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第二四話 再び紡ぐ物語

第二四話 一九

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和やかな食事の時間を終え、入浴も済ませた慈乃は自室に戻ってきていた。
机に向き合いながら、今日メリルとカルリアから受け取った手紙を開いて、返事をしたためているのだった。
今まで話せなかったことを文字に変えて書き記す。いつもならそれぞれ便箋一枚ですむところを、今日は二枚半も要した。
書き終えた便箋を封筒に丁寧に収めると封をした。
作業が一段落ついたところで、慈乃はうんと伸びをした。すると、ふわりと音のような声が慈乃の耳に届いた。
『シノ、お疲れ様なの~』『楽しそうだったね~』『ね~』
 慈乃が棚の上を振り返ると、花瓶に活けたカモミールが風もないのにそよそよと揺れていて、淡く発光していた。
 カモミールの精は今日も慈乃のことを見守っていてくれたようだ。
『楽しそうにお仕事してたの~』『よく笑ってた~』『シノ、成長したね~』
「そう、見えましたか……?」
『うん』『見えた見えた~』
 カモミールの精がころころと声をたてて笑った。
『これも全部、シノが紡いできたものだよ~』
「私が、紡いだもの……?」
『家族も、居場所も、笑顔も』『シノが頑張ったから~』『逃げなかったから、手に入ったものなの~』『それでね、これからも続く物語なの~』
 人生を物語に例えるのならそうとも言えるだろう。
 迷い、傷つき、立ち上がれず、もう一歩も動けないときもあった。それでも誰かの言葉と優しさに支えられて、なんとか新たな一歩を踏み出せた。そうして慈乃は『物語』を紡いできたのだと思う。そしてそれは、これから先も続くことだろう。
慈乃はカモミールの精の言葉に小さく頷いた。
そして同時にリンドウのことが頭を過った。
(リンドウくんにも、それを知ってほしいわ)
 今は苦しくとも、希望はあるのだと。リンドウにしか紡げない、物語があるのだと。
 カーテンの隙間から、満月を過ぎた月が姿を覗かせる。冷え冷えとした光を湛えているように見えるのは、慈乃の心の持ちようのためか。
 慈乃はしばらく窓の向こうの月から目を離せずにいた。
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