【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二一話 祈りの言霊

第二一話 七

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 翌日も快晴で、まるであかりの誕生日を天までもが寿いでくれているようだった。
 この日のあかりは昨年同様、お気に入りの赤を基調とした紗の着物をまとい、結い上げた髪には昨年贈ってもらったガラスでできた朝顔が咲くかんざしを挿した。
 いつもの緋袴姿も嫌いではないが、私服は私服で胸が弾む。
 あかりは姿見の前でくるりと回ってから、意気揚々と自室を出て、三人が待っている昴の部屋へと向かった。
「おまたせ」
 あかりが声をかけると、部屋にいた結月と昴が振り向く。
 彼らもまたそれぞれが司る色を基調とした着物姿で、近頃では袴姿をすっかり見慣れたあかりの目には新鮮に映った。
 結月は今日もうっすらと龍の鱗が浮いた幼い姿のままで、まとう着物は懐かしいものだった。聞くところによると香澄が結月の幼少期当時の着物を未だにとっておいてくれていたらしい。
「あれ、秋は?」
 部屋を見回すも秋之介の姿が見当たらない。
 あかりの疑問に答えたのは昴だった。
「秋くんならあかりちゃんを待ってる間に梓様に会ってくるって部屋に行ったよ」
 秋之介は献身的に母に語りかけることを日課としていた。その甲斐あってか、梓の状態は日によりけりだが当初よりは安定してきているという。
「梓おば様も、お祝いしてくれるかな……?」
 調子が良ければ祝ってくれるだろうが、その保証はどこにもない。あかりが頼りなげに呟くと、背後から声が掛かった。
「もう来てたんだな、あかり。待たせちまってわりぃ」
「秋。……!」
 声から秋之介がいることは予測済みだったが、振り向いてあかりは目を丸くした。
「梓おば様!」
「おはよう、あかりちゃん」
 そこには快活な笑みを浮かべる梓が立っていた。
 どういうことかとあかりが秋之介を振り仰げば、彼はしたり顔でにっと笑った。
「今日は調子が良かったんだ。……俺のこともあかりが誕生日だってこともわかってる」
 後半は心底から安堵している秋之介の心情が透けて見えるようだった。
 梓は秋之介の言葉に不思議そうな顔をしていたが、すぐにからっとした笑顔をあかりに向けた。
「誕生日おめでとうね、あかりちゃん」
「梓おば様……。ありがとう……!」
 あかりがひしと抱きつけば、梓はあかりの背を優しくとんとんと叩いた。
「まったく。もう一八になるんだから、いつまでも甘えたままじゃいけないよ」
 しかし言葉とは裏腹に梓の笑みは穏やかで優しく慈愛に満ちたものだった。まるで娘を愛する母親のような顔に、側にいた秋之介は眼差しを柔らかくして二人の様子を見守っていた。
「ほら、いつまでもこうしちゃいられないだろう?」
 梓に言われてあかりは名残惜しくも梓から身を離す。そしてあかりはぱっと笑うと梓に向き直った。
「うん。いってきます、梓おば様!」
「はいよ、いってらっしゃい。楽しんでおいでね」
 梓に見送られる形であかりたちは玄舞家の邸を出た。
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