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第二八話 笑顔に満ちた思い出づくり
第二八話 九
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帰り道、皆で丘を上っていると、ガザが話しかけてきた。
「今日はありがとな、シノ」
「え?」
「いやさ、思いつきで男達と遊びに行くことになったわけだろ? 思ったらシノは大変だったんじゃねえかなーって」
慈乃は目を瞬かせていたが、やがてふんわりと目元を和らげた。
「大変だなんて思いませんよ。楽しかったです」
慈乃の様子にほっと息を吐くと、ガザはにっかりと笑った。
「そっか。なら良かった」
前を歩くレヤ、フィオ、アヅとソラル、トゥナの後ろ姿を眺めながら、ガザは続けた。
「今日のサンドウィッチ作るっていう案もシノが出したじゃん?」
「でも、ただ街へ行くだけではない案はないかと訊いてきたのはガザくんでしたよ?」
「そうだけど、オレだけじゃここまでみんなが楽しめなかったかもしんないし。やっぱりシノが学び家に来てくれて良かったぜ」
そう言い切るとガザは屈託のない笑みを慈乃に向けた。
「いい思い出をありがとう」
「ガザくん……」
普段は元気いっぱいで明るいガザだが、心の奥底では迫りくる別れの時に寂しさを感じているのかもしれなかった。
慈乃がどう声をかけるべきか悩んでいると、先にガザが口を開いた。
「びびってんだろうな、オレ」
ガザの表情は屈託のない笑みから苦笑いに変わっていた。
「学び家の奴らがいない生活なんて想像できないんだ。だから思い出に縋ろうとしてんのかもしんない。我ながら女々しいな」
滅多に聞かないガザの弱音に、慈乃は目を丸くした後、首を横に振った。
「それはそんなに悪いことでしょうか……?」
幼いころに両親と過ごした思い出が、学び家で家族と紡いできた思い出が慈乃を救った。思い出に縋ることのなにがいけないというのだろう。
自己否定することの辛さはよくわかっているつもりだったから、ガザには自分を否定することはしてほしくないと慈乃は思った。
「思い出に縋ってもいいじゃないですか。それに、そう思うくらい家族のことが好きなんでしょう? だったらその気持ちこそ、大事にしてもらいたいと私は思いますよ」
ガザの栗色の瞳が一度だけ揺れる。瞬きの後には、彼の瞳から迷いは消えていた。
「そう、だな。なんかシノって強くなったよな」
「そうでしょうか?」
自分としてはそんなつもりはないのだが。慈乃が目をぱちぱち瞬かせると、ガザはおかしそうにふきだした。
「ああ。出会ったばっかりの頃なんか心配になるくらい大人しかったし、リンと仲違いしてたときも大丈夫かよって思ってた。でも、それがあったからかな。今のシノはひと皮むけたっていうか、姉ちゃんだなって思った」
ガザは大きく頷いた。
「うん。シノはオレの自慢の姉ちゃんだな!」
晴れやかな笑みは見ていてこちらが清々しくなるほどだった。慈乃はその眩しさに目を細めた。
「まだ、時間はたくさんあります。もっともっと楽しいことをしていきましょう」
それが、これからを生きる彼らの糧になるのなら。そして、自らの支えとなるのなら。笑顔であふれる思い出を共につくっていきたい。
慈乃が柔らかに笑うと、ガザは「おう!」と元気な返事をしてくれた。
「今日はありがとな、シノ」
「え?」
「いやさ、思いつきで男達と遊びに行くことになったわけだろ? 思ったらシノは大変だったんじゃねえかなーって」
慈乃は目を瞬かせていたが、やがてふんわりと目元を和らげた。
「大変だなんて思いませんよ。楽しかったです」
慈乃の様子にほっと息を吐くと、ガザはにっかりと笑った。
「そっか。なら良かった」
前を歩くレヤ、フィオ、アヅとソラル、トゥナの後ろ姿を眺めながら、ガザは続けた。
「今日のサンドウィッチ作るっていう案もシノが出したじゃん?」
「でも、ただ街へ行くだけではない案はないかと訊いてきたのはガザくんでしたよ?」
「そうだけど、オレだけじゃここまでみんなが楽しめなかったかもしんないし。やっぱりシノが学び家に来てくれて良かったぜ」
そう言い切るとガザは屈託のない笑みを慈乃に向けた。
「いい思い出をありがとう」
「ガザくん……」
普段は元気いっぱいで明るいガザだが、心の奥底では迫りくる別れの時に寂しさを感じているのかもしれなかった。
慈乃がどう声をかけるべきか悩んでいると、先にガザが口を開いた。
「びびってんだろうな、オレ」
ガザの表情は屈託のない笑みから苦笑いに変わっていた。
「学び家の奴らがいない生活なんて想像できないんだ。だから思い出に縋ろうとしてんのかもしんない。我ながら女々しいな」
滅多に聞かないガザの弱音に、慈乃は目を丸くした後、首を横に振った。
「それはそんなに悪いことでしょうか……?」
幼いころに両親と過ごした思い出が、学び家で家族と紡いできた思い出が慈乃を救った。思い出に縋ることのなにがいけないというのだろう。
自己否定することの辛さはよくわかっているつもりだったから、ガザには自分を否定することはしてほしくないと慈乃は思った。
「思い出に縋ってもいいじゃないですか。それに、そう思うくらい家族のことが好きなんでしょう? だったらその気持ちこそ、大事にしてもらいたいと私は思いますよ」
ガザの栗色の瞳が一度だけ揺れる。瞬きの後には、彼の瞳から迷いは消えていた。
「そう、だな。なんかシノって強くなったよな」
「そうでしょうか?」
自分としてはそんなつもりはないのだが。慈乃が目をぱちぱち瞬かせると、ガザはおかしそうにふきだした。
「ああ。出会ったばっかりの頃なんか心配になるくらい大人しかったし、リンと仲違いしてたときも大丈夫かよって思ってた。でも、それがあったからかな。今のシノはひと皮むけたっていうか、姉ちゃんだなって思った」
ガザは大きく頷いた。
「うん。シノはオレの自慢の姉ちゃんだな!」
晴れやかな笑みは見ていてこちらが清々しくなるほどだった。慈乃はその眩しさに目を細めた。
「まだ、時間はたくさんあります。もっともっと楽しいことをしていきましょう」
それが、これからを生きる彼らの糧になるのなら。そして、自らの支えとなるのなら。笑顔であふれる思い出を共につくっていきたい。
慈乃が柔らかに笑うと、ガザは「おう!」と元気な返事をしてくれた。
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