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第一四話 輝く夏の始まりは
第一四話 二九
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「シノと出会ったばかりのときに僕が言ったこと、憶えてるかな? ほら、ミト兄とニア姉に対面する直前のこと」
『シノの過去に何があったか、どうしてそんなに怯えているのか、僕は知らない。だけどね、ここにいるひと達は絶対にシノを傷つけないし、否定もしないよ』そのときもまるで自身の存在を主張するかのように、ウタセは慈乃の手を握って、言った。『それに、僕がいるから。きっと、シノを守るって、約束するよ』
慈乃が思い当たった表情をすれば、ウタセは小さく頷いた。
「あのとき言ったことは今でも変わらないよ。だから、どうかひとりで抱え込まないで。確かに僕たちは妖精だけど、『人間を理解できない』なんて線引きしないでほしいな」
眩しかった太陽は徐々に沈んでいき、踊り場も薄暗闇に包まれていく。残光を受けながら、ウタセは静かな笑みを湛えた。
「それにね、僕は人間も妖精も大差ないと思うよ。人間にだってシノを傷つけるような人がいれば、シノみたいに心優しい人もいる。妖精だってそれは同じだよ。妖精だからきれいな心を持っているんじゃなくて、きれいな心を持つ妖精がここにはたくさんいるってだけのことだと僕は思ってる」
「そう、なのでしょうか」
慈乃は未だ学び家に関わる心優しい妖精しか知らない。そのためかウタセの話に素直に頷けないでいた。しかし、ウタセの首肯は力強く、彼が言うならそうなのかもしれないとも思える。結局、慈乃は曖昧な頷きを返すに留めた。
「いつか、克服できるといいね」
ウタセの呟きにも似た声が、物悲しく薄暗がりの踊り場に響いて消えた。
『シノの過去に何があったか、どうしてそんなに怯えているのか、僕は知らない。だけどね、ここにいるひと達は絶対にシノを傷つけないし、否定もしないよ』そのときもまるで自身の存在を主張するかのように、ウタセは慈乃の手を握って、言った。『それに、僕がいるから。きっと、シノを守るって、約束するよ』
慈乃が思い当たった表情をすれば、ウタセは小さく頷いた。
「あのとき言ったことは今でも変わらないよ。だから、どうかひとりで抱え込まないで。確かに僕たちは妖精だけど、『人間を理解できない』なんて線引きしないでほしいな」
眩しかった太陽は徐々に沈んでいき、踊り場も薄暗闇に包まれていく。残光を受けながら、ウタセは静かな笑みを湛えた。
「それにね、僕は人間も妖精も大差ないと思うよ。人間にだってシノを傷つけるような人がいれば、シノみたいに心優しい人もいる。妖精だってそれは同じだよ。妖精だからきれいな心を持っているんじゃなくて、きれいな心を持つ妖精がここにはたくさんいるってだけのことだと僕は思ってる」
「そう、なのでしょうか」
慈乃は未だ学び家に関わる心優しい妖精しか知らない。そのためかウタセの話に素直に頷けないでいた。しかし、ウタセの首肯は力強く、彼が言うならそうなのかもしれないとも思える。結局、慈乃は曖昧な頷きを返すに留めた。
「いつか、克服できるといいね」
ウタセの呟きにも似た声が、物悲しく薄暗がりの踊り場に響いて消えた。
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