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第三一話 幸せの聖花祭

第三一話 四

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 ツクシと子ども達が手紙を書き終え、おえかきをし始める様を慈乃が微笑ましく思って眺めていると、オーナメントや手紙の入っていた袋や箱を片付けたウタセが「そういえば」と慈乃を振り返った。
「シノって編み物できる?」
「あまりやったことはないですね。でも、手芸は好きですよ」
 慈乃の返答を聞くなり、ウタセはきらりと目を輝かせた。
「好きなら問題ないよ!」
 慈乃が目を瞬かせていると、「ついてきて。手伝ってほしいことがあるんだ」とウタセが食堂の出口へと向かう。慈乃は訳がわからないまま、とりあえずウタセの後をついていくことにした。
 向かった先は食堂の目の前の部屋、つまり乳児の部屋だった。そこには子ども達と一緒にスギナがいて、彼は部屋の隅に置かれた脚のないソファーに座って編み物をしていた。
「お疲れ様、スギナ。編み物の手伝いに来たよ」
 スギナは一旦手を止め、ウタセを見て、次いでウタセの半歩後ろにいる慈乃に視線をやった。
「シノも? 編み物なんてできたか?」
「あんまりやったことはないらしいんだけど、手芸は好きだって言うから大丈夫じゃないかな。僕が責任もって教えるしね」
「なら助かる。正直ひとりだけだときつい」
「あの……、スギナくんは何を?」
 ウタセに誘われるままにやってきた慈乃には話が見えないのだが、ウタセとスギナの間ではぽんぽんと話が進んでいく。戸惑いつつ慈乃が訊くと、スギナは呆れた視線をウタセに送った。
「せめて話してから連れてきてやれよ。シノが戸惑ってる」
「あ、ごめんね。ちょっと気が急いてたみたい」
 ウタセが言うことには聖花祭の贈り物を受け取る際に靴下が必要になるらしいのだが、今年は古い靴下が多いという話になり新しく編み直しているとのことだった。
「これが意外に数が多くてさ。オレだけだと手が回んねぇんだよ」
「編み物できるひとも限られてるしね。っていうわけでシノにも手伝ってほしいんだ」
「私にできるでしょうか……」
 編み物初心者なのに靴下を編むというのはなかなかに難しそうだった。慈乃が自信無げに呟くと、ウタセが「大丈夫だよ」と笑顔で言い切った。
「さっきも言ったけど僕が責任もって教えるから」
「ウタは教えるの上手いし、シノも器用だからなんとかなるんじゃねぇの」
 確かに言の葉語の勉強然り、ウタセはものを教えるのが上手い。その点は信用できた。
 ただでさえ大変そうなのに足を引っ張りはしないか心配ではあったが、もしも力になれそうなら手伝いたいと思った慈乃はおずおずと頷いた。
「わかりました。……頑張ります」
「そんな肩肘張らなくても大丈夫だよ」
「ま、よろしくな」
 そうして編み物づくりが始まった。
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