【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

文字の大きさ
上 下
284 / 388
第二〇話 青の光

第二〇話 三

しおりを挟む
 昴が玄舞家の家臣と仮の住まいを提供している白古家の家臣に指示を出している間に、あかりは白い虎姿の秋之介の背に乗って青柳家の邸を目指して駆けていた。
北玄山を抜けると東青川の上流に出る。川はまだ氾濫していなかったが、一刻の猶予もなさそうだった。
「結月、聞こえる⁉」
 激しい濁流と雨の音にかき消されないようにあかりは叫ぶ。あかりの言霊は赤い光に変わり、天へと昇っていった。そして青い龍の側でぱっと弾け散る。同時に龍ははっと地上に目を遣り、駆け続けるあかりと秋之介の姿を捉えた。龍は地上に向かって勢いよく下降すると途中で人間姿に変じ、危なげなく着地した。そしてあかりとこちらも人間姿に変化した秋之介と合流した。
「結月、大丈夫だった⁉」
「あかり、秋も……。来てくれて、良かった」
「一体何があったんだ? ゆづが本性に戻るなんて」
 結月に余裕はないらしく、張り詰めた表情で口早に現状を説明した。
「邸の周辺に結界術が張られてる。式神を生け贄にしてるせいで結界の質が逆転していて、昴が扱うような守りの結界じゃなくて、破壊の結界になってるみたい。かなり強力で危険な符を使ってるようだけど、五枚の符のうち二枚はおれが無効化した」
 そこまで聞いてあかりは、異変を察知したときに昴が『結界術……⁉』と呟いたこと、結月が本性に戻っていたことの理由に納得がいった。
 結月の説明は続く。
「おれは霊符の扱いに慣れてるし、昴も結界術には明るいから多分一人でもなんとかなると思う。だけどあかりと秋は一緒に行動した方がいい。残りの三つのうちの一つの符を、これで無効化してきてほしい」
 そう言って結月が袂から取り出したのは青い霊符だった。雨に打たれているにも関わらず、紙でできた霊符は一切濡れていない。あかりが慎重に受け取ると、霊符から神威に近い神聖で強力な気と馴染みある結月の気が感じられた。
「場所は上から確認した。二人は兌の方角へ行って。昴には後から坎の符をお願いする」
「結月は?」
 結月は一層厳しい顔つきになると青柳家の邸のある方を睨み据えた。
「今回布陣された符の中央。……一番強力で厄介なところに行く」
「向かわせるだけ危険だからって家臣はそっちに行かせてないんだろ? 一人で大丈夫なのか?」
 結月は邸の方から視線を移すと秋之介を横目に見た。結月はいつも以上に真剣な瞳に覚悟を決めたような顔つきをしていて、あかりは傍らで密かに息をのんでいた。
「できるできないの問題じゃない。おれが、やらないといけない」
 結月の決意は固く、現状他に打つ手が浮かばないことから秋之介も同意するしかなかったのだろう。吐き出しそうになったため息を飲みこんで、秋之介は頷いた。
「……わかったよ。俺たちも無効化出来次第、結月のところに向かう」
「うん。気をつけて」
「結月もね」
 結月は頷くと瞬時に龍の姿に戻って、雨に逆らうように空へ昇っていった。
「私たちも急ごう」
「ああ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。 そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。 しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。 ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。 そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。 「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」 別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。 そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。 

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

薄幸召喚士令嬢もふもふの霊獣の未来予知で破滅フラグをへし折ります

盛平
ファンタジー
 レティシアは薄幸な少女だった。亡くなった母の再婚相手に辛く当たられ、使用人のように働かされていた。そんなレティシアにも幸せになれるかもしれないチャンスがおとずれた。亡くなった母の遺言で、十八歳になったら召喚の儀式をするようにといわれていたのだ。レティシアが召喚の儀式をすると、可愛いシマリスの霊獣があらわれた。これから幸せがおとずれると思っていた矢先、レティシアはハンサムな王子からプロポーズされた。だがこれは、レティシアの契約霊獣の力を手に入れるための結婚だった。レティシアは冷血王子の策略により、無惨に殺される運命にあった。レティシアは霊獣の力で、未来の夢を視ていたのだ。最悪の未来を変えるため、レティシアは剣を取り戦う道を選んだ。

僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強武将と共に超大国を創る

瀬戸夏樹
ファンタジー
時は乱世。 ユーベル大公国領主フリードには4人の息子がいた。 長男アルベルトは武勇に優れ、次男イアンは学識豊か、3男ルドルフは才覚持ち。 4男ノアのみ何の取り柄もなく奇矯な行動ばかり起こす「うつけ」として名が通っていた。 3人の優秀な息子達はそれぞれその評判に見合う当たりギフトを授かるが、ノアはギフト判定においてもハズレギフト【鑑定士】を授かってしまう。 「このうつけが!」 そう言ってノアに失望した大公は、ノアを僻地へと追放する。 しかし、人々は知らない。 ノアがうつけではなく王の器であることを。 ノアには自身の戦闘能力は無くとも、鑑定スキルによって他者の才を見出し活かす力があったのである。 ノアは女騎士オフィーリアをはじめ、大公領で埋もれていた才や僻地に眠る才を掘り起こし富国強兵の道を歩む。 有能な武将達を率いる彼は、やがて大陸を席巻する超大国を創り出す。 なろう、カクヨムにも掲載中。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...