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カルテ#6 手駒を確実に増やしていくー同情と共感で堕としていく
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「ふわぁ、あったかい~」
濡れている服を着替えた召喚士は、人心地ついたように
牢屋の床にくたぁと寝ころんだ。
そのままふにゃふにゃと寝そうになっている召喚士は
何かに気づいたようにガバリと起きて、
牢屋の隅で手帳を書いている私のもとにすすすっと近づいた。
「にしてもありがとな。お前のおかげでオイラ服着替えることできた、
そうだ、まだ聞いてなかったな、
名前、なんていうの?」
「さくら」
「さくらかぁ。確かそっちの世界に咲く花だろ。見たことないけどきれーなんだってなぁ。
オイラいつかそっちの世界にも行ってみたいな。
そういえばさっき衛兵に言ってたこと本当なのか?『千里眼を持っている』みたいな…?」
「…あぁ、あれは嘘だよ。」
「…え、でもあの衛兵のこと何でも知ってただろ。
本当にあの衛兵の心を覗いているみたいだったぞ。
なんでそんなに衛兵のこと知ってたんだ?」
「私はただあの衛兵を観察して推理してただけだよ。そして『お前のことを何でも知っているぞ』
と思いこませただけだ。そんなに難しいことじゃない。」
そう召喚士に言いながら、先ほどの衛兵とのやり取りを思い出していた。
※※※衛兵とのやりとり※※※
「君は今の自分の待遇に不満を持っている、そうだね」
「何をいきなり…」
「それはそうだよね。
日がな一日ずっと私のような取るに足らない者達の監視を行う、
とても退屈な仕事だ。そのうえ給与も少ない。
前はそうではなかった。
君は国王軍として戦地に赴き敵を討伐する優秀な隊長だった。そうだね」
「…!なぜ、それを…」
「君は君の優秀さをねたむ部下に後ろから足を撃たれて負傷。
その後は否応なくこの任に命じられた。
家族を養うために、恥を忍んでこの下級の仕事を受けたのに、
信頼していた妻はあなたを見限り別の男へと」
「…、くっ、お前は、何者だ?」
「私が何の力もないただの男だと思ったのかい?
ただの人間が魔王に見初められ、嫁になるなどありえないだろう?
そうは思わなかったかい?
そうだよ。君が思った通りだ。私は特別な力を持っている。
相手のことを何でも見通すことができる千里眼を持っているんだよ」
「俺のことを何でも知っているというなら、俺の…」
「ええ、知っているよ。
君は常に苛立ちを感じながら仕事をしている。それは当たり前だ。
上手くいかなかった。君は何も悪くないのに、君のことを理解しない周りのせいで
何もかもがうまくいかなかった。」
「…ああ、そうだ」
「だから君がやっている、罪人へのいたぶり、暴行も、罪人をそそのかして牢内で殺し合いをさせるのも、
仕方がないことだ。そうしないと、はけ口がなければ君自身が壊れてしまう。
でも私は君を軽蔑したり、非難したりはしないよ。決してね。
私は君の味方だ。
自分が望まないことをさせられているんだから当たり前だ。君は被害者だ。
私だって君と同じ立場だったらきっとそうするだろうね。
…でも騎士団長が職務中のあなたの行いを知ったらどう思うだろうか?
彼は冷徹無慈悲で規律を何よりも重んじる騎士団長だからね。
君の行いを決して許しはしないだろうね。
免職どころか、悪ければ処刑されるかもしれない」
「俺は…」
「大丈夫だ。私は決して他人の秘密を言いふらしたりはしない。約束するよ。
それに騎士団長ほどの忙しい人が
私たちがいる牢屋の様子をいちいち確認しに来ることもないだろうね、
そうだろう?」
「…ああ、その通りだ」
「だから、何もしなければ秘密は決して広まらない。当たり前だ。
ああ、…でも私としたことが失敗してしまった。
ここに一人だけ騎士団長とつながりを持つ者がいる」
隣で寒くて縮こまっている召喚士に目線をやる。
彼は困惑しながらも、口を出さないほうがいいと思ったのか静かに黙っている。
「彼は口は軽いし、…それに何より騎士団長のお手付きだ。
彼については私にはどうしようもできないな。
もしかしたら、彼は君が見張りを外れた時、
騎士団長に助けを求めるかもしれない。
そしたら君が牢屋の監視になってから行ってきた
”趣味”が騎士団長にばれるかもしれないね」
「オイラそんなことしない」と言いかけた召喚士の口を素早く桜はふさいだ。
「…俺は、どうすればいいんだ?どうすればばれずに済む?
