267 / 388
第一九話 水無月の狂乱
第一九話 三
しおりを挟む
邸内では激戦が繰り広げられていた。
陰の国の術使いに退路を断たれた白古家の家臣たちは逃げることすら許されず、相克の火に囲まれて戦いを余儀なくされている。もっとも白古家の家臣は気骨のある者が多いので逃げるというのは選択肢に入っていないのかもしれないが、この不利な状況下ではそれも時間の問題のように思えた。
秋之介たちを探しに前に進みたい一方で、白古家の家臣たちを見過ごすこともできないあかりの足は僅かに遅くなった。昴が訝しげに振り向く。
「あかりちゃん?」
迷って立ち止まっている場合ではないことは頭ではわかっていたが、気持ちの方が追いつかない。あかりの表情から昴は察したらしい。二度目にあかりの名前を呼ぶ声は厳しさに満ちていた。
「あかりちゃん」
「……わかってるよ。でも……」
苦い気持ちで周囲を見渡す。白古家の家臣はもちろん皆、顔見知りだ。その彼らが傷つき、苦しみながら戦っているのに、見捨てるような真似はできない。いよいよあかりの足が止まりかけたとき、凛とした声が響き渡った。
「水神演舞、急々如律令」
青い光が泡のように弾けると、白糸のような柔らかい雨がさあっと降ってきた。あたりに燃え広がっていた火が静かに鎮められていく。白古家の家臣たちは勢いを取り戻して、陰の国の術使いを押していた。
「良かった。追いついた」
そこには微かに安堵の色を浮かべた結月がいた。
「結月……!」
「他のところでも、青柳家が火を消してる。白古家の人たちは、きっと大丈夫。秋たちは?」
「まだなんだ。急ごう」
昴の早口な返答に、結月は頷きを返して廊下を駆けだした。あかりも遅れないように彼らの後についていく。
青柳家のおかげで火の勢いは弱まっており、先ほどよりも先へ進みやすかった。ときおり陰の国の術使いが進路を遮ることもあったが、あかりたちは瞬時に倒すと邸の最奥に向かってひた駆けた。
陰の国の術使いに退路を断たれた白古家の家臣たちは逃げることすら許されず、相克の火に囲まれて戦いを余儀なくされている。もっとも白古家の家臣は気骨のある者が多いので逃げるというのは選択肢に入っていないのかもしれないが、この不利な状況下ではそれも時間の問題のように思えた。
秋之介たちを探しに前に進みたい一方で、白古家の家臣たちを見過ごすこともできないあかりの足は僅かに遅くなった。昴が訝しげに振り向く。
「あかりちゃん?」
迷って立ち止まっている場合ではないことは頭ではわかっていたが、気持ちの方が追いつかない。あかりの表情から昴は察したらしい。二度目にあかりの名前を呼ぶ声は厳しさに満ちていた。
「あかりちゃん」
「……わかってるよ。でも……」
苦い気持ちで周囲を見渡す。白古家の家臣はもちろん皆、顔見知りだ。その彼らが傷つき、苦しみながら戦っているのに、見捨てるような真似はできない。いよいよあかりの足が止まりかけたとき、凛とした声が響き渡った。
「水神演舞、急々如律令」
青い光が泡のように弾けると、白糸のような柔らかい雨がさあっと降ってきた。あたりに燃え広がっていた火が静かに鎮められていく。白古家の家臣たちは勢いを取り戻して、陰の国の術使いを押していた。
「良かった。追いついた」
そこには微かに安堵の色を浮かべた結月がいた。
「結月……!」
「他のところでも、青柳家が火を消してる。白古家の人たちは、きっと大丈夫。秋たちは?」
「まだなんだ。急ごう」
昴の早口な返答に、結月は頷きを返して廊下を駆けだした。あかりも遅れないように彼らの後についていく。
青柳家のおかげで火の勢いは弱まっており、先ほどよりも先へ進みやすかった。ときおり陰の国の術使いが進路を遮ることもあったが、あかりたちは瞬時に倒すと邸の最奥に向かってひた駆けた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる
まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。
そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る
月
ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。
能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。
しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。
——それも、多くの使用人が見ている中で。
シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。
そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。
父も、兄も、誰も会いに来てくれない。
生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。
意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。
そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。
一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。
自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。
異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる