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事実と憶測のすりあわせのお時間です。 10

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あまりにもアルゴスくんとマルケスくんが全開の笑顔でフンフン鼻息荒くしているせいか、大人たちの顔には困惑の色が目立っていた。
だけど、彼らの困惑をよそにフリストさんが私に向けてニッコリと微笑んで合図をくれた。
あ、動いてくれるってことかな??
「アルゴス様。マルケス様。じいに、どうしてそんなにニコニコなのか教えてくれますかな??」
「ふぅじい、知りたい??」
「フゥおじいちゃん、ほんとに??」
「はい。教えてくれすかな?」
やはり、フリストさんのあの微笑みは「自分に任せておくれ」だったようで、子供たちの『大人になにかを教えたい欲』をうまくくすぐる言葉選びをしていた。
や、ほんとにうまいな~。
なんでこんなに上手なのに、ランくんとリーンくんのそれはお世辞にも素晴らしいとは言えない状態になってるんだろ。
あ、そうか。教育と政治の板挟みというか、力の入れ具合の比重が違うんだ。
一人納得していれば、ドヤ顔というのか、大人に頼られて嬉しいです!!とデカデカと顔に書いて、アルゴスくんとマルケスくんがに~んまりと笑った。
「「んふ~♪」」
「あのな??俺、最初、ラムセスが『イールとイースは俺たちの思いを跳ね返してるだけ』ってたけど、ほんとに判らんちんだったんだ」
「そうなの。言ってることは判るんだけど、どうして跳ね返るのかな??とかっていう、意味が判らなかったの」
あ~。やっぱり、そこだったかぁ。
子供たちは言い換えるなら、「単語は判るけれど、その意味や使い方が判らない」、言うなら学習できていない状態でなにも知らずに方程式を預けられた気分だったんだ。
子供たちはきちんと説明されないままでこの問題を解け!!と詰め寄られているのに似ている感覚なのかも知れない。
「「だけどね!?」」
「やっぱりママ、すごいんだ!!」
「そう!!僕たち、判らんちんが判っちゃったもんね~♪に変身したんだ!!」
「っ!!」
フリストさんは息を飲むふりをしてごまかしていたが、出遅れた方々はあちらこちらで咳払いをしたり、素直に声を出したりしていた。アルゴスくんとマルケスくんが顔を見合わせると、小さく頷き、再び口を開いた。
いや、すごい!!うちの子、ほんとにすごくない!?
プレゼンなんて教えてないのに、この場にいる皆さんの興味をガッチリ握って堂々と楽しそうに話してる!!
当たり前だけど、血は繋がってないけど、それでもこうして私の立ち振舞いを吸収してくれてる。
「んとね??イースとイールはあっち行け!!なんて思ってないのに怖いよー怖いよー!!って思って近づけばダメよってなることが判ったの」 
「で、なんで判ったの??ったらな??ママの実験なんだ」
「ミーナ様の??」
「「はい!!そうです!!」」
片眉だけを上げたフリストさんに臆することなくニッコリと笑った子供たちは続けてくれる。
「そう!!俺は全力でバチンったろ??でもマルケスはゆ~っくり。これがイールとイースに起こってることなんだ」
「なんと!?」
そう!!それ!!
それが言いたかったの!!判ってくれてよかった。
人から聞いて理解したつもりになるのではなく、物事を知って学んで理解してはじめて身に付くものなんだもの。
フリストさんの大袈裟な身振り手振りを含めた驚きに気を良くしたのか、アルゴスくんもマルケスくんも顔を二人で見合わせて、照れたようにへへっと笑っている。
「それでな??ボール、あるじゃん??」
え!?あるの!?ボール!?
ボールがあるってことは、ゴムもあるってこと!?
いやいやいや、待つんだ。
もしかしたら、ゴムボールでなく、金属で作った砲丸のようなものかもしれないし、はたまたそれに布を巻いたものかもしれないし、私の知らない不思議素材から出来ているかも……。
異世界に来たとは言っても、言葉はもちろん、衣食住、おまけに職までしっかり充実してるから、小物なんかは考えてなかったけど、あったりするのかな??
ゴム製品。
あったら良いな~。
って、違う!!今はそれじゃない!!アルゴスくんとマルケスくんたちのお話だ!!
アルゴスくんの言葉から脱線した思考に走ったことを恥じて、周りを見れば、皆さん、自由に思考の波を漂よっているのが判るリアクションをしていた。
……セーフ!!
「で、ボールを強く壁にぶつけるとガーン!!ってぶつかって痛いじゃん??だげど、へなちょこボールだとそのまんま落ちるじゃん??」
「そうなの。ガーン!!なボールがラムセスとアルゴスの実験の結果で、へなちょこボールが僕の実験ってこと」
「なるほど!!」
砲丸!!砲丸の方でした~。残念。
ボールといわれるものはあるんだものね。後でこの世界の物を見せてもらいながら、ゴムは存在も含めてじっくり探していけたら良いな~。
でも、本当に子供たちの成長はすごい。
他人に説明できるということは、自分が理解していないとできないものだ。それをこうやって例え話までつけて出来ちゃうのは、本当に理解しているという立派な事実だ。
「「これが、イールとイースの思いを跳ね返す、かなって思いました」」
二人はおそらく達成感からだろう高揚してピンクに頬を染めて、「誉めて誉めて!!あってるよね??違う??」と私を見上げてきた。「良くできました!!」
「はい。本当に良くできていますですじゃ!!お勉強、大成功ですな!!分かりやすかったですぞ!!」
フリストさんの言葉に皆の暖かい拍手が続いて、子供たちはニコニコが止まらない。
「はい。以上、私の憶測とラムセスの実験結果、さらにアルゴス様とマルケス様の解説により、オーシャンのイール様とイース様は対峙する者の感情を跳ね返す、という結論を付けたいと思います」
「「思います!!」」
今度は子供たちが私の言葉に続いて頭を下げれば、会場の拍手はますます大きくなっていった。
もう!!アルゴスくん!!マルケスくん!!二人の成長っプリがママはとっても嬉しいです!!
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