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第四話 休日の触れ合い
第四話 一一
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すごろくを片付け終えると、ちょうどお昼前だった。
今日の昼食は平日より量も数も多いから、手が空いているようなら厨房に来て手伝ってほしいと、今朝ニアには言われていた。
すごろくは食堂でやっていたので、厨房はすぐ隣だ。
すごろくを片付け始めたあたりから、厨房からは物音がしていたので昼食の準備はもう始まっているのだろうと、慈乃はやや慌てて厨房に顔を出した。
ニアは慈乃がやって来たことに気が付くと、調理の手は止めないままに視線だけを上げた。
「盛り上がってたじゃん。何してたの?」
「すごろく、です。試作品らしくて、テストゲームをして、いました」
「そういえば、前にツクシ達が作ったとかって話してたような。見てはみたいけどやりたくはないや。やばそう」
ニアはカラリと笑うと、慈乃に汁物を作るように指示しながら、自身は調理棚に手を伸ばした。
「あれ、砂糖ってこれで最後だったっけ」
今朝の時点ですらそれほど残量はなかったのに、午前中のお菓子作りでも砂糖を消費したので残りは僅かとなっていた。
「うーん、でも休日の街は混むからな……」
何か独り言を言っているのは慈乃にもわかったが、物音の多い厨房では内容までは聞き取れない。ニアは珍しく悩むように唸っていた。
そのとき、厨房と食堂を繋ぐ出入り口から、スイセンがひょっこりと顔を出した。
「ニアさーん。そろそろテオ達を集めてきても大丈夫ですか?」
ニアは気づかずに「行かないと、明日の朝が困る……? よねー」とため息をついていた。
スイセンは奥にいた慈乃にどうしたのかと問いたげな目を向けてきたが、慈乃にもわからないので首を傾げるしかない。
スイセンは厨房に入ってくると、ニアの肩をちょんちょんとつついた。
「ニアさん?」
「うっわ! なんだ、スイ? どうしたの」
肩を大きく揺らして、ニアは勢いよく振り向いた。
スイセンは困ったとも呆れたともつかない表情でニアを見上げた。
「どうしたってぼくが言いたいんですけど」
「いやー、砂糖を切らしそうで。でも予備を買い忘れてたんだよね。かといって、休日の街はできれば避けたいなー、なーんて」
いたずらが見つかった子どものように、目を逸らしがちにニアは説明する。
スイセンは僅かに思案した後、「午後でよければぼくが行きましょうか?」と申し出た。
「え、いいの?」
「午後にテオと街に行く約束をしてたので、そのついでです」
「さっすが、スイ! これが他のひとならあたしが街に行くことになってた」
作業が一段落した慈乃がニアとスイセンのもとに近づくと、話はまとまりつつあるようだった。気になった慈乃は思い切って、声を掛けてみることにした。
「何か、考えていたようですが……?」
「ああ、うん。最後の砂糖が切れそうなんだけど、休日の街は嫌だっていう話をしてたの」
「それでしたら、私が……」と慈乃が言いかけたところで、まだ慣れない街の、それも初めての休日に、午後という限られた時間で一人迷いなく買い物ができるとは思えず、口から出かかった言葉を飲み込んだ。
ニアは察して、少し笑った。
「ありがとね。でも、シノみたいな女の子を休日の街に放り込むなんて所業はあたしにはできない……うん、できない」
なんだか慈乃とニアの懸念事項は微妙に食い違っているような気もするが、どのみち結果は同じだ。
(早く慣れて、買い物くらい任せてもらえるようにならないと……!)
