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第二四話 再び紡ぐ物語

第二四話 一一

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「あ、一回休みだ。なんだか今日はついてないなぁ」
「そんな日もあるって。……お、イメチェンマスだ」
 サイコロを振り、コマを進めたガザが呟く。
「じゃあ、シノの真似でもしようかな。イメージ変わるだろ」
「え、私のですか?」
 卑屈になってはいないが、真似されるほどの個性を慈乃は自身に感じない。いくらガザとはいえ真似なんてできるのだろうかと慈乃は少し心配になった。
「……できますか?」
「おうよ! 任せとけって」
 ガザは自信満々に頭を縦に振った。
「……次はトゥナくんの番ですよ」
「う、裏声はやめてよ……っ」
 トゥナが笑いをこらえながら、ガザからサイコロを受け取った。
「あ、何もない」
 続くソラルもトゥナと同じマスに止まった。
「二ですね。……よかった」
 ソラルはほっと安堵の息をつくと、サイコロを慈乃に渡した。
「『マイブームは?』ですか」
 最初にこのすごろくで遊んだときはすぐにはマイブームが思いつかなくて、自分自身に落胆した。しかし、ウタセが助け舟をだしてくれたことで言の葉語を習得することだとやっとの思いで答えたのだった。
(今は、どうかしら)
 料理を極めることや絵本を作ることといった仕事を楽しみたい。子ども達と遊んで、その笑顔を見たい。ブームとは少し違うかもしれないが、慈乃は胸を熱くさせていた。なかでも一番力を注いでいることは……。
「リンドウくんに負けないこと、でしょうか」
「は、何? リンと戦ってんの? シノが?」
 驚きのあまり、ガザは素に戻ってしまっていた。誤解のないように慈乃はさらに言葉を続けた。
「いつかは会話をしてくれるようになりたいんです。心を開いてほしいのです」
 リンドウの月白色の左目が忘れられない。瞳の奥底、胸の奥深くが悲しそうに、寂しそうに揺れていた。見覚えのある瞳は、ずっと昔から、幾度となく、鏡の世界で見てきたそれにそっくりだった。
(自己満足だとしても、看過できないわ)
 だって、痛い、苦しい、辛いと心が泣いているのを慈乃は知っているから。同じ痛みではないかもしれないが、似ていると思うから。
 リンドウに正面から向き合うことはまだ始まったばかりだ。今は疎まれているし、余計なお節介だと思われているだろうが、だからといって諦めるにはまだ早い。
「私にできる形で、彼を救いたいと思うのです。だから、負けられません」
 一瞬沈黙がおりたが、最初に口を開いたのはウタセだった。
「そのための挨拶強化運動だものね」
「はい」
 慈乃は強い光を宿した瞳で頷く。その煌めきにガザ、トゥナ、ソラルも気づいたようだった。
「あれってそんな目的があったんだね」
「しばらくやってませんでしたが、また始めるんですか」
「はい。それにリンドウくんのことを抜きにしても、あいさつが飛び交っていた方が学び家にも活気が出て、良いと思ったので」
「確かにな。オレも協力するぜ!」
 すっかりイメチェンを忘れたガザが快活な笑みを見せる。彼に続くようにトゥナとソラルも「オレも!」「俺も」と賛成した。
(家族がいるなら、きっといつかは……)
「ありがとうございます」
彼らの言葉に力づけられて、慈乃は小さく笑った。
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