上 下
7 / 8

入学式の終わり 光のシャワー

しおりを挟む
国中を見下ろせるような高い場所にローズは立っていた。

眼下には入学式のために集まった大勢の民衆と学園の生徒たち
教師、さらに人間ではない使い魔や妖精、ジンなどが広場から
学園への道を埋め尽くしていた。

下界にいた時には気づかなかった美しく咲き乱れる花々も
よく見ることができた。

薄桃色の花びらが舞い上がり、ローズの頬にまで飛んでくる。

ローズが鼻に花びらをつけて、アランを振り返ると、アランは
声を上げて笑った。

「ははっ。いいな、よく似合ってる」

ちょっとローズは膨れて、また目下の景色を眺めた。


そこは新しい世界があった。

シャボン玉のトンネルも、虹色の炎の吹雪も見たことがなかった。

絵本で見た光景が現実のものとなって、ローズの目から入ってくる。

目から入力された情報は本物なのに、それについていけなくて、
思わず何度もまばたきをした。

大きく目を開いてもう一度よく今の光景を見る。


ヒュー、ドンっ!


空気を轟かす衝撃音が響いて、思わずローズが頭を抱えてうずくまろうと
すると、横からアランが支えてくれた。

「ありゃ?花火は初めてか?それなら絶対みるといい。大きな音は驚くだろうが
そのうち慣れるさ。ほら、次がくるぞ」


ヒュー、ドンっ!


ローズが恐る恐る目を開いて、空をみると、夜空にはなんと
大輪の花が咲いていた。


しかし、チカチカと点滅するとそれもすぐに枯れ落ちる。


ヒュー、ドンっ!


しかし、再び轟音が轟くと、夜空にさまざまな大輪の花が咲き乱れ、
咲いては散り散りになり、消えていく。


なんて儚い。
なんて美しい花なんだろう。


もう音よりもその一瞬の花の生き様に目を奪われて
ローズは空から目をそらすことなどできなくなっていた。


やがて、楽団は優雅な音楽を奏で始める。

目下では広間に集まった貴族たちがそれぞれのパートナーと共に
優雅に踊りを始めた。

くるくると女性たちが回るたびに広がるドレスは色とりどりの花びらが
開いたようで美しく、広間を彩っていた。

「踊っていただけますか?」

いつの間にかアランがローズに向かい合って手を差し出す。

おちゃらけた先ほどまでの雰囲気はどこへ行ったのか。
アランは王族のように堂々として格好が良く見えた。

「なんてな」

アランはすぐに舌を出して、おちゃらけた雰囲気に戻ってしまった。

アランはローズが差し出した手を無視して、ローズの腰あたりを両手で
つかむと、幼い子どもに対して高い高いをするような姿勢になると、
くるくるとそのまま回り始める。

「どうだ!参ったか!」

アランは笑っていた。
それに釣られていつの間にかローズも笑っていた。

いつもの貼り付けた笑顔ではなく、
心の底からの笑顔だった。





「また、また来年、俺と踊ってくれよ。
今度はちゃんと怪我治して」

楽団の音楽が止み、アランがローズを下ろす。

ローズは頷いた。

「ありがとう。今まで入学式なんてクソだと思ってた。
毎年毎年楽しくなくて、ここで一人で見たたんだ。
でも今年はあんたがいてくれたから楽しかった」

アランはローズに顔を近づける。
でも寸前で止まった。

「悪りぃ、このまま寮の手前まで送るよ。
今日は疲れただろ。
俺もちょっと疲れた。よし、おんぶしてやる」

アランはローズを背中に背負うと、元来た道を
引き返していく。

あったかい。
寂しい。

アランが一歩一歩歩くたびに
その気持ちが一つ一つ積み重なっていく。

このまま長い廊下が終わる頃には
この気持ちが容器から溢れてしまうんじゃないか。




「ついたぞ」



アランがローズに声をかける。

いつの間にか女子寮の前までやってきていた。

ローズは俯く。
声が出ないことをこれほど苦しいと思うのは初めてだ。

「また明日」

アランがローズの頭をくしゃりと撫でた。

せっかく整えられた髪はくしゃくしゃになったが
かけられた言葉にローズはハッとする。


「また明日、会えるさ。今生の別れじゃないんだから。
もう友達なんだから」

ローズはその言葉が嬉しくて頷いた。

初めて、人生で初めて友達ができた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

18禁の乙女ゲームの悪役令嬢~恋愛フラグより抱かれるフラグが上ってどう言うことなの?

KUMA
恋愛
※最初王子とのHAPPY ENDの予定でしたが義兄弟達との快楽ENDに変更しました。※ ある日前世の記憶があるローズマリアはここが異世界ではない姉の中毒症とも言える2次元乙女ゲームの世界だと気付く。 しかも18禁のかなり高い確率で、エッチなフラグがたつと姉から嫌って程聞かされていた。 でもローズマリアは安心していた、攻略キャラクターは皆ヒロインのマリアンヌと肉体関係になると。 ローズマリアは婚約解消しようと…だが前世のローズマリアは天然タラシ(本人知らない) 攻略キャラは婚約者の王子 宰相の息子(執事に変装) 義兄(再婚)二人の騎士 実の弟(新ルートキャラ) 姉は乙女ゲーム(18禁)そしてローズマリアはBL(18禁)が好き過ぎる腐女子の処女男の子と恋愛よりBLのエッチを見るのが好きだから。 正直あんまり覚えていない、ローズマリアは婚約者意外の攻略キャラは知らずそこまで警戒しずに接した所新ルートを発掘!(婚約の顔はかろうじて) 悪役令嬢淫乱ルートになるとは知らない…

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

処理中です...