お願いだ、協力してくれ」
私にすがるような目を向ける衛兵を見下ろした。
もう、彼は私に落ちている。
「私は君の味方だ。大丈夫。
私は君に死んでほしいわけではない。
彼がうっかり余計なことをしゃべりそうになったら口止めしよう。
それにこの能力を使えば、
君が出世するために手助けすることもできるよ。
そうだね、でも代わりに君にしてほしいことがあるんだ。
小さなお願いだ。君にとっては造作もないことだよ。
まぁどうするかは君自身の選択だけど、私はどちらでも構わない。
どうせ、魔王様が迎えに来てくれるまでの暇つぶしだからね…」
私はにこりと衛兵に微笑んだ。
※※※衛兵とのやりとり終※※※
濡れている服を着替えた召喚士は、人心地ついたように
牢屋の床にくたぁと寝ころんだ。
そのままふにゃふにゃと寝そうになっている召喚士は
何かに気づいたようにガバリと起きて、
牢屋の隅で手帳を書いている私のもとにすすすっと近づいた。
「にしてもありがとな。お前のおかげでオイラ服着替えることできた、
そうだ、まだ聞いてなかったな、
名前、なんていうの?」
「さくら」
「さくらかぁ。確かそっちの世界に咲く花だろ。見たことないけどきれーなんだってなぁ。
オイラいつかそっちの世界にも行ってみたいな。
そういえばさっき衛兵に言ってたこと本当なのか?『千里眼を持っている』みたいな…?」
「…あぁ、あれは嘘だよ。」
「…え、でもあの衛兵のこと何でも知ってただろ。
本当にあの衛兵の心を覗いているみたいだったぞ。
なんでそんなに衛兵のこと知ってたんだ?」
「私はただあの衛兵を観察して推理してただけだよ。そして『お前のことを何でも知っているぞ』
と思いこませただけだ。そんなに難しいことじゃない。」
そう召喚士に言いながら、先ほどの衛兵とのやり取りを思い出していた。
※※※衛兵とのやりとり※※※
「君は今の自分の待遇に不満を持っている、そうだね」
「何をいきなり…」
「それはそうだよね。
日がな一日ずっと私のような取るに足らない者達の監視を行う、
とても退屈な仕事だ。そのうえ給与も少ない。
前はそうではなかった。
君は国王軍として戦地に赴き敵を討伐する優秀な隊長だった。そうだね」
「…!なぜ、それを…」
「君は君の優秀さをねたむ部下に後ろから足を撃たれて負傷。
その後は否応なくこの任に命じられた。
家族を養うために、恥を忍んでこの下級の仕事を受けたのに、
信頼していた妻はあなたを見限り別の男へと」
「…、くっ、お前は、何者だ?」
「私が何の力もないただの男だと思ったのかい?
ただの人間が魔王に見初められ、嫁になるなどありえないだろう?
そうは思わなかったかい?
そうだよ。君が思った通りだ。私は特別な力を持っている。
相手のことを何でも見通すことができる千里眼を持っているんだよ」
「俺のことを何でも知っているというなら、俺の…」
「ええ、知っているよ。
君は常に苛立ちを感じながら仕事をしている。それは当たり前だ。
上手くいかなかった。君は何も悪くないのに、君のことを理解しない周りのせいで
何もかもがうまくいかなかった。」
「…ああ、そうだ」
「だから君がやっている、罪人へのいたぶり、暴行も、罪人をそそのかして牢内で殺し合いをさせるのも、
仕方がないことだ。そうしないと、はけ口がなければ君自身が壊れてしまう。
でも私は君を軽蔑したり、非難したりはしないよ。決してね。
私は君の味方だ。
自分が望まないことをさせられているんだから当たり前だ。君は被害者だ。
私だって君と同じ立場だったらきっとそうするだろうね。
…でも騎士団長が職務中のあなたの行いを知ったらどう思うだろうか?
彼は冷徹無慈悲で規律を何よりも重んじる騎士団長だからね。
君の行いを決して許しはしないだろうね。
免職どころか、悪ければ処刑されるかもしれない」
「俺は…」
「大丈夫だ。私は決して他人の秘密を言いふらしたりはしない。約束するよ。
それに騎士団長ほどの忙しい人が
私たちがいる牢屋の様子をいちいち確認しに来ることもないだろうね、
そうだろう?」
「…ああ、その通りだ」
「だから、何もしなければ秘密は決して広まらない。当たり前だ。
ああ、…でも私としたことが失敗してしまった。
ここに一人だけ騎士団長とつながりを持つ者がいる」
隣で寒くて縮こまっている召喚士に目線をやる。
彼は困惑しながらも、口を出さないほうがいいと思ったのか静かに黙っている。
「彼は口は軽いし、…それに何より騎士団長のお手付きだ。
彼については私にはどうしようもできないな。
もしかしたら、彼は君が見張りを外れた時、
騎士団長に助けを求めるかもしれない。
そしたら君が牢屋の監視になってから行ってきた
”趣味”が騎士団長にばれるかもしれないね」
「オイラそんなことしない」と言いかけた召喚士の口を素早く桜はふさいだ。
「…俺は、どうすればいいんだ?どうすればばれずに済む?
お願いだ、協力してくれ」
私にすがるような目を向ける衛兵を見下ろした。
もう、彼は私に落ちている。
「私は君の味方だ。大丈夫。
私は君に死んでほしいわけではない。
彼がうっかり余計なことをしゃべりそうになったら口止めしよう。
それにこの能力を使えば、
君が出世するために手助けすることもできるよ。
そうだね、でも代わりに君にしてほしいことがあるんだ。
小さなお願いだ。君にとっては造作もないことだよ。
まぁどうするかは君自身の選択だけど、私はどちらでも構わない。
どうせ、魔王様が迎えに来てくれるまでの暇つぶしだからね…」
私はにこりと衛兵に微笑んだ。
※※※衛兵とのやりとり終※※※
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