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第三〇話 過去の面影

第三〇話 六

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 ミトドリとウタセは顔を見合わせた。最初に口を開いたのはミトドリの方だった。
「もう一〇年以上も前になるんだね。わたしが一三歳の年に両親が亡くなってね。学び家はそれまで両親が経営していたんだけれど、当然子どものわたしとニアだけでは後を引き継ぐことができなかった。それで一度、学び家は閉めることにしたんだよ」
 ミトドリは穏やかな口調で語る。
「両親や友人との思い出もある学び家は残したかったけれど、経営を再開するかは正直なところ迷っていたんだ。立て直せるか自信がなかったとも言えるね。そんなとき、ウタに出会ったんだ」
 ウタセはひとつ頷くと、ミトドリから話を引き継いだ。
「僕もこの世界に迷い込んだばかりで、右も左も分からなかった。ミト兄とニア姉には偶然出会ったんだけど、フロリアの助言もあって、僕はミト兄達と暮らすことになったんだよ」
「それで気づかされたんだ。保護者のいない子ども達に居場所を作ること、笑顔を守ることの尊さを。そうして学び家を再興することに決めたんだよ」
「僕も花守になって、学び家の再興に本格的に力を入れ始めたよ。そこから一年かけて学び家を再開させたんだ。ツクシとスギナはその時からいる初期メンバーなんだよ。だからかな。学び家に対する思い入れが深くて、今や職員として学び家を支えてくれてる。嬉しいことだよね」
「そうだったのですね……」
 学び家にそんな経緯があったことを初めて知った慈乃は目を丸くしていた。学び家に来てそれなりに経ったが、それでも慈乃のまだ知らない学び家の一面というものはあるものだ。
 話を聞き終えて改めてアルバムに視線を戻す。写真に添えられた付箋に記された日付は一〇年前のものだった。
言われてみれば、ニアとウタセは現在も面影が残る真っ直ぐな笑顔をしているのに対して、今の慈乃とそう年の変わらなそうなミトドリの微笑には緊張が滲んでいるような気がした。
 これから院長として責任ある立場になるのだからそれはそうだろう。慈乃にはとても真似できそうにない。
 慈乃は静かにページを繰った。
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