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カルテ#13 命がけの鬼ごっこ

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「だいじょうぶかい、ルキ」

ひとまず牢屋を抜けた私たちは、しかしまだ王宮を脱出できずにいた。
この無駄に広い王宮は出口までの距離が長すぎる。

「…桜先生、ごめん、オイラ、あんな奴だけど、
あんな最後、うっ」

顔を真っ青にして震えるルキ。
彼は普段は偉そうに振舞っているが、本当は気が小さく、優しすぎる。

王宮に勤めるなら処刑や拷問など見慣れているかと思ったが
そうでもないらしい。

「君が気に病むことじゃない。彼にあの最期を導いたのは私だ。
君に召喚を指示したのは全部私だ。君は何も責任を感じることはないんだよ」

「違う、オイラがオイラがあんたをこんなことに巻き込んだんだ。
桜先生は普通にちゃんとしたお医者様であっちで平穏に暮らしてたのに、
オイラが召喚に失敗してあんたをこんなところに無理矢理召喚したから。
あんたは牢屋に閉じ込められて、それにこんなひどいことまでさせた。
ごめん。ごめんなさい」

ルキの声はすでに涙声になっていた。
私は驚いた。ルキがこんなに私に責任を感じているとは思わなかった。

「本当に君のせいじゃないんだ。多分君が召喚しなければ
私はあのまま死んでいたと思うよ。だから君は私の命の恩人だ」

事実そんなことは私にはわからなかった。
マスオに殴られて生死の境をさまよった時、
確かに私はあのまま死んでいてもおかしくはなかった。

どうしてこんな異世界に転生?というものをしたのかわからないが、
この嘘でルキの気持ちが晴れるなら事実などどうでもいい。

「…本当に、嘘じゃない?」
「ああ、もちろんだ。私は君に嘘などつかないよ」
「ありがとう。オイラ頑張るよ。桜先生を元の世界に返す」
「こちらこそありがとう。でも気負わなくて大丈夫だ。
それに君も辛かったら一緒にこっちで暮らそう。
何、今更一人二人子どもが増えたくらいでどうってことない」

私は自分で言って自分で驚いていた。
まさか自分が他人に対してこんなことを言うとは思っていなかった。
しかし、言った後でそれもいいなと思った。
彼はおっちょこちょいだが、とてもやさしい子だ。
私の子どもたちとも上手くやれるだろう。

「ありがとう。桜先生は優しいな。うれしい。そんなこと言われたのは初めてだ」
「おや、私は本気だよ」
「…そうだなぁ。もう召喚はいいやってなったらそっちに行って暮らしたい。
色々おいしいものとかあるんだろ。チョコレートとか、アイスクリームとか」
「君は物知りだね。そんなことどこで知ったんだい?」
「召喚した人間から聞いた」
「そういえば、君が召喚した勇者たちは…。」

そこで口をつぐんだ。
そこには壁があった。
いや違う。
一番会ってはいけない人物がいた。

そう、騎士団長だ。

「お前たち…」
「…ひぃっ!」
「走れ!ルキ!」

騎士団長が何か言いかける前に私はルキを促して走り出した。
私たちの命がけの鬼ごっこはまだ終わらないらしい。

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