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第三〇話 過去の面影
第三〇話 五
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各々作業を再開する中、慈乃は新しい一枚を写真の山からとった。
今度の写真も慈乃が撮った覚えのないものだったが、写真の中の景色には見覚えがあった。
(これを撮ったのはガザくんね)
トゥナ、ソラル、アヅ、レヤ、フィオの五人が笑顔で走り回っている様子を収めたそれは、見ているだけで明るい気持ちになる。ガザから見た世界はこんなにも眩しいものなのかと、慈乃は彼らしい一枚に微笑んだ。
コメントとイラストを写真に添えることを繰り返していると時間はあっという間に過ぎ去っていった。数十枚の写真全てに付箋が貼られ終わったので、次はアルバムに貼り付けていく作業が待っている。
慈乃も手伝いたかったのだが入浴時間が回ってきたため、一度その場を去ることにした。
慈乃が戻ってきたときには、写真の貼付作業は終わっていて、皆で談笑をしていた。慈乃が戻って来たことに気がついたニアが顔を上げる。
「あ、戻って来た。じゃあ、あたしも一旦抜けるわ」
「あ~、ボクもお風呂の時間だ~」
ニアは慈乃と入れ替わる形で浴室へと向かう。ニアに続いてツクシも客間を出ていった。
「オレも少しあいつらの様子見てくる」
スギナも乳児達の様子を見るために席を立った。
慈乃は空いた席に座ると、「何を話していたのですか」と誰にともなく尋ねた。すると、ウタセが「これこれ」と言って一冊のアルバムを慈乃に向けてきた。
それは運ばれてきた一〇冊ほどのアルバムの中で最も古そうだった。事実、アルバムに貼られた写真には今よりも幼いであろうミトドリ、ニア、ウタセが写っている。背景は学び家の正門で、脇に延びる花壇にはチューリップやムスカリなどの春の花が咲いていた。
「これは……?」
「これはね、学び家が再開したときに記念で撮ったんだよ」
「再開、ですか?」
「おや。シノに話したことはなかったかな」
ミトドリに慈乃は頷きを返した。
「そういえば、学び家の成り立ちについてはあまり聞いていませんでした」
『再開』というからには、一度は経営をしていない時期があったのだろう。それがどうして今は子ども達の笑顔溢れる場所になっているのか、学び家の過去に一体何があったのか、慈乃は気になりだした。
それが顔に出ていたのか、単にウタセの勘が鋭いだけなのか。ウタセは小さく笑った。
「気になるなら、せっかくだし話そうか」
「はい。聞きたいです」
今度の写真も慈乃が撮った覚えのないものだったが、写真の中の景色には見覚えがあった。
(これを撮ったのはガザくんね)
トゥナ、ソラル、アヅ、レヤ、フィオの五人が笑顔で走り回っている様子を収めたそれは、見ているだけで明るい気持ちになる。ガザから見た世界はこんなにも眩しいものなのかと、慈乃は彼らしい一枚に微笑んだ。
コメントとイラストを写真に添えることを繰り返していると時間はあっという間に過ぎ去っていった。数十枚の写真全てに付箋が貼られ終わったので、次はアルバムに貼り付けていく作業が待っている。
慈乃も手伝いたかったのだが入浴時間が回ってきたため、一度その場を去ることにした。
慈乃が戻ってきたときには、写真の貼付作業は終わっていて、皆で談笑をしていた。慈乃が戻って来たことに気がついたニアが顔を上げる。
「あ、戻って来た。じゃあ、あたしも一旦抜けるわ」
「あ~、ボクもお風呂の時間だ~」
ニアは慈乃と入れ替わる形で浴室へと向かう。ニアに続いてツクシも客間を出ていった。
「オレも少しあいつらの様子見てくる」
スギナも乳児達の様子を見るために席を立った。
慈乃は空いた席に座ると、「何を話していたのですか」と誰にともなく尋ねた。すると、ウタセが「これこれ」と言って一冊のアルバムを慈乃に向けてきた。
それは運ばれてきた一〇冊ほどのアルバムの中で最も古そうだった。事実、アルバムに貼られた写真には今よりも幼いであろうミトドリ、ニア、ウタセが写っている。背景は学び家の正門で、脇に延びる花壇にはチューリップやムスカリなどの春の花が咲いていた。
「これは……?」
「これはね、学び家が再開したときに記念で撮ったんだよ」
「再開、ですか?」
「おや。シノに話したことはなかったかな」
ミトドリに慈乃は頷きを返した。
「そういえば、学び家の成り立ちについてはあまり聞いていませんでした」
『再開』というからには、一度は経営をしていない時期があったのだろう。それがどうして今は子ども達の笑顔溢れる場所になっているのか、学び家の過去に一体何があったのか、慈乃は気になりだした。
それが顔に出ていたのか、単にウタセの勘が鋭いだけなのか。ウタセは小さく笑った。
「気になるなら、せっかくだし話そうか」
「はい。聞きたいです」
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