慈乃が新たに心を決していると、横でスイセンが小さく挙手をしていた。
「ニアさん……。その扱いはシノさんも困るのでは?」
「だって、シノって押しに弱そうじゃない! 街に出たら最後、ちゃんとここに戻ってこられるのかお姉さんは心配なんです!」
スイセンはニアの気迫にのまれながらも、怯むことなく意見する。
「そ、そうですか……? まあ、それは置いておいて、いい機会ですし、今日はぼく達と街に行くっていうのはどうでしょう? シノさんの勉強にもなるし、ニアさんもそれなら心配ないですよね」
「強かなやつめ……」
「いいじゃないですか。口実だけってわけでもありませんし、休みの日じゃないとシノさんと遊べないんですから」
いたずらっぽく笑うスイセンを見て、ニアは大きなため息をつくと、慈乃へと振り向いた。
「シノがいいならね。午後なんだけど、予定は?」
「いえ、ないです」
「やった。テオもきっと喜びます」
スイセンの屈託ない笑みにつられて、慈乃も午後が楽しみになってきた。
今日の昼食は平日より量も数も多いから、手が空いているようなら厨房に来て手伝ってほしいと、今朝ニアには言われていた。
すごろくは食堂でやっていたので、厨房はすぐ隣だ。
すごろくを片付け始めたあたりから、厨房からは物音がしていたので昼食の準備はもう始まっているのだろうと、慈乃はやや慌てて厨房に顔を出した。
ニアは慈乃がやって来たことに気が付くと、調理の手は止めないままに視線だけを上げた。
「盛り上がってたじゃん。何してたの?」
「すごろく、です。試作品らしくて、テストゲームをして、いました」
「そういえば、前にツクシ達が作ったとかって話してたような。見てはみたいけどやりたくはないや。やばそう」
ニアはカラリと笑うと、慈乃に汁物を作るように指示しながら、自身は調理棚に手を伸ばした。
「あれ、砂糖ってこれで最後だったっけ」
今朝の時点ですらそれほど残量はなかったのに、午前中のお菓子作りでも砂糖を消費したので残りは僅かとなっていた。
「うーん、でも休日の街は混むからな……」
何か独り言を言っているのは慈乃にもわかったが、物音の多い厨房では内容までは聞き取れない。ニアは珍しく悩むように唸っていた。
そのとき、厨房と食堂を繋ぐ出入り口から、スイセンがひょっこりと顔を出した。
「ニアさーん。そろそろテオ達を集めてきても大丈夫ですか?」
ニアは気づかずに「行かないと、明日の朝が困る……? よねー」とため息をついていた。
スイセンは奥にいた慈乃にどうしたのかと問いたげな目を向けてきたが、慈乃にもわからないので首を傾げるしかない。
スイセンは厨房に入ってくると、ニアの肩をちょんちょんとつついた。
「ニアさん?」
「うっわ! なんだ、スイ? どうしたの」
肩を大きく揺らして、ニアは勢いよく振り向いた。
スイセンは困ったとも呆れたともつかない表情でニアを見上げた。
「どうしたってぼくが言いたいんですけど」
「いやー、砂糖を切らしそうで。でも予備を買い忘れてたんだよね。かといって、休日の街はできれば避けたいなー、なーんて」
いたずらが見つかった子どものように、目を逸らしがちにニアは説明する。
スイセンは僅かに思案した後、「午後でよければぼくが行きましょうか?」と申し出た。
「え、いいの?」
「午後にテオと街に行く約束をしてたので、そのついでです」
「さっすが、スイ! これが他のひとならあたしが街に行くことになってた」
作業が一段落した慈乃がニアとスイセンのもとに近づくと、話はまとまりつつあるようだった。気になった慈乃は思い切って、声を掛けてみることにした。
「何か、考えていたようですが……?」
「ああ、うん。最後の砂糖が切れそうなんだけど、休日の街は嫌だっていう話をしてたの」
「それでしたら、私が……」と慈乃が言いかけたところで、まだ慣れない街の、それも初めての休日に、午後という限られた時間で一人迷いなく買い物ができるとは思えず、口から出かかった言葉を飲み込んだ。
ニアは察して、少し笑った。
「ありがとね。でも、シノみたいな女の子を休日の街に放り込むなんて所業はあたしにはできない……うん、できない」
なんだか慈乃とニアの懸念事項は微妙に食い違っているような気もするが、どのみち結果は同じだ。
(早く慣れて、買い物くらい任せてもらえるようにならないと……!)
慈乃が新たに心を決していると、横でスイセンが小さく挙手をしていた。
「ニアさん……。その扱いはシノさんも困るのでは?」
「だって、シノって押しに弱そうじゃない! 街に出たら最後、ちゃんとここに戻ってこられるのかお姉さんは心配なんです!」
スイセンはニアの気迫にのまれながらも、怯むことなく意見する。
「そ、そうですか……? まあ、それは置いておいて、いい機会ですし、今日はぼく達と街に行くっていうのはどうでしょう? シノさんの勉強にもなるし、ニアさんもそれなら心配ないですよね」
「強かなやつめ……」
「いいじゃないですか。口実だけってわけでもありませんし、休みの日じゃないとシノさんと遊べないんですから」
いたずらっぽく笑うスイセンを見て、ニアは大きなため息をつくと、慈乃へと振り向いた。
「シノがいいならね。午後なんだけど、予定は?」
「いえ、ないです」
「やった。テオもきっと喜びます」
スイセンの屈託ない笑みにつられて、慈乃も午後が楽しみになってきた。
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