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第八話 遠足はブーゲンビリアに彩られて

第八話 九

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 集合場所の砂浜から六番地の街を突っ切って、中央の教会へ移動する。
 教会周辺は六番地とは雰囲気が打って変わり、西洋の色合いが強い。広大な泉に、石造りの橋、そびえたつ教会。六番地の出入り口から教会にのびる道には、ペチュニアやサフィニアなどが咲き乱れている。
 教会の重厚な扉を押し開けると、礼拝堂には既にフロリアがいた。萌黄色の髪は天窓から差し込む陽光を柔らかに受け止め、瞳はステンドグラスの反射光を映しこみながらもイエローにきらめいている。
 静かにたたずむ姿は厳かで神秘的でさえある。しかし、ミトドリを先頭に学び家の皆の姿を目に留めると、純粋な子どものように破顔した。
「待ってたよ! うわー、みんな大きくなったねえ!」
 紙の束や本を山と積んだ机を回り込んで、フロリアは参拝者席の方へ下りてくる。まだろくに話せないような小さな子から順に声を掛けていく。
 ツユやウルフィニは人見知りのため緊張し、ぎこちない受け答えになっていたが、大抵の子ども達は友達のように気軽におしゃべりを楽しんでいた。
 年上には基本的には敬語を使うスイセンですら、フロリアには砕けた口調で話している。
 やがて慈乃に歩み寄ったフロリアは、花開くように笑った。
「シノも大きくなったねぇ」
 よしよしと子どもにするように頭を撫でられる。これでは友達というより親兄弟のようだ。慈乃は戸惑いながらも苦言を呈した。
「あの……、見た目はそれほど変わっていないと思うのですが。いえ、色はともかくですね」
 するとフロリアはその発言すら嬉しそうに目を細めて聞くと、名残惜しそうに手を離した。
「ううん、成長したよ。迷子の子どもみたいじゃなくなった。教会で保護する案もあったけど、学び家で過ごしたのは正解だったみたいだね」
「あ……」
 フロリアの言わんとしていることがようやく理解できて、慈乃は言葉を失った。
 彼女もまた、慈乃を心から案じてくれているひとりだということ。フロリアの瞳には見守るようなあたたかさがあった。
 ふいにフロリアは慈乃の瞳を覗き込んだ。黄色と黄金色が静かに交錯する。
「うん、いい目。明るくて優しい目をしてる。ちゃんと明日を見てる」
 慈乃は軽く顎をひいた。
「はい。今は、学び家のみんなと過ごす毎日が楽しいのです。みんなの笑顔を見ると頑張ろうと思えます」
 フロリアは小さな笑い声をもらした。
「わかるよ。私にとっては民の笑顔が原動力。だからシノ。いつか君の笑った顔を見せてね」
 態度こそ友達のように気安いのに、慈乃を見つめる瞳は母や姉といった家族のように慈愛の色を湛え、まとう風は確かに女神と呼ぶに相応しいものだった。
 慈乃がこくりと頷いたのを確認すると、フロリアは安心したように微笑み、身を翻した。
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