
ローズは空から目をそらすことなどできなくなっていた。
やがて、楽団は優雅な音楽を奏で始める。
目下では広間に集まった貴族たちがそれぞれのパートナーと共に
優雅に踊りを始めた。
くるくると女性たちが回るたびに広がるドレスは色とりどりの花びらが
開いたようで美しく、広間を彩っていた。
「踊っていただけますか?」
いつの間にかアランがローズに向かい合って手を差し出す。
おちゃらけた先ほどまでの雰囲気はどこへ行ったのか。
アランは王族のように堂々として格好が良く見えた。
「なんてな」
アランはすぐに舌を出して、おちゃらけた雰囲気に戻ってしまった。
アランはローズが差し出した手を無視して、ローズの腰あたりを両手で
つかむと、幼い子どもに対して高い高いをするような姿勢になると、
くるくるとそのまま回り始める。
「どうだ!参ったか!」
アランは笑っていた。
それに釣られていつの間にかローズも笑っていた。
いつもの貼り付けた笑顔ではなく、
心の底からの笑顔だった。
「また、また来年、俺と踊ってくれよ。
今度はちゃんと怪我治して」
楽団の音楽が止み、アランがローズを下ろす。
ローズは頷いた。
「ありがとう。今まで入学式なんてクソだと思ってた。
毎年毎年楽しくなくて、ここで一人で見たたんだ。
でも今年はあんたがいてくれたから楽しかった」
アランはローズに顔を近づける。
でも寸前で止まった。
「悪りぃ、このまま寮の手前まで送るよ。
今日は疲れただろ。
俺もちょっと疲れた。よし、おんぶしてやる」
アランはローズを背中に背負うと、元来た道を
引き返していく。
あったかい。
寂しい。
アランが一歩一歩歩くたびに
その気持ちが一つ一つ積み重なっていく。
このまま長い廊下が終わる頃には
この気持ちが容器から溢れてしまうんじゃないか。
「ついたぞ」
アランがローズに声をかける。
いつの間にか女子寮の前までやってきていた。
ローズは俯く。
声が出ないことをこれほど苦しいと思うのは初めてだ。
「また明日」
アランがローズの頭をくしゃりと撫でた。
せっかく整えられた髪はくしゃくしゃになったが
かけられた言葉にローズはハッとする。
「また明日、会えるさ。今生の別れじゃないんだから。
もう友達なんだから」
ローズはその言葉が嬉しくて頷いた。
初めて、人生で初めて友達ができた。
眼下には入学式のために集まった大勢の民衆と学園の生徒たち
教師、さらに人間ではない使い魔や妖精、ジンなどが広場から
学園への道を埋め尽くしていた。
下界にいた時には気づかなかった美しく咲き乱れる花々も
よく見ることができた。
薄桃色の花びらが舞い上がり、ローズの頬にまで飛んでくる。
ローズが鼻に花びらをつけて、アランを振り返ると、アランは
声を上げて笑った。
「ははっ。いいな、よく似合ってる」
ちょっとローズは膨れて、また目下の景色を眺めた。
そこは新しい世界があった。
シャボン玉のトンネルも、虹色の炎の吹雪も見たことがなかった。
絵本で見た光景が現実のものとなって、ローズの目から入ってくる。
目から入力された情報は本物なのに、それについていけなくて、
思わず何度もまばたきをした。
大きく目を開いてもう一度よく今の光景を見る。
ヒュー、ドンっ!
空気を轟かす衝撃音が響いて、思わずローズが頭を抱えてうずくまろうと
すると、横からアランが支えてくれた。
「ありゃ?花火は初めてか?それなら絶対みるといい。大きな音は驚くだろうが
そのうち慣れるさ。ほら、次がくるぞ」
ヒュー、ドンっ!
ローズが恐る恐る目を開いて、空をみると、夜空にはなんと
大輪の花が咲いていた。
しかし、チカチカと点滅するとそれもすぐに枯れ落ちる。
ヒュー、ドンっ!
しかし、再び轟音が轟くと、夜空にさまざまな大輪の花が咲き乱れ、
咲いては散り散りになり、消えていく。
なんて儚い。
なんて美しい花なんだろう。
もう音よりもその一瞬の花の生き様に目を奪われて
ローズは空から目をそらすことなどできなくなっていた。
やがて、楽団は優雅な音楽を奏で始める。
目下では広間に集まった貴族たちがそれぞれのパートナーと共に
優雅に踊りを始めた。
くるくると女性たちが回るたびに広がるドレスは色とりどりの花びらが
開いたようで美しく、広間を彩っていた。
「踊っていただけますか?」
いつの間にかアランがローズに向かい合って手を差し出す。
おちゃらけた先ほどまでの雰囲気はどこへ行ったのか。
アランは王族のように堂々として格好が良く見えた。
「なんてな」
アランはすぐに舌を出して、おちゃらけた雰囲気に戻ってしまった。
アランはローズが差し出した手を無視して、ローズの腰あたりを両手で
つかむと、幼い子どもに対して高い高いをするような姿勢になると、
くるくるとそのまま回り始める。
「どうだ!参ったか!」
アランは笑っていた。
それに釣られていつの間にかローズも笑っていた。
いつもの貼り付けた笑顔ではなく、
心の底からの笑顔だった。
「また、また来年、俺と踊ってくれよ。
今度はちゃんと怪我治して」
楽団の音楽が止み、アランがローズを下ろす。
ローズは頷いた。
「ありがとう。今まで入学式なんてクソだと思ってた。
毎年毎年楽しくなくて、ここで一人で見たたんだ。
でも今年はあんたがいてくれたから楽しかった」
アランはローズに顔を近づける。
でも寸前で止まった。
「悪りぃ、このまま寮の手前まで送るよ。
今日は疲れただろ。
俺もちょっと疲れた。よし、おんぶしてやる」
アランはローズを背中に背負うと、元来た道を
引き返していく。
あったかい。
寂しい。
アランが一歩一歩歩くたびに
その気持ちが一つ一つ積み重なっていく。
このまま長い廊下が終わる頃には
この気持ちが容器から溢れてしまうんじゃないか。
「ついたぞ」
アランがローズに声をかける。
いつの間にか女子寮の前までやってきていた。
ローズは俯く。
声が出ないことをこれほど苦しいと思うのは初めてだ。
「また明日」
アランがローズの頭をくしゃりと撫でた。
せっかく整えられた髪はくしゃくしゃになったが
かけられた言葉にローズはハッとする。
「また明日、会えるさ。今生の別れじゃないんだから。
もう友達なんだから」
ローズはその言葉が嬉しくて頷いた。
初めて、人生で初めて友達ができた。
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