上 下
97 / 269

もふもふパニック 6

しおりを挟む
 用意してもらったシートの上に、ひとつひとつメニューを説明しながら並べていく。
「サンドイッチはパンに色んな具を挟んだ食べ物で、これは茹でた卵を油と卵と酢と塩で作ったマヨネーズソースで和えた物、こっちは茹でたお魚をマヨネーズで和えた物、これがお野菜を挟んだものだよ」
「野菜、か~。でも、ママのお料理、野菜でも旨いもんな~」
「コロンコロンして可愛いね~」
 こちらのパンはバゲット風な生地もバターロール風な生地も食パン風な生地も成形は全て丸だ。
 パンの成形には携わらなかった為、サンドイッチは半円形で、いわゆるバーガーにするバンズで、コンビニなどで見慣れている食パンで作られた三角では無い。
 それでも、あちらでの形を知らないマルケス君には「可愛い」と大好評なのが嬉しい。
 もっとも、アルゴス君は野菜の部分にひっかかっているようで、マルケス君に「可愛いからこれも絶対美味しいよ!!」と言われて複雑そうに頷いていた。
 実は昨日、クリームコロッケやミネストローネを作った時に今日のお昼の計画を打ち明けて相談し、一番手間取りそうなマヨネーズとケーキを前持って作成していた。
 魔法があるとは言え、非加熱でのマヨネーズを作って、卵からくる菌により食中毒になってはいけないと、湯煎にかけながら作った。
 卵に雑菌が付いていたとしても50から60度の熱で3分ほど撹拌かくはんすることにより死活化し、中毒にはなりづらい上に、空気を含むことで口当たりも良くなり良いこと尽くめだと母達に習った覚えがあるのだ。
 あー、と、たしか、何故、海外でたまごかけご飯が嫌悪されるのか?で説明してもらった時だったか。
  生で食べたいからこそ衛生基準を作り、徹底した日本以外では食材を生で食べるのは危険だと思った方が無難だと言われて「なんで?」と問い返した私に母は子供だからと侮らずに説明してくれた。
 鶏は排泄も卵を産むのも出口は一緒だから、どうしても菌が付着するリスクが上がること。
 又、そもそも生で食べるという習慣が少ない為、外国では非加熱用で生産されている物は少ない事、売買されている際の衛生状態も確かめなければならない事、寄生虫の心配もしなければならない事、など、子供向けではないよね??な、それでも一人で生きるために大切な事を教えてくれた。
 それはともかく、作成中のマヨネーズソースに対するルッツォさんとジルさんの食いつきは凄まじく、「いますぐ使いたい」との二人を「今日のお昼までは内緒で」を押し通すのは中々苦労した。
……と、私の世界に入ってたね。
 まぁるいお目々を輝かせて見つめる子供達に小さく頷いて、料理の説明に戻る。
「スープはキャベツとニンジンと玉葱とお肉をちっちゃく切って、牛乳で煮込んだミルクスープ」
 保温魔法をかけてあるという陶器の瓶に入れて持って来たので、あっつあつなそれからはミルクの優しい香りがのぼっている。
 そして、子供達が喜ぶだろうとケーキをバスケットから取り出す。
「デザートはこれ」
 「じゃじゃ~ん」と声に出しながら、切り分け前のホールケーキを見せるとちびもふブラザーズは飛び上がって喜んでくれる。
「やった~!!すっごいお月様だ~!!」
「すごいすご~い!!なんでこんなにおっきいの~?」
 きらっきらの笑顔の二人に答える。子供達に水を注すまいと思っているのか、始祖様は笑顔のままで口をつぐんでいる。
「これはね?ケーキって言って、卵と砂糖と粉を混ぜてから、型に入れて皆の分を一気に焼いちゃうの。だから、一人で一個じゃなくて切り分けて皆で食べる為に大きいんだよ」
「「お~」」
 感嘆の声を上げた子供達はコクコクと激しく首を縦に振った。
「切るとお月様じゃなくなるな」
「でも、すっごい綺麗なオレンジ~。可愛いね~」
 マルケス君はさすが鋭いな~。
 実はこれは人参(にんじん)をたっぷり入れたキャロットケーキ。
 だから、人参の色で鮮やかなオレンジをしているのだ。
 野菜が苦手だと言うアルゴスくんが美味しく食べられるように人参の癖を消す為、マーマレードを加えて甘味とし、砂糖の量は減らしている。
「うふふ。じゃあ、順番に食べてみよ?」
「「はい!!」」
「いや、すげぇな。こんなに沢山、大変だったろ?」
「ソースとケーキは前日に作り置きしていましたから思う程ではありませ……ケーキは一番最後!!」
 文字通り、ぴょんと飛び上がった毛玉ちゃん達は、ささっと始祖様の背中に隠れて頭だけを出した。
「違うぞ!?くんくんしただけだ」
「そうだよ!!このまんまでどうやって食べようか思っただけで、ちょびっとかじりたいな~とか思ってないよ?」
「そう!!つまみ食いなんて考えてないぞ」
 慌てながら告白している子供達に微笑む。
「慌てなくてもアルゴス君とマルケス君が獣還りの最中は、お話を聞く時やご飯の時は抱っこしてあげるよ?」
「お膝で?」
「あ~んしてくれる?」
「もちろん!!」
「「良いかも~」」
 顔を見合わせた毛玉ちゃん達は目を細めてくふふと笑っている。
「「ママ!!抱っこ~」」
 尻尾を千切れんばかりに振って駆けてくる子供達をきゅっと抱きしめ、便乗して被さってきた始祖様の鼻はきゅっと摘んでおいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...