カモミールの福音 ～花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語～

第一五話 ひと夏の冒険

第一五話 五

「だから、シノの存在を知ったときも初めて会ったときも、ものすごく驚いたんだよ」
「……私は、母に似ていますか？」
「うん、そっくり。外見も優しいところも、母娘なんだなぁって思うよ」
　フロリアは慈乃に軽く振り向いて、柔らかに微笑んだ。
「シノがカモミールの花守になりかけてるってことは、カミユはもうこの世のどこにもいないってことなんだってすぐにわかった。だからカミユの遺した幸せの形が、シノが、暗い顔をしているって知ったときは何とかしなくちゃって思ったの」
　それで教会での保護を提案したのだと、フロリアが教えてくれる。結果的には教会ではなく、学び家で過ごせて良かったとも。
「前にも言ったけど、顔つきが明るくなったよね。生きる希望を見出してる。カミユも安心してくれたかな、なんてね」
「フロリアさん……」
「やだなー。今は『ハナ』だよ？」
　フロリアはあえておどけたように笑うと、「さて」と話を切り替えた。
「もうすぐお昼ご飯の時間だよね。シノのおすすめってある？」
　母にまつわる話を聞いたからか、フロリアに親近感を覚えた慈乃は、ふっと自然に微笑んだ。
「でしたら、あそこにしましょう。アウィルさんをご存じですか」
「学び家にいたウィルだよね。もちろん知ってるよ」
「ニアさんと協力して作ったランチプレートが美味しいのですよ」
　ふたりは楽しく会話しながら、目的のカフェに向かった。