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第一七話 諦めない未来
第一七話 五
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余韻を楽しむ余裕もないまま、お花見の翌日からは目を背けられない現実が待っていた。
お花見から十日以上経ったこの日は、ここ最近で最も厳しい戦いが繰り広げられていた。陰の国の術使いがいくつもの呪詛を式神にのせて放つのを、陽の国の術使いが呪詛返しで応戦する。できることなら式神を傷つけたくないが、呪詛返しよりも慎重にならなければならない解呪をする余裕はなかった。
「昴! 巽の方角だ!」
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
いち早く呪詛の気配を察知した秋之介が叫んだ通り、呪詛を乗せた鳥の式神が巽の方角から飛んできた。それを昴が結界で防ぐ。
あかりも結月の援護を受けながら、霊剣を手に大きく舞う。
「身上護神、心上護神、青柳護神、急々如律令」
「安足遠、即滅息、平離乎平離、即滅名、斬斬鬼命、斬鬼精、斬足火温、志緩式神、新雲、遠是蘇、斬斬平離、阿吽、絶命、即絶、雲、斬斬足、斬足反!」
今日のうちで何回目になるかわからない遠当法を唱え、周囲の邪気をなぎ払うように霊剣を振りぬく。赤の光の波紋が広がり、それに当てられた陰の国の術使いが気を失い倒れていき、主を失った式神は霊符に戻っていった。
あかりは続けて霊剣で四縦五横に宙を切り、禹歩を踏んだ。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
五横目を斬り払うと同時にあたたかな赤があたりを覆い、式神の魂が浄化されていく。
あかりはそれをほっとしながら見届けるとがくりと膝を折った。側にいた結月がすかさずあかりの身体を支えることで倒れはしなかったが、繰り返されるいくつもの術の行使に体力は大きく削られていた。
「あかり、大丈夫?」
あかりの身体を支えたまま結月が顔を覗き込む。結月にも疲れが見て取れたが、それ以上に心配の色を青い瞳に浮かべていた。
あかりは力強く頷き返す。
「だ、いじょうぶ。まだ、倒れるわけには、いかないんだから……!」
荒い呼吸の合間に吐き出す言葉は強がりではなく、あかりの本心だ。
(これだけの戦いだし、お父様もいるかもしれない。お父様を救うまで私は倒れられない!)
二人で会話をしている間に、少し離れたところから秋之介と昴が駆け寄ってきた。
「よくやったな、あかり。おまえのおかげでこの辺の邪気は払われたぜ」
「一旦休もう。このままだといざって時に危ないかもしれない」
焦りはあったが昴の言うことは最もだ。喉まで出かかった「でも」という言葉を飲み込み、あかりは頷いた。
あかりが邪気払いをした直後とあって、辺りの気は澄んでおり静かなものだった。どうやらあかりたちがいる前線は他の戦場からはそれなりに離れているらしく、戦いの音もほとんど聞こえない。この分なら敵が近づいてきてもすぐに気がつくだろうと、あかりたちはその場に腰を下ろした。
お花見から十日以上経ったこの日は、ここ最近で最も厳しい戦いが繰り広げられていた。陰の国の術使いがいくつもの呪詛を式神にのせて放つのを、陽の国の術使いが呪詛返しで応戦する。できることなら式神を傷つけたくないが、呪詛返しよりも慎重にならなければならない解呪をする余裕はなかった。
「昴! 巽の方角だ!」
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
いち早く呪詛の気配を察知した秋之介が叫んだ通り、呪詛を乗せた鳥の式神が巽の方角から飛んできた。それを昴が結界で防ぐ。
あかりも結月の援護を受けながら、霊剣を手に大きく舞う。
「身上護神、心上護神、青柳護神、急々如律令」
「安足遠、即滅息、平離乎平離、即滅名、斬斬鬼命、斬鬼精、斬足火温、志緩式神、新雲、遠是蘇、斬斬平離、阿吽、絶命、即絶、雲、斬斬足、斬足反!」
今日のうちで何回目になるかわからない遠当法を唱え、周囲の邪気をなぎ払うように霊剣を振りぬく。赤の光の波紋が広がり、それに当てられた陰の国の術使いが気を失い倒れていき、主を失った式神は霊符に戻っていった。
あかりは続けて霊剣で四縦五横に宙を切り、禹歩を踏んだ。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
五横目を斬り払うと同時にあたたかな赤があたりを覆い、式神の魂が浄化されていく。
あかりはそれをほっとしながら見届けるとがくりと膝を折った。側にいた結月がすかさずあかりの身体を支えることで倒れはしなかったが、繰り返されるいくつもの術の行使に体力は大きく削られていた。
「あかり、大丈夫?」
あかりの身体を支えたまま結月が顔を覗き込む。結月にも疲れが見て取れたが、それ以上に心配の色を青い瞳に浮かべていた。
あかりは力強く頷き返す。
「だ、いじょうぶ。まだ、倒れるわけには、いかないんだから……!」
荒い呼吸の合間に吐き出す言葉は強がりではなく、あかりの本心だ。
(これだけの戦いだし、お父様もいるかもしれない。お父様を救うまで私は倒れられない!)
二人で会話をしている間に、少し離れたところから秋之介と昴が駆け寄ってきた。
「よくやったな、あかり。おまえのおかげでこの辺の邪気は払われたぜ」
「一旦休もう。このままだといざって時に危ないかもしれない」
焦りはあったが昴の言うことは最もだ。喉まで出かかった「でも」という言葉を飲み込み、あかりは頷いた。
あかりが邪気払いをした直後とあって、辺りの気は澄んでおり静かなものだった。どうやらあかりたちがいる前線は他の戦場からはそれなりに離れているらしく、戦いの音もほとんど聞こえない。この分なら敵が近づいてきてもすぐに気がつくだろうと、あかりたちはその場に腰を下ろした。
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