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第二一話 世界の色は奪われて

第二一話 七

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「……周りに溶け込めないで、自分が嫌いで、花守としても中途半端で、って? そうだよ、だからあなたが嫌いなんだ!」
 突然怒鳴られたことに、慈乃はびくりと肩を震わせた。けれど、リンドウはお構いなしに続ける。
「あなたを見ているとまるでもうひとりの自分を見ているようでイライラするんだ! いつまでも悲劇のヒロインぶってるんじゃねえよ! いい加減にしろよ!」
「……っ」
 慈乃には言い返す言葉もなかった。リンドウが述べたことは図星を指していていると思ったからだ。
「馬鹿みたいに自己嫌悪ばっかりで、自分の感情に振り回されて。どうせ楽になりたいだの消えたいだの考えてるんだろうけどな、そんなの自己陶酔だ! そんなんだから周りから見放されるんじゃないのかよ!」
「……」
「何とか言ったらどうなんだよ!」
 そのうち騒ぎを聞きつけたツクシとスギナが駆けつけてきた。
「はいは~い。リンくんはボクと行こうね~」
「放せよっ!」
 ツクシはリンドウの腕を捕まえて、強制的に生活棟へ連行した。後に残ったスギナが案じる眼差しで慈乃を見遣る。
「シノ、大丈夫か?」
 慈乃の顔には衝撃も悲痛もなく、ただ無の感情が浮かんでいるだけだった。言葉を失うスギナに、慈乃は大丈夫だと伝える代わりに静かに頷いた。
(リンドウくんの言ったことは全部本当のこと。何も落ち込む必要なんてないわ)
 自己嫌悪を繰り返して、内心で自らを罵倒していた。嘲り笑っていた。だからひどい言葉は言われ慣れている。
 周りに迷惑ばかりかけるくらいなら、いっそ自分の存在ごと消えてしまえたらと思ったこともある。振り回される自分の感情から逃れたくて、楽になりたいと願ったこともある。それらが自己犠牲に酔った妄言だとわかっていても、そうでもしないと自身の罪深さに耐えられそうになかったのだ。
(だから、大丈夫)
 今さら何と言われようと傷つくはずもない。むしろリンドウの言には納得さえいった。
(私がこんなだから、カモミールの精も呆れて離れていったんじゃないかしら。……花守失格ね)
 無表情の仮面の下で、慈乃は自嘲気味な笑みを浮かべた。
 傍から見れば変化のない慈乃の反応に、スギナは参っているようだった。
「本当に大丈夫なのか?」
 スギナの本気で心配している声に、慈乃はようやく彼を見る。
「はい。……慣れて、いるので……」
「は? 慣れてるって……」
 スギナの追及を遮って、慈乃は軽く一礼すると踵を返して生活棟に戻った。
 玄関前に取り残されたスギナが誰にともなくぽつりと呟く。
「……大丈夫じゃねえだろ」
 まるで出会ったときに戻ってしまったようだとスギナは思った。
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