カモミールの福音 ～花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語～

第一一話 雨の休日

第一一話 八

「トップのひとの好きなところって、トップってあたしなんだけど」
　山姥のコマを四つ進めて、ニアが眉を寄せた。
「自分の好きなところを挙げればいいのでは？」
　ソラルの発言を受けて、ニアは僅かに逡巡した後、浅く顎を引いた。
「何を置いても明るいとこじゃない？ うじうじ引きずらないのはあたしの長所でしょ」
　さらりと自分の長所が出てくるなんて、さすがだと慈乃は思った。今の自分にはできない芸当だ。
ぼんやりとそんなことを考えている間にも、ゲームは進行していく。
次のソラルは二を出したが、マスには指示はなく、ほっと息をついていた。
同じく慈乃も空白のマスに止まる。
タムは起きる気配がなかったので、先に話し合ったように寝かせてあげようということになり、とんでトゥナの番となる。ここでトゥナが二を出したことで反対回りとなった。
早くも慈乃の番へと戻ってくる。今度は五が出てコマを進めると『非常に丁寧な言葉遣いでゲーム終了まで話すべし』と記されている。
トゥナが苦笑いしながら頬を掻く。
「シノ姉の場合、いつもとそんなに変わらないんじゃない？」
「シノが粗野な言葉を使う方が想像できない」
「ですね」
ニアとソラルも、トゥナの意見に同意を示す。しかし、慈乃は首を横に振った。
「いえ、『非常に』ということですので、まだまだ改善の余地はあるかと思います」
ときどき言葉尻が乱れていることは自覚していた。普段は多少砕けた口調の方が親しみがあるからという理由でそれほど気に留めていなかったが、せっかくの機会なのでここは徹底したいと慈乃は静かに闘志を燃やす。慈乃のやる気を察した一同はそれ以上は何も言わなかった。