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第二九話 思い出を形に残して

第二九話 一二

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 外での撮影は一段落したので、慈乃とウタセは生活棟内に戻ることにした。
再び食堂まで行って中をのぞくと誰もいなかったが、隣の厨房からはニアの声と物音がしたのでそちらへ顔を出してみる。
「そうしたら、サツマイモを一口大に切る」
「はーい」
 厨房ではニア主導のもと料理教室が催されていた。参加者はカルリア、クルル、スイセン、ライモ、ホノ、メリルの六人だ。
「何作ってるの?」
 食堂と厨房をつなぐ出入口からウタセが尋ねると、振り返ったニアは目を丸くした後「大学芋」と答えた。
「この秋にいっぱい収穫できたでしょ? いい材料になると思ってさ」
「確かに今年は豊作だったよね」
 ウタセの後ろから慈乃も厨房を眺める。ライモの包丁の扱いを見守っていたスイセンが慈乃の視線に気づいて顔を上げた。
「またお会いましたね。その後は順調ですか?」
「はい、おかげさまで。一枚良いですか?」
「どうぞ。ライモの一生懸命な姿を撮ってあげてください」
 ライモは目の前の作業に集中していて、慈乃達の会話を聞いてはいないようだった。慈乃は真剣なライモと彼女を微笑んで見守るスイセンを写真に収めた。
 スイセンとライモの隣にはクルルとホノがいた。こちらはクルルが手本を見せる傍らでホノも慣れない手つきながらもその真似をしていた。
「ただ力を入れればいいってものじゃないのよ。コツがあって、こうして……」
「こう?」
「そうよ。やればできるじゃない」
「えへへ」
慈乃は彼女たちの仲睦まじい様子を写真に残した。それに気づいたのはカルリアとメリルだった。
「あれ? シノ姉ってばカメラ持って厨房にいるなんて、どうしたの?」
 慈乃が答えるより早くメリルが声をあげる。
「メリルしってるよ! しゃしんをとって、おもいでをのこすんだって」
「普段の様子を?」
 カルリアは目を瞬かせてメリルから慈乃に視線を滑らせた。目が合った慈乃はこくりと頷く。
「はい。日常の写真はあまり撮っていないようだったので」
「そういえばそうかもね」
「メリルもあさとってもらったんだよ」
「え、ずるい! 私もメリルと撮る!」
 カルリアは持っていた包丁を調理台に置くとピースサインを決めた。傍らにはもちろんメリルがいる。
 突然しゃがんだカルリアを、隣にいたクルルが不審そうな目で見遣る。クルルはすでにサツマイモを切り終えていた。
「何してるのよ、カルリア姉さん」
「写真撮ってもらってるの。そうだ、クルルも一緒に写ってよ」
「いいけど、ちょっと待ってて。ホノがまだ終わってないから」
 作業を終えたホノも交えて、カルリア達の写真を撮った。カルリアとメリルは満面の笑みを浮かべており、ホノははにかむように笑っていた。クルルは撮られ慣れているのかきれいだが自然に見える微笑を湛えていた。
 五人で集まって画像を確認していると、ニアとウタセが寄ってきた。
「結構撮ったの?」
「はい」
「あとはタムとアスキとヨルメイだけかな」
 話を聞きつけたライモが教えてくれる。
「タムお姉ちゃん達なら、二階のラウンジでリンドウお兄ちゃんと一緒に絵本読んでるよ」
「そうなんだ。ありがとうね、ライ」
「ううん」
 ニアの「写真撮ったら戻っておいで。大学芋食べよ」という声に見送られ、慈乃とウタセは二階のラウンジへ向かった。
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