13 / 28
カルテ#13 命がけの鬼ごっこ
しおりを挟む「だいじょうぶかい、ルキ」
ひとまず牢屋を抜けた私たちは、しかしまだ王宮を脱出できずにいた。
この無駄に広い王宮は出口までの距離が長すぎる。
「…桜先生、ごめん、オイラ、あんな奴だけど、
あんな最後、うっ」
顔を真っ青にして震えるルキ。
彼は普段は偉そうに振舞っているが、本当は気が小さく、優しすぎる。
王宮に勤めるなら処刑や拷問など見慣れているかと思ったが
そうでもないらしい。
「君が気に病むことじゃない。彼にあの最期を導いたのは私だ。
君に召喚を指示したのは全部私だ。君は何も責任を感じることはないんだよ」
「違う、オイラがオイラがあんたをこんなことに巻き込んだんだ。
桜先生は普通にちゃんとしたお医者様であっちで平穏に暮らしてたのに、
オイラが召喚に失敗してあんたをこんなところに無理矢理召喚したから。
あんたは牢屋に閉じ込められて、それにこんなひどいことまでさせた。
ごめん。ごめんなさい」
ルキの声はすでに涙声になっていた。
私は驚いた。ルキがこんなに私に責任を感じているとは思わなかった。
「本当に君のせいじゃないんだ。多分君が召喚しなければ
私はあのまま死んでいたと思うよ。だから君は私の命の恩人だ」
事実そんなことは私にはわからなかった。
マスオに殴られて生死の境をさまよった時、
確かに私はあのまま死んでいてもおかしくはなかった。
どうしてこんな異世界に転生?というものをしたのかわからないが、
この嘘でルキの気持ちが晴れるなら事実などどうでもいい。
「…本当に、嘘じゃない?」
「ああ、もちろんだ。私は君に嘘などつかないよ」
「ありがとう。オイラ頑張るよ。桜先生を元の世界に返す」
「こちらこそありがとう。でも気負わなくて大丈夫だ。
それに君も辛かったら一緒にこっちで暮らそう。
何、今更一人二人子どもが増えたくらいでどうってことない」
私は自分で言って自分で驚いていた。
まさか自分が他人に対してこんなことを言うとは思っていなかった。
しかし、言った後でそれもいいなと思った。
彼はおっちょこちょいだが、とてもやさしい子だ。
私の子どもたちとも上手くやれるだろう。
「ありがとう。桜先生は優しいな。うれしい。そんなこと言われたのは初めてだ」
「おや、私は本気だよ」
「…そうだなぁ。もう召喚はいいやってなったらそっちに行って暮らしたい。
色々おいしいものとかあるんだろ。チョコレートとか、アイスクリームとか」
「君は物知りだね。そんなことどこで知ったんだい?」
「召喚した人間から聞いた」
「そういえば、君が召喚した勇者たちは…。」
そこで口をつぐんだ。
そこには壁があった。
いや違う。
一番会ってはいけない人物がいた。
そう、騎士団長だ。
「お前たち…」
「…ひぃっ!」
「走れ!ルキ!」
騎士団長が何か言いかける前に私はルキを促して走り出した。
私たちの命がけの鬼ごっこはまだ終わらないらしい。
0
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる