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第二七話 約束の花祭
第二七話 四
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それから間もなくして、街の入り口に到着した。
花祭仕様の街の景色は、日常と切り離された世界のように趣きを異にする。
頭上を渡る花びらで作られた提灯はまだ灯りを入れられていないが、それだけでも華やかだ。通りを流れる運河にはどこからか降り注いだ色とりどりの花が浮かんでいる。至るところに飾り置かれた鉢植えにはハボタンやパンジー、ビオラなど冬を象徴する花が植えられていた。
よく見ると赤い実をつけたセイヨウヒイラギと白い花を咲かせたヒイラギが並び置かれている。慈乃が思わず足を止めると、リンドウが慈乃の視線の先を追って不思議そうな顔をした。
「ヒイラギですね」
「はい、ラギくんのお花です」
慈乃は微笑んだ。学び家で働く者の性なのか、子ども達に関連する花を見ると殊更に嬉しくなる。
「どっちがラギくんのお花か、リンくんはわかりますか?」
「当然です。この間、学舎で習ったばかりですから」
リンドウは迷いなく白い花を咲かせたヒイラギを指さした。
「ふふ、正解です」
慈乃が笑うと、リンドウは照れくさかったのかふいっと顔をそむけた。その頬は僅かに朱に染まっている。
リンドウが当てたように、ヒイラギの司る花は白い花をつけたほうのヒイラギだ。
慈乃の元いた世界のイベントであるクリスマスに飾られる赤い実とギザギザの葉が特徴のヒイラギはセイヨウヒイラギが正式名称だ。対してヒイラギはその特徴的な葉から魔除けとして、『北東にヒイラギ、南西にナンテン』と言われるように庭に植えられたり、節分のときにイワシの頭とともに玄関に飾られたりする。
一見似ているようだが、そもそも科が異なる。ヒイラギはモクセイ科で、セイヨウヒイラギはモチノキ科である。そのため、ヒイラギの白い花はキンモクセイのような甘い香りを漂わせる。
ヒイラギの名は、葉の棘に触れた痛みを『疼ぐ』と表現したことから、『疼木』が転じて『柊』となったという。しかし葉がギザギザとしているのは若木だけで、老木になるとギザギザはまるみを帯びてきてしまうのだとか。
そんなヒイラギの花言葉は、やはり葉の形状を由来として〈用心深さ〉〈保護〉に始まり、〈先見の明〉〈歓迎〉〈剛直〉などもある。
学舎では当然のように学ぶことも、慈乃にとっては自分から勉強しなければわからないことだらけだ。この知識も図鑑を通して知ったものであり、初めて学習したときは驚いたもので、よく印象に残っていた。
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頭上を渡る花びらで作られた提灯はまだ灯りを入れられていないが、それだけでも華やかだ。通りを流れる運河にはどこからか降り注いだ色とりどりの花が浮かんでいる。至るところに飾り置かれた鉢植えにはハボタンやパンジー、ビオラなど冬を象徴する花が植えられていた。
よく見ると赤い実をつけたセイヨウヒイラギと白い花を咲かせたヒイラギが並び置かれている。慈乃が思わず足を止めると、リンドウが慈乃の視線の先を追って不思議そうな顔をした。
「ヒイラギですね」
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「当然です。この間、学舎で習ったばかりですから」
リンドウは迷いなく白い花を咲かせたヒイラギを指さした。
「ふふ、正解です」
慈乃が笑うと、リンドウは照れくさかったのかふいっと顔をそむけた。その頬は僅かに朱に染まっている。
リンドウが当てたように、ヒイラギの司る花は白い花をつけたほうのヒイラギだ。
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一見似ているようだが、そもそも科が異なる。ヒイラギはモクセイ科で、セイヨウヒイラギはモチノキ科である。そのため、ヒイラギの白い花はキンモクセイのような甘い香りを漂わせる。
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そんなヒイラギの花言葉は、やはり葉の形状を由来として〈用心深さ〉〈保護〉に始まり、〈先見の明〉〈歓迎〉〈剛直〉などもある。
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