292 / 388
第二〇話 青の光
第二〇話 一一
しおりを挟む
「結月、ごめんね……」
引き絞った声はか細く、微かに震えていた。
あかりの体温を宿した雫が一滴、つないだ結月の左手に落ちる。
「なかないで、あかり……」
「え……」
あかりは目を瞠って結月の顔を見た。結月は長いまつ毛を震わせながら薄く目を開いていて、あかりのことを青い瞳に映していた。
「ゆ、づき……?」
「うん」
「結月……。結月、良かった。目が、覚めて……!」
「うん。あかりが、喚んでくれたおかげ」
嗚咽によって言葉を継げないあかりに寄り添うように、結月はつながれた左手に優しく力をこめた。手の大きさこそ違うものの温度はあかりのよく知るもので、安心からか余計に涙が止まらなくなる。
「あかりがね、ごめんねって泣いてるのが、聞こえた。だから、行かなくちゃって思って」
あかりはしゃくりあげながらも必死に言葉を紡ぐ。
「結月が、目覚めないのが、怖くてっ。そしたら、結月も、私が目覚めないとき、こんな思いだったのかなって。私、全然わかって、なくて、ごめんね……!」
結月は「思った通りだった」と呟くと、ゆっくりと身を起こす。そして膝立ちするとあかりを正面から包み込むように抱きしめた。
「おれの方こそ、ごめんね。こんなことしたらあかりを傷つけるかもってわかってたのに、こうすることでしか守れなくて。あかりを、泣かせて」
あかりは言葉もなく、結月の腕の中で激しく首を左右に振った。
結月は幼子をあやすようにあかりの背を撫でさすった。次第にあかりが落ち着いてくるのを腕の中に感じながら、結月は腕の力を緩めるとあかりの顏を覗き込んだ。青い瞳に確かにあかりを映し、優しく柔らかな声であかりの名前を呼ぶ。
「あかり」
あかりはゆるゆると顔を上げた。姿こそ幼いが淡く微笑む結月の表情は大人びていて、年相応の彼の姿が重なって見えるようだった。
「ただいま」
そのたった一言に、あかりは救われるような心地だった。だから、それに見合うだけの想いを乗せて、あかりも応える。
「おかえり、結月」
微笑みに目を細めれば、あかりの眦に残った最後のひとしずくがきらりと弾けて散った。
引き絞った声はか細く、微かに震えていた。
あかりの体温を宿した雫が一滴、つないだ結月の左手に落ちる。
「なかないで、あかり……」
「え……」
あかりは目を瞠って結月の顔を見た。結月は長いまつ毛を震わせながら薄く目を開いていて、あかりのことを青い瞳に映していた。
「ゆ、づき……?」
「うん」
「結月……。結月、良かった。目が、覚めて……!」
「うん。あかりが、喚んでくれたおかげ」
嗚咽によって言葉を継げないあかりに寄り添うように、結月はつながれた左手に優しく力をこめた。手の大きさこそ違うものの温度はあかりのよく知るもので、安心からか余計に涙が止まらなくなる。
「あかりがね、ごめんねって泣いてるのが、聞こえた。だから、行かなくちゃって思って」
あかりはしゃくりあげながらも必死に言葉を紡ぐ。
「結月が、目覚めないのが、怖くてっ。そしたら、結月も、私が目覚めないとき、こんな思いだったのかなって。私、全然わかって、なくて、ごめんね……!」
結月は「思った通りだった」と呟くと、ゆっくりと身を起こす。そして膝立ちするとあかりを正面から包み込むように抱きしめた。
「おれの方こそ、ごめんね。こんなことしたらあかりを傷つけるかもってわかってたのに、こうすることでしか守れなくて。あかりを、泣かせて」
あかりは言葉もなく、結月の腕の中で激しく首を左右に振った。
結月は幼子をあやすようにあかりの背を撫でさすった。次第にあかりが落ち着いてくるのを腕の中に感じながら、結月は腕の力を緩めるとあかりの顏を覗き込んだ。青い瞳に確かにあかりを映し、優しく柔らかな声であかりの名前を呼ぶ。
「あかり」
あかりはゆるゆると顔を上げた。姿こそ幼いが淡く微笑む結月の表情は大人びていて、年相応の彼の姿が重なって見えるようだった。
「ただいま」
そのたった一言に、あかりは救われるような心地だった。だから、それに見合うだけの想いを乗せて、あかりも応える。
「おかえり、結月」
微笑みに目を細めれば、あかりの眦に残った最後のひとしずくがきらりと弾けて散った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる